CiDER GiRL|物語のその先へ 自分たちであり続けるために変化を止めないバンドの現在地

Yurin(Vo, G)、知(G)、フジムラ(B)からなる3人組のロックバンド・サイダーガール。2017年のメジャーデビュー以降、メンバーの顔出しはせずに女性キャラクターをモチーフにしたビジュアルを掲げ、青春時代の初期衝動やさまざまな感情を歌い続けてきた。

そんなサイダーガールが、4月21日にデジタルシングル「ライラック」をリリースした。NTTドコモのテレビおよびWeb CM「みんなに好きをつなごう」編に使用されたこの曲は、「思い出」「友情」「青春」といったライラックの花言葉から着想を得た軽快なナンバー。楽曲のジャケットには、これまでの作品とは異なり女性キャラクターのいないアートワークが採用されており、今作のリリースに際しバンドのロゴやアーティスト写真がよりエッジィなものに一新された。

変化の兆しが見えるサイダーガールは、今何を見つめているのか? 音楽ナタリーでは、メンバー3人にバンドのスタンスを新たにした意図や、コロナ禍での体験を通して感じたこと、新曲の制作過程、それぞれが見据えるバンドの未来などについて語ってもらった。

取材・文 / 天野史彬

パブリックイメージからの脱却

──まず、これまでサイダーガールの作品のジャケットには女性のイラストが配されていましたが、新曲「ライラック」のジャケットにはそれが描かれていないことに驚きました。そして2016年以降サイダーガールは、るうこさん、池間夏海さん、杉本愛里さん、小貫莉奈さん、莉子さんといったモデルや女優の方をバンドのイメージキャラクターとして毎年起用していましたが、新たなアーティスト写真には皆さんしか写っておらず、むしろ3人の生々しい雰囲気が伝わるカットに仕上がっています。こういった形でビジュアル面のアプローチを変えるというのは、バンドにとってすごく大きな変化だと思うのですが、これはどういった経緯で?

Yurin(Vo, G) そうですね。これまでバンドの広告塔として女の子に前に出てもらっていたので、“サイダーガール=青春”というイメージが浸透したからこそ、僕らの音楽がそこに縛られてしまうのはよくないなと。実際に自分たちが作る曲は、数年前よりも青春モノからより生々しくリアルなものになってきているし、これまでのイメージに固執するのではなく、もっと曲やバンドに幅を持たせたいという気持ちがあって。それで今までとは違う見せ方をしていくことになったんです。

──“青春を表現するバンド”というパブリックイメージに、どこかで窮屈さを感じる部分があったのでしょうか?

Yurin 窮屈というよりは、「もう出し切ったかな」という感覚ですね。今後のことをメンバー3人で話し合ったとき、「もっと僕たち自身のことを知ってもらいたい」「もっと自分たちにフォーカスしていきたい」という方向で気持ちが一致したんです。

(G) そうだね。僕はこのバンドで青春だけを表現してきたつもりはないので、バンドに対する偏見を取り払いたいという思いもあって。だから今はバンドのイメージを変えられるいいタイミングなのかなと。

フジムラ(B) いろいろな女の子たちにイメージキャラクターを務めてもらうというのは新しい試みだったし、そのおかげで若い子たちに認知してもらえたのはすごくいいことだったと思っています。でも、もっともっとたくさんの人に曲を聴いてもらいたいという気持ちがあるんですよね。だから今回ビジュアルが変化したことでどんなふうに僕らの音楽が聴かれるようになるか、すごく楽しみです。サイダーガールが今までやってきたことを引き継ぎながら、新しく変わっていけたらいいなと。

変わらずに貫き通してきたこと

──Yurinさんは「青春をテーマにした音楽はもう出し切った」とおっしゃっていましたが、その感覚について具体的に伺いたいです。

Yurin(Vo, G)

Yurin  僕らは今年メジャーデビューから4年、バンド結成からは7年ほど経つんですが、僕自身が曲で表現してきたことはずっと一貫していたと思うんです。3人とも曲を作るけど、僕がずっと書き続けてきたのは、「生きるか死ぬか」という感覚。ある種の人生観みたいなものです。僕はこれまでこのテーマを表現するために、自分が10代の頃に味わった葛藤や感情にフォーカスすることが多くて……だから結果として自分よりも若い人たちに受け入れてもらえたのかなと思いつつ、活動年数を重ねていくうちに、これまでとは違うものを表現したいという感覚も出てきたんです。

──なるほど。知さんとフジムラさんは、Yurinさんのように自分が書いてきた楽曲に一貫したテーマを感じていますか?

 はい、僕もわりと一貫性があると思います。自分の中には、生きていくうえで「どうして寂しいんだろう?」というテーマが常にあるんです。でも、その問いに対する答えは、生きていく途中でどんどん変わっていくものなんですよね。だから、テーマ自体は一貫してる一方で、自分が変わっていくことは当たり前なんだという気持ちもあって。根底にある「なぜ?」というテーマからはなるべくずれずに、できるだけ今のリアルな心情を見せていきたいと思っています。

フジムラ 僕はたまに、バンドの過去曲や自分が書いた曲を振り返って、自分の一貫性について考えることがあるんです。そうするたびに、人に寄り添えるような歌詞を書きたいけど、自分のルーツや通ってきた道筋はちゃんと守っていかないとなとも思うんですよね。これまで僕は、自分の中にある“負のオーラ”のようなものをテーマにして歌詞を書き続けてきたんですが、後ろ向きな気持ちに向き合うことはつらい部分もあるけど、“負のオーラ”を掘り下げることで何かにたどり着けるような気もしていて。だからこそ、自分が伝えたいことはなんなのか、曖昧にならないよう常に気を付けています。

──振り返るというのは、ご自分たちの曲を聴き返したり?

フジムラ そうです。「自分たちは何を歌ってきたのかな?」と考えながら、じっくりと聴き返して……夜中にお酒を飲みながらよくやるんです(笑)。昔の自分の曲を聴いて、「当時はこんなことを考えていたんだな」と気付くこともあれば、今の自分では絶対に書けないような歌詞に驚いたりもする。今の自分にとっては新鮮に思えるし、そういう発見から刺激を受けることもあるんです。

──なるほど。最近刺激を受けた過去曲はどのあたりでしょうか?

フジムラ インディーズ時代に書いた「恋のすべて」ですかね。歌詞自体には不器用なところもあるんですけど、「あの頃、恋してたんだなあ」と。最近は恋愛からインスピレーションが湧くことはあまりないので……。

 何を発見してるんだよ(笑)。

一同 (笑)

フジムラ 「不器用ながらも、昔はこんな勢いのある歌詞を書けていたんだな」と。今の自分が作るものは、何かに縛られてしまっているような気がしていて……最近は歌詞のテーマそのものを、もっと冒険してみてもいいんじゃないかなと考えています。

──Yurinさんは自分たちの曲を聴き返して何かを確かめることはありますか?

Yurin 僕は、一度世に出した曲はあんまり聴きたくないタイプです(笑)。僕らの曲は歌モノですけど、自分の歌を聴き返すことってけっこうしんどくて。曲がリリースされた時点で、そのときの自分のすべてが詰まっているわけで、そこから新たに発見することはないかな……。聴き返すとしたらライブのリハのときに軽く確認するくらいで、ほかの人が自分たちの曲を流しているところに遭遇したら、すぐ「止めて」って言います(笑)。

──なるほど(笑)。知さんはどうですか?

 僕は自分の曲が好きなのでよく聴き返しますよ。そもそもYurinくんに自分が書いた歌を歌ってもらいたくてこのバンドを組んだので、今でもYurinくんの歌が聴けることにうれしさを感じますし。そういう意味では初心を忘れたことはないですね。