音楽ナタリー Power Push - DAOKO

心の穴も含めて自分を愛せるように

心の奥を溶かして吐き出していくような作業

──2曲目「さみしいかみさま」と3曲目「ゆめみてたのわたし」は、「日本アニメ(ーター)見本市」に出品された「GIRL」というアニメ映像作品に使用されていますが、どういう経緯で作った曲なんですか?

これは、カラーさん(庵野秀明が設立したアニメ制作会社)とコラボしようという話が先にあって、じゃあ「ME!ME!ME!」のときと同じで吉崎(響)監督と一緒に作りましょうと。で、吉崎さんとツーマンで、組み合い、支え合い、みたいな感じで作っていったんです。

──ということは、楽曲のコンセプトは映像サイドからの発信?

そうです。吉崎さんの頭の中にあるものに私が融合していったような感じ。吉崎さんのチームはみんな男性で、女性が見ている世界はどうなんだろう、それを知りたいっていうのがテーマにあって、それがそのまま「GIRL」っていうタイトルになってるんです。で、最初にラフなアニメーションができていたので、それを見て主人公の女の子を自分に置き換えて歌詞を書いていったんです。

──そういう作詞作業はどんな感じでしたか?

DAOKO

自分の現状とか日々感じてること、心の奥のほうを溶かして吐き出していくような作業でした。でも、アニメに合うように書いてるので、主人公の子を神様っていう設定──自分で自分のことをそんなふうに思ってないですけど、最初から魔法を使うシーンがあったので、そこからインスピレーションを受けて、私が神様っていうことにしたんです。主人公の女の子は自分の世界を作ってるし、魔法を使えたりするっていうのは人間離れしてる存在だなと思って。だから、そういうフィクションの部分もありつつ、内面の気持ちを歌ってるところはノンフィクションっていう。メルヘンと現実世界が入り混ざったような歌詞になってるんです。

──「さみしいかみさま」「ゆめみてたのわたし」の2曲はそれぞれどんな状況をイメージして作ったんですか?

アニメとリンクしてるので、「さみしいかみさま」は自分の想像した世界にいる女の子なんですけど、アニメの後半は渋谷っていう現実世界に舞い降りてくるので「ゆめみてたのあたし」のほうは人間味が増すというか、普通の女の子としての感情が出てると思います。

──2曲で一編の世界観を作り出しているのでニコイチと捉えていい2曲だと思いますが、1人の人間の二面性を描いているようにも取れるし、タイプの違う2人の女の子を描いているようも取れる。そこが面白いなと思いました。

私的には1人の人間を書いていて、その人にある二面性をちゃんと表現できてよかったなと思ってます。

──この主人公の女の子は強い承認欲求の持ち主だと思ったんです。「さみしい~」のほうは自分の存在が自分の理想と重なっているかという自己承認欲求、「ゆめみてた~」のほうは他人から認められたいという他者承認欲求を抱えているんじゃないかって。ただ、いずれにしても、この女の子は寂しがり屋さんで、胸の奥では人の温もりや愛情、感情的なものを欲してる。

そうですね。かなりエモーショナルな部分を全開にした曲ではあって。私は誰でも疑えちゃう人間で、どんな近しい人でも「本当はどう思ってるかわからないな」ってよく思うし、信じないようにしようと思えばまったく信じずにいられるから、けっこう人間関係って危ういなと思うんです。でも、なんでそれが成立するかといったときに、やっぱり愛がつないでくれてるんだなって思うようになって。それは男女間だけの愛じゃなくて、もっと普遍的な愛、人類愛のほうに近いんですけど。日頃、感じてるそういうことを曲に書きたいなと思っていたので、自然と愛がテーマになってたんです。

「DAOKOをやっててよかったんだ」

──できあがった「GIRL」の映像を観たとき、どんな感想を持ちましたか?

初めて観たときは感極まっちゃって。涙がチョチョ切れて、すごい泣いちゃったんです。それは、当時の自分の状態に重なったところもあって。「これから自分をどう見せていくんだろう?」「DAOKOとはなんだ?」というようなことを考えて迷路にハマっていた時期だったんです。落ちてた時期でもあったので、映像を観たときにかなり救われて、不思議と自分を認めてもらえたような気持ちになりました。自分から切り出して書いたものなんだけど、別の人がまったく違う表現の仕方で美しく表現してくれて、「あ、よかった。DAOKOをやっててよかったんだ」って。で、すぐ吉崎さんに感動しましたっていうお手紙を書いたんです。「もう感涙」という内容の。

──自分の中にある二面性とか、誰にも吐き出せないモヤモヤを抱えたままでいいんだ、と言われたような感覚だったんですか?

近いです。最近、自分なりにもそう思えてきていて。「心に空いた穴を満たすために曲作りをしてるんです」と昔よく言ってたんですけど、穴が塞がると音楽をしなくなっちゃうんだろうなっていうのもあるし、穴を含めての自分というか、そういう自分をやっと許容できるようになってきたところがあるんです。吉崎さんとの作品作りもそうだし、自分をちゃんと愛せる落としどころみたいなのを見つけられてきたかなって。

──ひょっとして、この2曲の歌詞はスルスルっと書けたのでは?

そうですね。よくわかりましたね、さすがです(笑)。自分の世界全開でやらせていただいた分、楽しんで書いた部分がありましたし、スルスルとスムーズに書けました。「ShibuyaK」はもうちょっと緻密な頭の使い方をしてたというか、ここはこう見せたいっていうところがあったのでけっこう時間がかかったし、書き直しもしたんですけどね。

──それにしても、「GIRL」の映像は本当に面白かったです。理想と現実、希望と絶望、エロスとタナトス、聖と俗……相反するいろんなものがグチャッと詰め込まれていて。

そうなんですよ。けっこう生っぽい映像なんですよね。すごい絶妙。吉崎さんは人への接し方というか、人の感じ方が私と近いんですよね。性別は違うけど、話してると一緒だなって思う。ある意味すごく変態なんだなと思うし(笑)、シンパシーを感じるところは多々あるので、寄り添い合って制作できたというか、かなり運命的な出会いでできた奇跡の作品だと思いますね。

DAOKO
ニューシングル「Shibuya K / さみしいかみさま」 / 2015年10月21日発売 / TOY'S FACTORY
初回限定盤A [CD+DVD] / 1944円 / TFCC-89576
初回限定盤B [CD+DVD] / 1944円 / TFCC-89577
通常盤 [CD] / 1296円 / TFCC-89578
初回限定盤A CD収録曲
  1. さみしいかみさま
  2. ゆめみてたのあたし
  3. ShibuyaK
初回限定盤A DVD収録内容
  • 日本アニメ(ーター)見本市 サードシーズン 吉崎響×DAOKO 企画「GIRL」
初回限定盤B、通常盤 CD収録曲
  1. ShibuyaK
  2. さみしいかみさま
  3. ゆめみてたのあたし
初回限定盤B DVD収録内容
  • 「ShibuyaK」MUSIC VIDEO
  • 8/17ワンマンDAOKO THE LIVE! 映像
DAOKO(ダヲコ)

DAOKO

1997年生まれ、東京出身の女性ラップシンガー。ニコニコ動画のニコラップに投稿した楽曲で注目を集め、2012年に1stアルバム「HYPER GIRL-向こう側の女の子-」を発表。ポエトリーリーディング、美しいコーラスワーク、ラップを絶妙なバランスで織り交ぜたドリーミーな世界観で話題を呼ぶ。2015年3月にはTOY'S FACTORYよりアルバム「DAOKO」にてメジャデビュー。それまで顔を隠して活動していたが、10月にシングル「ShibuyaK / さみしいかみさま」発売のタイミングで顔を公開した。