chilldspot|解決されない葛藤を歌った1stアルバム「ingredients」完成

解決されない葛藤を歌う

──先ほど比喩根さんは「大人になることで生まれる曲も変化する」とおっしゃっていましたが、このアルバムの中で現時点での自分自身に一番近い感覚の曲はどれになりますか?

比喩根 ダントツで最後の「私」ですね。この曲を作ったのは1カ月くらい前だし、そのときの感情をそのまま表現しているので(※取材は8月上旬に実施)。

──「私」は弾き語りの曲ですね。

比喩根 私の場合、弾き語りは素が見せられるし、感情を直で伝えられるので自分に合っている気がするんです。アルバムの最後に弾き語り曲を入れるのは前から決まっていたけど全然曲ができなくて、レコーディングの前日くらいにようやく完成しました。

──そのときのことは覚えていますか?

chilldspot

比喩根 徐々に注目されるようになって、それはありがたいことだし、自分が望んだことではあったんだけど、すべての現状に満足はできないんですよね。がんばればいいのに、ちょっとがんばらない自分がいたり、望んでいたはずのことが苦痛に変わっていたり……そういうジレンマが自分の中に生まれてきていた時期で。曲をどんどん書かなきゃいけないけど、あまり気分が乗らないときもあったりする。「私」は、「がんばらなきゃいけないんだよなあ。でもがんばれないときもあるんだよな。でも、がんばらなきゃ……」みたいな(笑)、延々と解決しない悩みを歌っている曲だと思います。いまだに「がんばるぞ!」と思う日もあれば、「がんばれないな」という日もあるし。

──比喩根さんの作る曲には、“解決されなさ”みたいなものが前提としてあるかもしれないですね。音の話にもつながりますけど、「Monster」のように具体的なメッセージを感じさせる曲もあれば、例えば「dinner」は日常から生まれる幻想っぽかったりもして。比喩根さんの作る曲は、歌詞にも現実と夢が絶妙に織り交ざっている感覚があるなと思うんです。それゆえに明快な答えが提示されるわけでもなくて、それがすごくリアルだなと。

比喩根 あー、自分ではあまり意識していないし、考えてもいなかったです。でも、考えていないからこそ出ている部分なのかもしれないですよね。無理に解決しようとも思っていないし、「こう思ったんだよね」という気持ちを私はずっと曲にしているから。もし自分の中で解決できていたら、私はわざわざ曲にしないと思うんですよ。解決されない葛藤があるからこそ、曲に“生もの感”が出るのかもしれない。

寄り添う歌詞

──メロディへの乗せ方以外で、歌詞の書き方で意識することはありますか?

比喩根 いくつかの視点で読み取れるように、というのは意識しています。例えば「Weekender」の歌詞は今振り返ると自分が疲れているときに書いたんですけど(笑)、疲れの原因を特定しないように歌詞を組み立てたんですよね。具体的な理由をあえて説明しない。そういうことはほかの曲でも多いです。私の中で理由付けされていることもあるけど、それを書いちゃうと歌詞が長くなるし、「それなら詩か小説でよくない?」とも思う。聴き手が想像しやすいようにというか、メロディに合う限られた言葉の中で、いろんな人に当てはまる歌詞が書けたらいいなと思うんです。でも、あまり明確に伝えすぎたくはなくて。「なんだかわからないけど、言いたいことは伝わる」くらいの塩梅がいいかなって思います。

小﨑 比喩根の歌詞のよさは、寄り添うところにあると思います。「Weekender」もそうだし、「未定」もそうだけど、不特定多数の人に寄り添っているというか。

──比喩根さんは「自分が感じていることは、ほかの誰かも感じていることなんだ」というようなことを考えますか?

比喩根(Vo, G)

比喩根 「みんな、こういうことを思っているんじゃないか?」とは思います。自分はそんなに突飛な人間ではないし、特別な才能があったらもうすでに何かを残しているんじゃないかとも思うし。自分はそういう人間だからこそ、自分が持っている負の感情や悲しさは、みんなの心の奥底にもあるものなんじゃないかと勝手に想像しています。実際、周りを見ても「痩せなきゃ」とか「かわいくなりたい」と言っていたりするし、流行りものを欲しがる。みんな自分をほかの何かと比べて「自分は……」と言っているから、負の感情はそれぞれが抱えているのかなって。

──何が自分に負の感情を与えるのだと思いますか?

比喩根 どうだろう……根本は考えすぎてしまうことかなと思います。負の感情は考えすぎるとやってくるというか、人間はきっとある程度は考えないほうがうまくやっていけると思うんです。私の負の感情は、自分の中で生み出してしまっているものなのかなって。こうして取材していただいたり、みんなに曲を褒めてもらったり、素敵な仲間ができたり、望んでいたことが実現していっているのに、負の感情はいつまでも消えない。それは自分の中から出てきてしまうからなんですよね。

“死”について

──「私」の冒頭の「結果が分かりきった延長線上でもがいている / 楽して溺れたい、息が奪われる日まで」というラインは、“死”を連想させるなと思いました。

比喩根 私にとって、死はそんなに身近なものではなくて。親族が亡くなった経験も少ないし、人の死を悲しむという経験をまだあまりしたことないんです。だからかもしれないですけど、死は悲しいものだけじゃなくて、美しいものでもあると勝手に思っていて。「最後には死ぬ」ってわかりきっていることではあるじゃないですか。

──そうですね。

比喩根 死ぬことはわかりきっているし、自分がどう生きるか、その運命だってもう決まっているのかもしれない。その中でどれだけもがいて、どれだけたくさん死ぬ間際の走馬燈を残せるか……そういうことが自分にとって、美しい死に方につながっているような気がする。1人で死ぬとか、誰かに看取られて死ぬとか、そういうことは関係ないんです。自分自身の生き様として、決められている運命にどれだけ足掻けるか、後世に語り継がれるときに、どれだけのものを残せるか、どれだけ「素敵な人だった」と言ってもらえるか……そういうことが大事なんだと私は自分に言い聞かせているような気がします。死ぬまでをどれだけがんばれるか、死んでからのことはわからないけど……そういうことは考えますね。

──では最後に。皆さんそれぞれに今後の目標はありますか?

玲山 僕個人としてはギターの技術がまだまだ未熟なので、自分で満足できるくらいうまくなってバンドに還元できたらいいなと思います。

小﨑 僕ももっとうまくなりたいです。あと、ほかのアーティストのサポートにも興味があって。その経験の中でもっと技術を身に付けて、chilldspotに持ち帰れたらいいなと。

比喩根 いいね。私は最初の目標でもあったソロの活動もやってみたくて。chilldspot以外のバンドで歌ったことがないので、その違いを体験してみたいです。あと私たちはコロナ禍の中で音楽活動を始めたので、あまりライブもできなくて音楽仲間がいないんですよ。だから音楽を通して、いろんな人とコラボしてみたいです。

ジャスティン 全部言われちゃったんですけど(笑)、僕もほかのアーティストのサポートはやってみたいですね。比喩根が言うようにソロでの活動もありだと思うので、4人それぞれが別々のところでがんばって、最終的にバンドに還元できたら理想的だなと思います。

chilldspot

ライブ情報

One man live "the youth night"
  • 2021年10月3日(日)東京都 WWW
  • 2021年11月18日(木)東京都 WWW X ※追加公演
chilldspot(チルズポット)
chilldspot
2002年生まれ、東京出身の比喩根(Vo, G)、玲山(G)、小﨑(B)、ジャスティン(Dr)からなる4人組バンド。バンド名は“chill / child / spot / pot”の4つの単語を組み合わせた造語。2019年12月に結成され、高校在学中の2020年11月に初の音源集「the youth night」をリリース。2021年1月にSpotifyが今年注目の次世代アーティストを紹介するサポートプログラム「RADAR:Early Noise 2021」、7月にYouTube Musicが世界中の注目アーティストを支援するプログラム「Foundry」に選出される。9月には1stアルバム「ingredients」をリリース。10月に初のワンマンライブ「One man live "the youth night"」、11月にその追加公演の開催を控えている。