音楽ナタリー Power Push - DAOKO

心の穴も含めて自分を愛せるように

小室哲哉サウンドが斬新な音に聞こえた

──その8月のワンマンで初披露された新曲「ShibuyaK」は、新境地を開拓するような小室哲哉サウンド風のシンセポップナンバーですね。

今までのDAOKOファン的には、「あれ? ちょっと違う風が吹いてきたな」みたいなインパクトがあると思います。ライブのときもお客さんがどういう反応をするのかなっていうのは気になってました。

──トラックを最初に聴いたときはどう思いましたか?

「おおー」って。「新鮮だなあ」という感じでした(笑)。

──DAOKOさんは1997年生まれで、小室サウンドの全盛時代を知りませんからね。

そうなんですよ。小室さんをイメージさせる作りにあえてしてるんですけど、私は通ってきていないので当時のイメージがわからなくて。でも血が入ってない分、斬新な音に聞こえたんです。「これは新しい!」みたいな。

──新しいことへの挑戦に不安はなかったですか?

最初はちゃんと乗り切れるのか、DAOKOとして消化できるのかっていうのを懸念してたんですけど、取り組んでみると歌詞の力もあって、DAOKOカラーがちゃんと織り込まれたなって。いいところに着地できたなって思ってます。

──タイトルは、1990年代に流行した「渋谷系」ともかかっているんですよね。

そうです。渋谷系の音楽はフリッパーズ・ギターとか、(本作のプロデューサーを務めている)片寄(明人)さんとか、自分の趣味と合うので聴くんです。それを小室サウンドと絡めていくと新しい渋谷系になるっていう。しかも、その時代を通ってないティーンがそれを発信していくことで、新しい渋谷系につながっていけばいいなと思ってるんです。

苦手な瞬間もあるけど、嫌いにはなれない渋谷

──「ShibuyaK」の歌詞は、どのようにして書いていったんですか?

「DAOKO」(2015年3月リリースのメジャー1stアルバム)を出した時点で、次は渋谷をテーマにした曲を書こうと念頭に置いてたんです。レコード会社も、(事務所の)2.5Dがあるパルコも、友達と遊びに来るときも渋谷が多いので、渋谷を訪れることは日常的なことなんですね。ただ、これまではなんとなく“都会”っていうくらいの認識だったんですけど、一歩踏み込んで渋谷という街について知りたいと思って、渋谷のあちこちに写真を撮りに行ってみたりしたんです。

──そうしたら渋谷のどんな面に気付きました?

DAOKO

人も多くて、モノも多くて、いろんな物が集まってきていて流動的ではあるんだけど、どこか寂しく感じるような瞬間があるのが自分的には引っ掛かったんです。だから、そっちの面を歌詞に反映させようと思って。渋谷について書くといってもご当地ソングみたいになっちゃうと面白味がないというか、薄まった表現になってしまうから、DAOKOとして消化していくためには、そうやって心でキャッチしたものを書いていこうと。

──結果、歌詞には渋谷に対する愛憎、両方の気持ちが入ってますね。

カオスな街なんだけど、どこか愛らしいところがあるし。

──でも、騒がしい場所だからこそ、孤独を感じる場面もあるし。

そうなんですよ。街が生き物っぽいというか。それがすごく印象的で。

──インディーズ時代にインタビューしたとき、渋谷は苦手って言ってましたよね。「DAOKO」に収録されてる「ゆめうつつ」でも「めまいが襲う 渋谷の交差点」って書いてたし。

そういうこともあるんです(笑)。

──それが今回は「今じゃなんだか安心する」って書いてて。

安心するときもあるっていうか、今でも体調によりますよ(笑)。体調というか心の調子。心が敏感な日もあるんで、そういうときは「はあ……」となるときもあります。でも総体的に見ると、嫌いにはなれない、っていうところに落ち着いてきた。苦手な瞬間もあるけど、突き放せない。どっちかというと「がんばって一緒にやっていきたいです!」みたいな(笑)。そんなふうに、けっこう前向きになってきました。

顔を公表するのにすごくいいタイミングだったと思う

──「ShibuyaK」のミュージックビデオでついに顔を公開しましたが、その点についてはどう考えていますか?

隠すのが当たり前になっていたので、公開したことに対して心が追いついてない部分があって。顔が出ることに対して不安がないかと言ったら……全然ある。やっぱり反応が気になるし、顔を隠してやってきたので、それぞれが持ってるDAOKO像があると思うんですよ。そこで実物を突きつけられたときに拒絶反応を起こす人もいるだろうし……。

──でも反対に、より惹きつけられる人もいるわけで。

うん。どっちもあるとは思うんですけどね。

──だったらポジティブに考えたほうがよくないですか?(笑)

そうですね(笑)。まあ、ワンマンが終わって、もっとたくさんのお客さんとちゃんとコミュニケーションを取りたいという方向に気持ちがシフトしていったので、すごくいいタイミングなのかなと思ってます。ちゃんと面と向かって、顔と顔でコミュニケーションを取ったほうが絶対つながりは深くなると思うので。

──この曲では振りにも初挑戦していますが、サビのところの手振りにはどんな意味があるんですか?

あれは交差点っていう意味と、街を切り取ってるっていう意味なんです。交差点にもなってるし、写真のフレーム枠にもなってるっていう。

──MVの撮影は大変でしたか?

大変でした。渋谷を回りまくって、2日間びっちり撮影だったんで。情景に合わせて洋服もアクセサリーも全部変えて撮っていたから着替えも多くて。1日で何十回と着替えて、髪の毛セットしてっていう。

──そういう撮影は初めて?

ここまでガッツリなのは初めて。1日目は深夜に終わって、翌日が早朝からだったんで、起きてもフラフラーみたいな(笑)。スタミナは大事だなって痛感しました。疲れてくると顔にも出てきちゃうからコンディションを整えるのも大切ですね。人前に出るってこういうことなんだと思いましたね。

──仕上がったMVに対する感想は?

MVに出てる顔が全部自分なんで、まだヘンな感じがします。演技シーンもあったりするし(笑)。初めてDAOKOの顔が登場する作品だからすごく重要だと思うんですけど、今までの流れも汲んだはかなげな印象の色合いだったりとか演出だったりするし。サウンド的にはけっこうバキバキで今までとまったく違う方向なんですけど、歌詞には今までのDAOKOが引き継がれているので、わかってくれる人はわかってくれるんじゃないかなって。今までのファンの人も安心してみてもらえるんじゃないかと思ってます。

ニューシングル「Shibuya K / さみしいかみさま」 / 2015年10月21日発売 / TOY'S FACTORY
初回限定盤A [CD+DVD] / 1944円 / TFCC-89576
初回限定盤B [CD+DVD] / 1944円 / TFCC-89577
通常盤 [CD] / 1296円 / TFCC-89578
初回限定盤A CD収録曲
  1. さみしいかみさま
  2. ゆめみてたのあたし
  3. ShibuyaK
初回限定盤A DVD収録内容
  • 日本アニメ(ーター)見本市 サードシーズン 吉崎響×DAOKO 企画「GIRL」
初回限定盤B、通常盤 CD収録曲
  1. ShibuyaK
  2. さみしいかみさま
  3. ゆめみてたのあたし
初回限定盤B DVD収録内容
  • 「ShibuyaK」MUSIC VIDEO
  • 8/17ワンマンDAOKO THE LIVE! 映像
DAOKO(ダヲコ)

DAOKO

1997年生まれ、東京出身の女性ラップシンガー。ニコニコ動画のニコラップに投稿した楽曲で注目を集め、2012年に1stアルバム「HYPER GIRL-向こう側の女の子-」を発表。ポエトリーリーディング、美しいコーラスワーク、ラップを絶妙なバランスで織り交ぜたドリーミーな世界観で話題を呼ぶ。2015年3月にはTOY'S FACTORYよりアルバム「DAOKO」にてメジャデビュー。それまで顔を隠して活動していたが、10月にシングル「ShibuyaK / さみしいかみさま」発売のタイミングで顔を公開した。