ナタリー PowerPush - クリープハイプ
2人はライバル!? 尾崎世界観×松居大悟対談
自身の周辺のことはもちろん、コンビニ店員、風俗嬢などさまざまな視点で描かれた人間くさい歌詞。そして、それらを感情むき出しで表現するパフォーマンスで支持を広げてきたクリープハイプが、メジャー1stアルバム「死ぬまで一生愛されてると思ってたよ」を発表する。
今回はこのアルバムのリリースを記念して、尾崎世界観(Vo, G)と本作の初回限定盤の特典DVDに収められるショートフィルム「イノチミジカシコイセヨオトメ」と「オレンジ」のビデオクリップを監督した松居大悟の対談が実現。出会いの経緯や、表現に対するスタンスを存分に話してもらった。
取材・文 / 石角友香 撮影 / 平沼久奈
出会いのきっかけはTwitter
──「イノチミジカシコイセヨオトメ」のショートフィルムを作る以前の2人の関係はどんなものだったんですか?
松居大悟 元々僕が一方的に好きだったんですよ。
──いつ頃から?
松居 1年半ぐらい前ですね。僕、インディーズのロックバンドの曲を聴くのが好きで、その中でクリープハイプっていうのが……って、これ恥ずかしいですね(笑)。
尾崎世界観 言えよ! そういう場なんだよ、今日は。
──読者のためにお願いします(笑)。
松居 (意を決した表情で)……話します。初めてクリープハイプを聴いたときに、なんか他人事じゃない気がして、「すげえいいな」と思って。僕、自分がやってる舞台の開場中に、その作品に合わせていろんなアーティストの曲を流してるんですね。それで去年の2月にやった公演のときに、クリープハイプをずっとかけてたんですよ。
尾崎 らしいですね。その舞台を観に行った友達から「『ゴジゲン』の舞台を観に行ったときにクリープハイプがずっと流れてましたよ」って連絡がきて。「あー、そうなんだ」と思って、ホームページを見てみたら面白そうだったんですけど、千秋楽が終わってて結局その公演は観に行けなくて。でもそれ以降ずっと松居くんのことが気になってて、ブログを見たら映画のことばっか書いてるし「面白そうだなあ」って興味を持ったんですよ。次の公演は絶対観に行こうと思って、Twitterで「『ゴジゲン』観に行きたいなあ」って呟いたら、「観に来てください」ってダイレクトメッセージが届いて。
松居 こっそりフォローしてたら「ゴジゲン」って、突然呟き出したんですよ、僕の好きな尾崎くんが。もうびっくりしちゃって。それで、尾崎くんが来てくれる公演のあとにアフターイベントを予定してたんですけど、内容が全然決まらなくて。弾き語りとかしてくんねえかなと思って、ダメ元で出演をお願いしたら……「夜勤明けでギターがないんですけど」って返事が来て。「あ? いいの?」みたいな感じで、役者と話し合ってギターを用意して。それで尾崎くんが開演の直前にリハーサルに来てくれて、そこが初対面ですね。
行ったらなんか面白いことが起きそうだった
──尾崎さんはなぜそこで弾き語りをやってもいいかなと思ったんですか?
尾崎 相手に一発食らわせられると思ったし(笑)、なんか面白いことが起きそうな気がしたんですね。自分の音楽を直接聴いてもらいたかったし。ただ、そのときの舞台がすごく良くて、観てていい意味で疲れてしまって。グッタリしながら「これで歌うのか……」と思いながら歌ってました。
松居 そもそもその舞台が、ピンサロ嬢をストーカーする男たちの話だったんです。別に尾崎くんに弾き語りに来てもらうために、その舞台を上演したわけじゃなくて。で、当日「1曲は歌ってほしいヤツあるんで……」ってリクエストして。
尾崎 でも曲名を言わないの(笑)。
松居 芝居を観てから判断してください、ってね。
尾崎 それで「あー、はいはい、あれでしょ」と思って。
松居 「イノチミジカシコイセヨオトメ」ね。
尾崎 だから、今回その曲をモチーフにショートフィルムを撮ってもらって。すごい感慨深いですね。
松居 舞台が終わったあとに、尾崎世界観って男がその曲を歌ってて。僕は端っこで観てたんですけど、ちょっと泣きそうになってしまって。僕はその舞台で女性側の気持ちを描いてなかったんですね。全員が男の舞台だったんで。だから「イノチミジカシコイセヨオトメ」を歌ってもらったことで、ストーカーされる女の子が救われたような、その女の子側から歌ってくれたような気がして、すごく良かったです。
活動してるジャンルが違うから良さがわかる
──尾崎さんは舞台の内容がどうこうというより、自分がそこに行くことに意味があると思った?
尾崎 そうですね。もしつまんなかったとしても、とりあえず行く意味がある、行ったらなんかあるな、と思って。巡り合わせも感じたし。で、当日はそのまま帰って、そのあと2人で1回飲みに行ったんですけど映画の話ばっかりしてて(笑)。おんなじような映画をおんなじような時期に観てるってことがわかって感動して。
松居 うん。しまいには一緒に映画観に行ったり。
──お互いどんなところが引っかかりました?
尾崎 単純にオタクってところですね。ひとつのことにまっ直ぐにのめり込んでるタイプで、自分と同じ匂いを感じましたね。
松居 僕、マニアックな映画ばっかり観てて、誰ともその感想を共有できないんですね。演劇界でも映画界でも。しかも、あんまりそれについて話してると「マニアックな映画観てるぜアピール」みたいになるのもイヤだから言えなくて。
尾崎 フフフ。でも映画の話題でつながったっていうのが面白いですよね。松居くんは普段は舞台を中心に、僕は音楽をやっているので、どちらとも違うジャンルだし。
松居 自分のジャンルと違うから、ちゃんと相手の良さがわかるっていうのはあるなと思うんですよね。
尾崎 お互いがバンドやってたら素直に褒められないだろうし、松居くんもクリープハイプのことをここまで褒めたりしないと思う。
CD収録曲
- 愛の標識
- イノチミジカシコイセヨオトメ
- 手と手
- オレンジ
- バイト バイト バイト
- ミルクリスピー
- 身も蓋もない水槽
- ABCDC
- 火まつり
- 蜂蜜と風呂場
- チロルとポルノ
- exダーリン (初回ボーナストラック)
初回限定盤DVD収録内容
- ショートフィルム『イノチミジカシコイセヨオトメ』
- ミュージックビデオ『オレンジ』
クリープハイプ(くりーぷはいぷ)
尾崎世界観(Vo, G)、小川幸慈(G)、長谷川カオナシ(B)、小泉拓(Dr)の4人からなるロックバンド。2001年に結成され、2009年11月に小川、長谷川、小泉が正式メンバーとなり、精力的に活動を展開。2010年に発売した1stフルアルバム「踊り場から愛を込めて」がCDショップを中心に話題となり、一気に名前を全国区に広めた。2011年7月にミニアルバム「待ちくたびれて朝がくる」を発表し、同年10月の渋谷CLUB QUATTROでのワンマンライブはソールドアウトとなった。2012年4月にビクターエンタテインメント第1弾作品としてアルバム「死ぬまで一生愛されてると思ってたよ」をリリース。
松居大悟(まつい だいご)
1985年生まれ。慶應義塾大学入学とともに演劇サークル「創像工房 in front of.」に入団し、俳優として活動したのちに2006年に演劇ユニット「ゴジゲン」を旗揚げする。2009年にNHKドラマ「ふたつのスピカ」で脚本家デビューを飾り、その後、活動の幅を広げ、テレビドラマ、ラジオドラマ、短編映画などで脚本や監督を担当。2012年2月には映画「アフロ田中」で初めて長編映画の監督を務め、大きな注目を集めた。