chilldspot|解決されない葛藤を歌った1stアルバム「ingredients」完成

曲作りは日記や記録に近い

──chilldspotの曲は、比喩根さんが曲と歌詞を書き、それをバンドでアレンジしていくという流れで生み出されるんですよね?

比喩根 大部分がそうですね。

──比喩根さんにとって、日々の生活の中で曲作りをすることはどういった意味を持つ行為だと思いますか?

chilldspot

比喩根 曲を作り始めた当初は、自分が言ってほしい言葉を曲に起こしていく感じだったと思います。言ってしまえば感情の掃き溜めというか。喜怒哀楽いろんな感情がありますけど、その感情のメーターがバーン!と振り切れたときに、歌詞がブワッと降りてきて曲も書ける。そのときそのときのメモというか、日記のようなものですかね。だから今はもう「夜の探検」は書けないし、よくも悪くも聴く人を意識すればするほど、曲の世界観も変わっていくんだと思います。

──今、実際に変化を感じられているんですか?

比喩根 最近、「ああ、感情が減ってきたんだな」と思うことはありますね。「人間の体感時間は20歳で人生の半分を迎える」という話を聞いたことがあるんですけど、その通りだと思っていて。大人になるにつれて感情が揺さぶられることが少なくなってきてるような気がするんです。例えば子供の頃は欲しい物を買ってもらえないと「なんで!」と一気に感情の沸点にいけたけど、今では買ってもらえない事情や背景もわかってきて冷静になってしまったりするんですよね。

──なるほど。

比喩根 そうすると、どんどん沸点は低くなっていくし、怒りの温度も下がっていく。そもそも私は負の感情で曲を作ることが多かったけど、自分の中の怒りや悲しさも、大人になるにつれて客観視するようになっている感じがしていて。だから私が作る音楽は、これから先どんどん変わっていくだろうなと思います。

──感情の捉え方が変わることで、曲も変わっていくと。

比喩根 はい。私にとって曲作りは、そういう意味でも本当に日記や記録という言い方が近いかもしれないです。

chilldspot

「夜の探検」の制作秘話

──「夜の探検」は比喩根さんが16歳の頃に初めて作詞作曲した曲なんですよね。1stアルバムにも収録されていますが、この曲が生まれたときのことは覚えていますか?

比喩根 覚えてます。日曜日の午後7時くらいだったかな。曲を作ってみるか、とC9っていうコードを弾いていたら「いいなあ、夕方みたいな音の響きだな」と思ったんですよ。ポローンとそのコードを鳴らして、最初の「5時のチャイムで目が覚めて」という歌詞が出てきたとき「おお、曲が作れそう!」と思って。歌詞は、そのときの景色や気持ちそのまんまなんですよね。当時自分が住んでいたお家の近所に小学校と中学校があって、ベランダに出ると部活帰りの学生とか子供がいたりして。当時は特に何も意識していないから、「聞いてよ、私たまにこういうこと思うんだよね」くらいの感じで作っていました。

──曲のアレンジは、比喩根さんが書く歌詞の雰囲気なども含めて考えるんですか?

ジャスティン そうですね。比喩根が歌詞の解説を送ってくれたりもするので、その解説を読みながらアレンジを考えることが多いです。歌詞が重たい場合は、アレンジが重くなりすぎてもバランスが悪いのであえて軽くしてみたり。

──なるほど。ちなみに歌詞の解説は全曲分書いているんですか?

比喩根 暇があったら書いています。歌詞の1行ずつに書くので「長くてごめんね」という感じなんですけど、「この部分はなんで漢字なの?」とか「ここはなんでこういう表現なの?」と聞かれても全部答えられる自信があるくらい、歌詞は考えて書いてますね。

──それだけ比喩根さんにとって、言葉は大切なものなんですね。

比喩根 弾き語りで作っているからこそ、歌詞とメロディしか自分の中で伝えられるものがないんです。その2つのどちらかが欠けてもダメだし、歌詞が乗らないメロディだったら意味がない。だから歌詞もメロディも自分にとっては大切ですね。

chilldspotが求めるリアル

──アルバムを聴いてみて、chilldspotの曲は音の質感が非常にリアルだなと思ったんです。現実的な皮膚感覚があるんだけど、同時に夢の中にいるような浮遊感もあって、その両方が混ざり合っている感じが非常にリアルというか。

ジャスティン 音に関して言うと、デカいスタジアムで鳴らすような曲を作っているというよりは、こじんまりとした空間の方がイメージに合うというか、自分たちの部屋で作っているような感覚があって。そういう部分が、今言っていただいたリアルさにつながっているのかもしれないです。

比喩根 特に玲山はレコーディングにシビアで、ギターの音作りとかすごくがんばってるよね。

玲山(G)

玲山 うん、いろいろエフェクターを借りたりして。でも、リアルさを出すために、ちょっとミスってるテイクや偶然入った音をそのまま使うこともあります。

──こじんまりした空間とか、リアルさとか、そういうものをなぜ自分たちは音に求めるのだと思いますか?

比喩根 私は「音源は完璧でありたい」という気持ちが強かったんですけど、周りの人に「今の自分たちができる最大限でいいと思うよ」「そのときのベストが出せたらいいから」と言ってもらったことがあって。どれだけがんばってもレジェンドの人たちのような音を出せるわけじゃないから、自分たちの気持ちが乗っていて、それがベストだと思えたら多少ミスっても、多少暴れていても、そのほうがいいんじゃないかって。だから、「Groovy Night」のドラムとかも、変なところに急にスネアが入っていたりするよね?(笑)

ジャスティン うん。自分でもわけわかんない音が鳴ってるから、絶対にライブで再現できない(笑)。でも、そういう偶然も採用するようにしています。

比喩根 レコーディングは緊張するけど、みんな楽しんでやってるよね。「未定」のアウトロのギターを録ったときも面白くて。そもそも玲山は頭で考えて弾くタイプなんですけど、そのときは「アドリブで行けよ!」みたいな雰囲気になって、ジャスティンが使ってないギターを持ち出して、玲山の目の前で挑発するように弾くフリを始めたりして(笑)。

玲山 レコーディングに時間がかかっちゃって、納得のいく演奏が全然できないのが悔しくて。ジャスティンが目の前に来たとき、最初ちょっとムカついた(笑)。

一同 (笑)。

玲山 でもジャスティンの挑発があったから、結果的にガチガチに考えずに楽しく演奏できたのかなと思います。

比喩根 そうだね。いいテイクが録れたときは、みんなレコーディングブースで立ち上がって「いえーい! やった! やった!」みたいな感じで喜んでました(笑)。

ジャスティン 結局、「未定」ではそのテイクを使いました。

比喩根 レコーディングは真面目にやるけど、楽しみつつ、今できる最大限を記録している感覚です。だからアルバムは「思い出集」という感じもあって。