ナタリー PowerPush - クリープハイプ
2人はライバル!? 尾崎世界観×松居大悟対談
自分が“間違ってない”って思えた
──ちなみにふたりが共感した映画って?
松居 僕、尾崎くんに勧められて河瀬直美監督の「萌の朱雀」を観たんですけど、すごく良くて。基本的に2人とも邦画だと山下(敦弘)監督とか塩田(明彦)監督が好きですね。
尾崎 どうしようもない状況を笑い飛ばしたり、それをネタにしたり、逆手に取ったり。僕らの表現って、どうしようもない状況をひっくり返して人に伝えるっていう作風なんですよね。で、映画の好みで根っこになってる部分が近いこともわかって。
松居 クリープハイプって、わざわざ表現する必要のないようなことを歌ってくれるから、すごく救われる。尾崎くんもそうだけど、僕も陽のあたる価値がないような人を描くのが好きだし。
尾崎 ピンサロ嬢をストーカーする話なんか誰も観なくたって、生きていけますからね。
松居 ははははは。
尾崎 でもやっぱりそういう話は切ないし、切実だし。それに思い入れがないと、わざわざそんなストーリーは作らないじゃないですか。ゴジゲンはちゃんと支持してくれるお客さんがいて、共感する人がいっぱいいることに衝撃を受けたし。それを見て、自分が曲の中で題材にしてる人たちや歌ってる内容が“間違ってない”って思えたんで。ほかのバンド見ても、そういうふうには思えなかったんですよね。まあ、思えたとしても、バンドだったら僕も素直に受け止められなかっただろうし。
松居 でも、尾崎くんとはもちろん話も合うし、仲良いんですけど、「負けられねえ」って部分もありますね。クリープハイプの音楽に自分の作品が負けた気がしてるのに、尾崎くんに仲良くしてもらっても良くないなって。
尾崎 そういうことを考えてるところも同じで。
──あくまでライバルであると。
尾崎 そうですね。しかも、松居くんは自分の作品の中ですごく音楽を大事にしてるんですよね。
映像と音楽がぶつかり合うPV
松居 で、この流れからPVの話にいくと……。
尾崎 お、いくね。自分で話を切り替えた(笑)。
松居 いや、今話がつながりそうだったから(笑)。最初から、尾崎くんは音楽に寄ったものを作ってほしくないっていう話をしてて。映像と音楽がぶつかり合ってるような内容がいいよねって。でも僕は最初、音楽に合わせようとしていたんですよ。PVを作るなら、その音楽に基づいて見せ方を考えるべきだとか思ってたんですけど、話していくうちに映像が音楽に負けないようにしてほしいって言ってくれて、僕もそれを意識して取りかかったんです。
──PVの制作は尾崎さんからの依頼だったんですか?
尾崎 2人で飲んでるときに「PVを作りたい」って話をしたんですけど、そういう映像とのコラボレーションは、自分たちが結果を出してからと思ってたんですよ。でもディレクターが乗ってくれそうな空気だったんで。
松居 その前に「一緒に短編映画を撮ろう」みたいな話もしてたんですよ。で、自主でもいいからCDにDVDを付けられたらいいよねって話をして。「それ全然やる」って伝えたら、尾崎くんがビクターの人に提案してくれて。それが面白がってもらえてちゃんと撮ることになったんです。
自分がグッとくるところがいっぱいある
──出来上がった映像は、ショートフィルムの中に「オレンジ」のPVが入っている構成ですね。どうしてこういう形に?
松居 「イノチミジカシコイセヨオトメ」で映像を撮るってときに、どう作るか?って話をしてたら、尾崎くんが「すっげえ汚い部屋で女の子が、モリモリ飯食ってるみたいな」って言ってきて。それすごくいいなと思って。それが最後のシーンで、曲がかかった瞬間に鳥肌が立つような形にしたいなと思って。そこからこの女の子は誰だろう? ピンサロ嬢だよな、とか考えた。で、この女の子は何があって、飯食ってたらカッコいいのか。すげえつらいことがあってなのかなとか、話を作っていったんです。
──実際ショートフィルムを観てどうでした?
尾崎 僕は自分自身が感動したくて音楽を作ってるんですけど、今回自分が大好きな映画で、その思いを体験できたことに感謝してますね。観てて自分がグッとくるところがいっぱいあるんで。
CD収録曲
- 愛の標識
- イノチミジカシコイセヨオトメ
- 手と手
- オレンジ
- バイト バイト バイト
- ミルクリスピー
- 身も蓋もない水槽
- ABCDC
- 火まつり
- 蜂蜜と風呂場
- チロルとポルノ
- exダーリン (初回ボーナストラック)
初回限定盤DVD収録内容
- ショートフィルム『イノチミジカシコイセヨオトメ』
- ミュージックビデオ『オレンジ』
クリープハイプ(くりーぷはいぷ)
尾崎世界観(Vo, G)、小川幸慈(G)、長谷川カオナシ(B)、小泉拓(Dr)の4人からなるロックバンド。2001年に結成され、2009年11月に小川、長谷川、小泉が正式メンバーとなり、精力的に活動を展開。2010年に発売した1stフルアルバム「踊り場から愛を込めて」がCDショップを中心に話題となり、一気に名前を全国区に広めた。2011年7月にミニアルバム「待ちくたびれて朝がくる」を発表し、同年10月の渋谷CLUB QUATTROでのワンマンライブはソールドアウトとなった。2012年4月にビクターエンタテインメント第1弾作品としてアルバム「死ぬまで一生愛されてると思ってたよ」をリリース。
松居大悟(まつい だいご)
1985年生まれ。慶應義塾大学入学とともに演劇サークル「創像工房 in front of.」に入団し、俳優として活動したのちに2006年に演劇ユニット「ゴジゲン」を旗揚げする。2009年にNHKドラマ「ふたつのスピカ」で脚本家デビューを飾り、その後、活動の幅を広げ、テレビドラマ、ラジオドラマ、短編映画などで脚本や監督を担当。2012年2月には映画「アフロ田中」で初めて長編映画の監督を務め、大きな注目を集めた。