chilldspot「handmade」特集|海外進出、制作スタイルの変化……3人で作り上げた充実の3rdアルバム

chilldspotが9月24日に3rdアルバム「handmade」をリリースした。

昨年11月に中国の大手レーベル・Modern Skyと契約するなど、近年は中国や韓国をはじめとするアジア圏での活動を精力的に展開するchilldspot。今年7月にジャスティン(Dr)が脱退し、現在は比喩根(Vo, G)、玲山(G)、小﨑(B)の3人で活動を続けている。chilldspotにとって約2年半ぶりのフルアルバムとなる「handmade」は、メンバー全員が作詞・作曲・編曲に携わっており、バンドの変化と進化を感じさせる充実の1枚に仕上がっている。

音楽ナタリーではchilldspotにインタビューし、アルバムの制作エピソードはもちろん、海外での活動や制作スタイルの変化がバンドにどのようなポジティブな影響を与えたのか聞いた。

取材・文 / 森朋之撮影 / kokoro

デビューから5年、それぞれの変化

──2020年のデビューから5年が経ちました。音楽やバンドに対する向き合い方は変わりましたか?

比喩根(Vo, G) 1stアルバム(2021年発表の「ingredients」)を出した頃はまだ高校生ですからね。5年経って、いろいろ変化したと思います。

玲山(G) まだ遊びでやってましたね(笑)。

比喩根 本当に?(笑) 私は遊び半分みたいな感じだったかも、最初は。

玲山 自分は今が遊び半分かな。デビューした頃は事務所とかレーベルとかの仕組みもよくわってなかったし。

小﨑(B) うん。

玲山 当時はただただ「すごいな」って思ってました(笑)。

比喩根 「すごいスタジオだ!」とかね。取材受けてるときも「ワーッ」ってすべてが新鮮な感じだったし。今はいい意味でプロとして向き合えるようになった気がする。

玲山 そうなんだ。

比喩根 うん。「ちゃんと結果を出したい」と思うようになったというか。もちろん楽しみながらやってますけどね。

小﨑 僕はまだ遊びの感覚が強いかもしれないです。今回のアルバムは特に遊びながら作ってる感じでした。

玲山 バンドの中でも捉え方はバラバラだね(笑)。

chilldspot

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海外リスナーの反応とその影響

──前作「ポートレイト」(2023年発表)以降の変化も大きいですよね。中国や台湾のライブが増え、11月には中国の大手レーベル・Modern Skyと契約するなど、アジア圏での活動が広がりました。

比喩根 最初から海外を意識していたわけではないんですよ。「行きたい国とかありますか?」と聞かれたときも「アジアとか回ってみたいですねー」くらいの感じだったんですけど、Modern Skyと契約させてもらってから、一気に現実味を帯びたというか。中国や台湾に行く回数が増えて、ライブをやっていくうちに、小﨑くんが「韓国も行ってみたい」って言いだしたり。現地での活動が増えたことで、アジアに対する視野が広がりましたね。

玲山 日本に住んでいると中国のSNSを見る機会はあまりないから、現地に行かないとどれくらい聴かれているかわからないんですよ。実際にライブをするとめちゃくちゃ盛り上がるし、海外のリスナーとも連帯できるようになりました。

小﨑 うん。僕はもともと海外に行く気はなかったんですよ(笑)。インドアすぎる性格だし、「できれば東京から出たくない」と思っていたので。でも、中国や台湾のライブが増えて、「海外のライブ、思った以上に楽しい」みたいな瞬間がたくさんあったんです。皆さんすごく熱狂的だし、こっちも「自由にやっちゃっていいんじゃないか?」と思っちゃうというか。

比喩根 変わったね(笑)。すごいじゃん。

──海外のオーディエンスの反応が与えた音楽的な影響もありますか?

比喩根 そうですね……。まず、日本と中国ではウケる曲がちょっと違うんですよ。中国ってけっこうリズムが大事じゃない?

玲山 うん、わかるわかる。

比喩根 言葉があまり通じない分、踊れる曲が好まれるというか。皆さん自由に楽しんでくれるので、「だったらこの曲もいいかも」って日本ではあまりやらない曲をセットリストに入れたりしています。日本のフェスの場合、振付だったり、一緒に何かをやるみたいな、一体感を作るのが大切な気もして。

玲山 わかりやすい掛け声を入れるとかね。

比喩根 それがあることで私たちも心強いしね。

玲山 どっちにしてもリスナーの反応は大事だし、影響は少なからず受けてますね。

成長とともに音楽性も自然と変わる

──では、ニューアルバム「handmade」について聞かせてください。ポップミュージックとしての強さ、わかりやすさがこれまで以上に備わっているし、音楽的にもこれまでのアルバムと比べて変化してますよね。初期の頃はR&Bの濃度が高めでしたけど、「handmade」はインディーポップやオルタナ的な要素が加わりました。

比喩根 そうですね。(初期の音楽性に)立ち戻っても全然いいんですけど、人が成長したり、顔が変わっていったりするのと同じように……みたいな感じだと思います。

──興味のある音楽の範囲も変わっているんですか?

比喩根 どう?

玲山 僕はそんなに変わってないかな。

小﨑 うん。

比喩根 私はけっこう変わったかもしれない。ちゃんと洋楽が好きになったというのかな。以前は勉強のために聴いていたところがあったんですよ。オルタナとかもまったく知らなかったんですけど、さかのぼって聴いていくうちに好きになって。今日もNirvanaを聴いてたんですけど、前は名前くらいしか知らなかったですからね。

玲山 そうだよね。

比喩根 そうやって洋楽を知っていくと、邦ロックのバンドに対しても「もしかしてあのバンドに影響を受けてるのかな」とわかるようになりました。

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新たな制作スタイル、かけた労力は無駄じゃない

──今回のアルバムは比喩根さんだけではなく、小﨑さんと玲山さんも作詞作曲にガッツリ関わっていて。メンバー同士のコライトも多いですが、これは意図的に始めたんでしょうか?

比喩根 そうですね。「やってみようか?」という感じだったよね。

玲山 うん。「とにかくデモ音源をたくさん作って、アイデアをたくさん出し合おう」というのが最初で。その後、それぞれのデモ音源に対して、メンバー各々がメロディを付けて、その中から選んでいったんですよ。

比喩根 コンペみたいな感じですね。今回のアルバムのために20数曲分のデモを作りました。全部のメロディを私が担当するのはさすがに大変だし、みんなで作ったらどうかな?と。

──だから作詞作曲のクレジットが曲によってまったく違うんですね。

玲山 そうですね。いろんなパターンがあるので。

比喩根 それぞれトラックを作ったり、私が「こういうテイストで作ってくれない?」と依頼したり、玲山と小﨑がやりとりしながらアレンジを作ったり、私が2人に「こういう歌い方をしてみて」と言われたり。歌詞を3人で書いた曲もありますからね。

玲山 楽しかったけど、単純に作業量が増えて大変でした(笑)。でもいいアルバムになってよかったです。

比喩根 うん。かけた労力は無駄じゃなかったね(笑)。

“歌わされてる感”が一番よくない

小﨑 僕はさっきも言った通り、遊び感覚で今回のアルバムを作ってた気がします。「こういう感じの曲を作ってみようぜ」とテーマを決めたり、「だったらこういう音を入れたい」みたいなことをひたすらやっていて。楽しく遊んでいた感じです(笑)。

比喩根 クリエイティブだね。

玲山 小﨑は作るのもめっちゃ早かったんですよ。アルバムの制作スケジュールを共有してたんですけど、小﨑の曲がどんどん上がってきて、やる気を感じました。

比喩根 私が1曲アップしている間に、3曲くらい作ってたよね。

小﨑 自分でもゼロからイチを作るのが得意なのかもしれないないと気付きました。

──インドア派だからずっと作り続けてるとか?

小﨑 それはあると思います(笑)。

比喩根 助かります。ソングライターが増えたことによって「制作がラクになったのでは?」と言われるんですけど、本当にその通りですね。

──玲山さんと小﨑さんが作ったメロディやフロウを歌うのも新鮮だったのでは?

比喩根 それはめちゃくちゃありますね。歌うたびに「おー! こういう感じか!」という驚きがあるし、レコーディングに時間がかかることもあるけど、慣れてきたら「ここが気持ちいいポイントなんだよな」というところが見つかったり。基本的にはデモを完コピしてるんですけどね。

小﨑 そうだね。

比喩根 そのうえで、無意識のうちに自分のクセが入ってくるというか。

玲山 うん。それがないと比喩根が歌う意味がないですからね。“歌わされてる感”が一番よくないし、比喩根の歌として自然に落とし込むがいいと思うので。

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楽しくモノ作りを

──1曲目の「Unbound」は、グルーヴィなギターのフレーズから始まるファンクロックチューンです。小﨑さんのラップと比喩根さんのボーカルの絡みも含めて、まさに3人のセンスが融合した楽曲ですね。

比喩根 確か「Unbound」がアルバムの中で最初にできたのかな? みんなのアイデアを持ち寄って完成した曲ですね。

玲山 それぞれ役割があったよね。

比喩根 アレンジはこの2人の共作で、小﨑くんのラップのパートは自分で作詞していて、サビのメロディは玲山くんで歌詞は私、大サビはメロディも歌詞も私で。コンペ方式の集大成ですね。

小﨑 最初、玲山がギターとドラムのフレーズを僕に送ってきたんですよ。それをもとに僕が1番を作って、その先をまた玲山が形にして。

玲山 データのやりとりをしながら完成させました。そのまま自分1人で作ったら、想像通りのものにしかならないじゃないですか。小﨑の目線が加わることで「こういうアプローチなんだ?」という変化が生まれるし、作っていて面白いので。

──歌詞のテーマも話し合って決めたんですか?

比喩根 小﨑くんのラップが先にあったので、それをもとにしているところはありますね。

小﨑 この歌詞を書いたときは……だいぶイライラしてたんですよ。

比喩根 何かあったっけ?

小﨑 いや、特にあったわけじゃないんだけど(笑)。Xで音楽評価家みたいな人の辛辣な投稿が目に留まって。「chilldspotの曲は〇〇の作品に似てる」と言われることがあるんですよ。全然的外れだし、それでちょっとやる気を削がれたというか、「ちょっとウザくない?」と。

比喩根 わざわざ言わなくていいんじゃない?とは思うよね。

小﨑 それでムッとしてたんだけど、結論としては「そんなのどうでもいい。自分たちで楽しくモノ作りしようぜ」というところに落ち着いて。それを歌詞に落とし込んだ感じですね。

比喩根 作ってたときはそんなこと言ってなかったよね? 曲のテーマを聞いたら「世の中いろいろあるけど、楽しんでいこうぜ!って感じかな」と言ってたような。

小﨑 まあ、まとめるとそうなるかなと(笑)。

比喩根 (笑)。イライラをパッションに昇華している感じもいいですよね、この曲は。ネガティブなところに着目するのではなくて、いい意味で軽やかなので。