でんぱ組.incが5曲入りミニアルバム「でんぱぁかしっくれこーど」をリリースした。
本作はでんぱ組.incがグループ名の由来である“電波ソング”を令和の時代にアップデートしたコンセプチュアルな1枚。収録されているのは畑亜貴とAiobahnによる「でんぱぁかしっくれこーど」、けんたあろはとサイレンジ!と玉屋2060%(Wienners)が手がけた「でんぱっていこーぜ!!」、まふまふ提供の「我ら令和のかえるちゃん!」、秋葉原の伝説的ユニット・FICEの楽曲をヒャダインこと前山田健一の編曲、ラップ詞でアップデートした「接吻~らぶらぶ♥ちゅ~」、ARM(IOSYS)とMOSAIC.WAVという電波ソング界の重鎮2組がタッグを組んだ「オーギュメンテッドおじいちゃん」の計5曲だ。
音楽ナタリーではこの異色作の魅力に迫る特集記事を前後編にわたって掲載する。前編ではメンバー8名に(愛川こずえは体調不良のため欠席)、後編ではでんぱ組.incのプロデューサーを務めるもふくちゃん(福嶋麻衣子)とでんぱ組OGの夢眠ねむにインタビュー。収録されている5曲についてそれぞれの視点からじっくりと語ってもらった。
取材・文 / 大山卓也撮影(後編) / 星野耕作
[前編]でんぱ組.inc インタビュー
好きな言葉は魔改造
──新作は電波ソングを令和に復活させるというテーマで作られたそうですね。
相沢梨紗 そうなんです。でんぱ組.incは秋葉原で生まれて電波ソングから始まったグループなので、秋葉原に埋もれている伝説を後世に伝えていきたくて。
──電波ソングと聞いて原点回帰的なものをイメージしてたんですが、これはなんというか、もっと異形の作品ですよね。
古川未鈴 うん、これ原点回帰じゃない可能性がかなりある(笑)。でんぱ組.incが電波ソングをやるって言ったらみんな初期の「わっほい?お祭り.inc」みたいな曲をイメージするだろうけど、今回かなり魔改造されてるんですよ。魔改造っていう言葉が私すごく好きで(笑)、これは“令和の魔改造電波ソング”なんです。
──電波ソング自体は平成に生まれた文化ですが、今回現代的にアップデートされたことで当時を知らないファンにも刺さる内容になったと感じます。
古川 このアルバムはガトリング砲みたいな攻撃力が高い武器のイメージなんですよね。私が高校を辞めて秋葉原に飛び込んできたときの「アイドルになりたい!」という気持ちはめちゃくちゃ強かったし、自分は安室奈美恵さんくらい歌がうまいと本気で思ってたし、SPEEDにもなれるしモーニング娘。にもなれるって信じてた。あの頃の謎の自信みたいな強いものがこのアルバムに詰まってる気がするんです。
相沢 わからない人にはわからないかもしれないギリギリの作品だけど、これを好きだと言ってもらえたらすごくうれしいですよね。
古川 今回クリエイターの皆さんもだいぶ好き勝手にやってて、“好き”が詰まったアルバムだなと私は思っています。それがアキバでなくても電波ソングでなくても、形は違えど「自分にはこれしかないんだ」というものをみんな持っているはず。だからこの感覚は伝わるんじゃないかと思います。
秋葉原で生まれたモノリス
──初期メンバーが秋葉原で育ってきたのはわかるんですが、ほかのメンバーはどうですか? 秋葉原への思いには温度差もあるのでは?
小鳩りあ 私は福岡出身なんですけど、秋葉原をテレビで観てすごく憧れてたんです。みんなが自分の好きなことをやってる街の空気がいいなと思って、だから自分も福岡のメイドカフェで働き始めたりして。
藤咲彩音 私は子供の頃からコスプレしてて、ダンスパーティでFICEさんみたいな秋葉原ゴリゴリの音楽を無意識にずっと聴いてた人だったから、このアルバムを聴くとあの頃の記憶がバーッと走馬灯のようによみがえってくる。
小鳩 秋葉原に限らず誰でもそういうルーツがあると思うんです。すごく好きだった時代や街をみんなそれぞれ持ってる。その気持ちをずっと覚えててほしいという気持ちがありますね。
鹿目凛 私はでんぱ組.incは好きだけど秋葉原の深いところはよく知らないし、先輩方に比べると思い入れはそんなにないかもしれないです。でも今回りささんから「ファンの方でも秋葉原の文化に詳しくない人はたくさんいるんだから、ぺろりんはその人たちの受け皿になれる大切なポジションなんだよ」と言われて大丈夫だと思えました。
天沢璃人 わしも昔のことはよく知らないから、みんなが「2000年代初期の秋葉原が一番よかったよね」とか話してるのを聞いて疎外感があった。そんなの知らんし、自分たちは今を必死に生きてるから「うるせー!」ってなって、もふくさんに言いに行ったんです。
──もふくちゃんはなんて言ってました?
天沢 人間は間違いを繰り返す生き物だから戦争の悲惨さを語り継ぐ必要があるし、そうやってその時代のいいことも悪いことも後世に伝えることが大切で、自分たちが死んだあとも少しでも後世の人たちにその思いが伝わっていたら過去の時代をアップデートできるんだよ、みたいな話をしてくれました。この「でんぱぁかしっくれこーど」がそういうものになるかもしれなくて、だったらすごく素敵だなと思いました。
──ひなちゃんは2000年代初期にはまだ生まれてないですよね。
高咲陽菜 はい。でも今TikTokとかでも昔の曲が流行ってたりしてて。流行は何回も繰り返されてるから、当時を知ってるかどうかはあんまり関係ないのかなって。
藤咲 今の時代に私たちがこれを歌うことで、今流行ってる音楽だけじゃなく、もっと深いところにもいい音楽があったんだよって伝えていけたらいいよね。
高咲 将来誰かが「昔はよかった」って振り返るときの、その昔を作ってるのが今の私たちだから。このタイミングでこういう電波ソングをやること自体がすごくいいなと思います。
──あおにゃんも当時の秋葉原の文化は体験してない側ですね。
空野青空 私は富山でニコ動を観てた人間なので、確かにあんまりピンとは来てないかも。でも話を聞いてめちゃくちゃ面白い世界があったんだなって。たまたまそこにいた濃い人たちが化学反応を起こして秋葉原が面白い街になった。そこででんぱ組.incができて一緒に成長していった。そんな秋葉原の歴史の中で生まれて、今やっと形になったモノリスがこの「でんぱぁかしっくれこーど」なのかな、歴史的遺産みたいなものなのかなと思いました。
歴史の語り部が伝える「でんぱぁかしっくれこーど」
──アルバムはタイトル曲「でんぱぁかしっくれこーど」で幕を開けます。荘厳な雰囲気の中、宇宙規模の深遠な言葉が紡がれていく様は圧巻ですね。
空野 畑亜貴さんマジでヤバいな!って気持ちになりますよね。なんでこんなふうに秋葉原とかでんぱ組.incのことを言語化できるのかと。聴けば聴くほど理解が深まるし、いろいろ想像できてしまうし。
古川 畑亜貴さんはいつもでんぱ組.incの未来を書いてくれるんです。「でんでんぱっしょん」の「世界中に連れてっちゃうけど」も海外でライブをやる前からあった歌詞だし。となってくると、この曲はいったいどういうことなんだって(笑)。「でんぱ組.incが秋葉原の歴史の語り部になるんだよ」というメッセージを受け取ったんだと私は勝手に思ってます。
相沢 2000年代初め頃の秋葉原は街自体にすごく活気があったし、この街で生きていくのが幸せだと思える場所だったなって思うんです。でもあと何十年かのうちに私たちはみんな死んでいくんですよね。その前に何かをしなきゃいけないってことを言われてる気がする。
──Aiobahnさんのトラックも曲調がどんどん変化していって、原始から未来に続く壮大な物語のようですね。
藤咲 まだ正解のパフォーマンスがわからないんですよね。お客さんが観たことないものになるかもしれない。
鹿目 今はまだわからない部分も、今後ライブをやっていくうちにファンの人と一緒にわかるようになったりするのかもしれなくて、それが今から楽しみです。
悪ふざけキャラが際立つ「でんぱっていこーぜ!!」
──2曲目の「でんぱっていこーぜ!!」は先行配信されたハイテンションな楽曲です。ライブパフォーマンスは歌もダンスもかなり激しいですよね。
藤咲 うん、この曲やると「プレシャスサマー!」の倍以上疲れる(笑)。しょっぱなから走り回って首取れる勢いで踊るから。
小鳩 歌詞の量もものすごいしね。
鹿目 「破!to the Future」とかは「ついてこれないなら置いてくぜ」くらいのメッセージがあるけど、「でんぱっていこーぜ!!」は「みんな一緒に連れてくよ!」みたいな感じがある。
相沢 作詞は「MIKATAせずにはいられないっ!」に続いてけんたあろはさんなんですけど、いろんな登場人物がセリフをしゃべってるみたいなイメージがあって。レコーディングで「ちょっと私の見解で歌ってみますね」って悪ふざけしながら録らせてもらったら、それがすごく楽しくて。
藤咲 確かにこんなに遊んだのは初めてかもしれない。
相沢 いろいろやってく中でみんなのキャラが際立ってきたよね。
小鳩 りとくんの「人類全員(大好きだよ♡)」ってところ、包み込まれている感じがする。
天沢 わしはセリフ言うのがまだ恥ずかしくて半泣きになりながら録りました(笑)。でも使ってもらえてよかったです。
次のページ »
カエル全員俺のこと大好き「我ら令和のかえるちゃん!」