CiDER GiRL|物語のその先へ 自分たちであり続けるために変化を止めないバンドの現在地

独りよがりな曲を書き続けちゃいけない

──「ライラック」はYurinさんが作詞作曲を担当されましたが、どのように生まれた楽曲なんでしょうか?

Yurin 僕らは去年9月に「落陽」という曲を発表したんですけど、そのときにはもうメロとインストはほぼできあがっていて、年末くらいにNTTドコモのCMソングの話をいただいたので、曲を完成させていったんです。歌詞に関しては、普段僕は映画を観たあとに歌詞を書くことが多いんですが、ちょうどその頃観ていた映画があまり救いがない結末を迎えるものばかりで(笑)。ハッピーエンドじゃないものを選んで観ようとしたわけではなく、本当にたまたまなんですけど、それらの作品にインスピレーションを受けて歌詞を書きました。なんらかの理不尽な理由によって突然の別れが訪れ、大切な人と二度と会えなくなってしまう……そんな心情にフォーカスして。歌詞自体は回想や情景描写をしている部分が多いんですが、そこも含めて結果的に映画っぽい作品になったのかなと思います。

──なるほど。具体的にどんな映画が曲のモチーフになっていったんですか?

Yurin ワンコーラス目の歌詞を書いていたときに影響を受けたのは「君の膵臓をたべたい」(2017年公開)、フルコーラスを書き上げるときに観ていたのは「ヤクザと家族 The Family」(2021年1月公開)です。どちらも突然の別れが描かれている映画なんですけど、観終えたあとに残った喪失感が曲になったような気がします。

──でも曲調は激しくて前のめりなものだし、歌詞も「とぼけるな 人生はフィクションじゃない」とすごく強い言葉で紡がれているので、喪失感といってもバッドエンド的ではないというか、むしろ物語の“その先”を描こうとしているのかなと。

Yurin それはあると思います。それにさっき挙げた映画も、結末はハッピーエンドではないけど、決してバッドエンドでもないんですよ。その感覚を、歌詞やサウンドで出すことができればと思っていたんです。

──「ライラック」もそうですが、Yurinさんの書く歌詞からは、社会と個人、現実と理想といったさまざまなもの同士の摩擦が描かれているような印象を受けます。そのヒリヒリとした感覚を根底にしつつも、歌詞の内容はある意味前向きというか。ポジティブという言葉はふさわしくないかもしれないですが、それでも前に突き進もうとする意志を感じるんですよね。

Yurin 自分の歌詞はやっぱり「生きるとは?」というような人生観が大きなテーマとしてあるので、自然と暗くなってしまいがちなんですが(笑)、後ろ向きなことを歌うだけで終わってしまうのはよくないなと思うんですよ。最後にちょっとでも希望が持てるようにしたい、人に寄り添える歌でありたいという気持ちもあるんです。自分の内面だけに向き合って歌うこともいいと思うんですが、聴いてくれる人がいてくれるからこその音楽だから、僕と同じ感情を持っている人にちゃんと前を向いてもらえるように、という思いは常にありますね。

──そういう感覚は自分の中にずっと存在していたものだったんですか?

Yurin 曲を作り始めた頃は、自分のためだけに書いているという自己満足な感覚がほとんどだったんですが、歌詞に対して感想を言ってくれる人たちの存在が、「このまま独りよがりな曲を書き続けちゃいけない」という気持ちにさせてくれました。結局は自分のためですけど、曲を聴いた人のうちほんの数%でも、共感したり少しでも救われたと思ってくれる人がいたら、という思いが芽生えて。今は完全に、自分のためだけの曲ではなくなっていると思います。

──知さんとフジムラさんはいかがですか?

 難しいですね……もちろん聴いてくれる人がいないと音楽は成立しないと思いますが、まず前提として、自分たちが納得できてカッコいいと思えるものであればいいんじゃないかなと。曲が世に出たとき、それを拾った誰かが共感してくれたらいいな、という些細な気持ちですね。

フジムラ 僕は自己満足で歌詞を書くことがすごく多くて……Yurinが言うこともわかるし、自分でも「僕のつらい気持ちなんて誰が聴いて喜ぶんだ?」と思うこともありますけど(笑)、やっぱり僕自身、誰かにとって憂さ晴らしになるような音楽が好きなんですよね。だから、自分の好きな音楽を作って、それがお客さんの心とうまくマッチしてくれればいいなと思っています。

僕らの個性を育てていきたい

──「ライラック」のサウンドに関しては、どのようなことを考えて作っていきましたか?

Yurin いつもは曲を固めるときにサウンドプロデューサーの方に入ってもらっていたんですが、今回は全部自分たちでやってみて、クリエイションの純度を上げたいと思ったんです。曲の中に登場するピアノも僕が自分で弾きました。

フジムラ(B)

フジムラ ピアノが入ったことはすごく大きかったよね。これまではプロデューサーの知り合いの方とかにピアノを弾いてもらっていたけど、今回はYurinが弾いているので、そういう部分にもバンドの進化と挑戦が表れているなと。

Yurin そもそもここ2、3年は、僕の曲の作り方がギターやベースからではなく、鍵盤のコードから作ることが主になっていたので、その流れもありました。

──「ライラック」のサウンドは、一聴すると初期のサイダーガールにも通じる疾走感のあるギターロックなんですが、音の深みやふくよかさが格別だと思いました。バンドがこの数年で着実に進化してきたことを感じるし、この先の音楽的発展も楽しみです。

Yurin ありがとうございます。この曲にはいわゆる初期衝動感があると思うんですけど、最近は自分たちがこれまでやってきたそういう音楽の、さらに奥にある引き出しをもっと増やしていきたいなと思っているんです。具体的には、音色を先行させて曲を作っていく感覚を自分たちの音にも取り入れたいなとか。近年のヒップホップやK-POPって、音数は少なくても、音色の豊かさで聴かせる曲もあるじゃないですか。ああいうアプローチはすごく面白いと思うので、この先サイダーガールでも試みていきたい。フジムラもシンセベースを買ったので、バンドとしてできることがもっと増えていくんじゃないかな。

フジムラ そうだね。前は曲を作るときに「バンドで再現できる曲じゃないと」と思っていたけど、今後いろいろなことに挑戦していくためにも、自分の中にあるこだわりや既存の概念をぶっ潰さないといけないなと考えていて。もっともっと自分にしかできないものを追求していきたいです。

──今日お話を聞いて、サイダーガールは今まさに変化しようとしている真っ最中なんだと感じました。変わらないことにピュアさを見出す人もいるかもしれないけど、それって実は人間として不自然なことでもあって。生きていれば考え方も変わるし、「今まで違うことをやってみたい」と思うのは当たり前ですよね。そういう欲求に正直なサイダーガールのスタンスは、音楽に対しても、生きることに対してもすごく誠実だと思います。

フジムラ そうですね。やっぱり僕はバンドってカッコいいものだと思うから、今以上にカッコよさの純度を上げていきたい。いろんな人の憧れの存在になりたいです。

 結局、自分たちの生き様はほかの人には代えられないものだと思うから。そういう僕らの生きている姿を、自分たちが納得するやり方でちゃんと表現したいです。ただ伝えたいことを噛み砕いてわかりやすいものにするのではなく、自分たちの“そのまま”を届けられるようになったら、バンドもメンバーも、もっと個性が強くなっていくんじゃないかな。背伸びをしたり着飾ったりはせずに、アンテナを保ちながら、ナチュラルに僕らがいいと思ったものを大事に育てていきたいですね。

ツアー情報

CIDERGIRL ELEVEN DAYS KITCHEN TOUR 2021
  • 2021年6月18日(金)東京都 WWW X
  • 2021年6月20日(日)香川県DIME
  • 2021年6月26日(土)北海道 札幌PENNY LANE24
  • 2021年7月2日(金)宮城県 Rensa
  • 2021年7月7日(水)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
  • 2021年7月8日(木)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
  • 2021年7月10日(土)広島県 LIVE VANQUISH
  • 2021年7月11日(日)福岡県 BEAT STATION
  • 2021年7月17日(土)新潟県 GOLDEN PIGS RED STAGE
  • 2021年7月18日(日)石川県 金沢EIGHT HALL
  • 2021年7月21日(水)東京都 渋谷CLUB QUATTRO