chilldspot|解決されない葛藤を歌った1stアルバム「ingredients」完成

chilldspotが9月15日に1stアルバム「ingredients」をリリースする。

chilldspotは比喩根(Vo, G)、玲山(G)、小﨑(B)、ジャスティン(Dr)からなる4人組バンド。高校在学中の2020年11月に初の音源集「the youth night」をリリースすると、収録曲「夜の探検」や「ネオンを消して」がバイラルチャートにランクインし、2021年にはSpotifyが次世代アーティストを紹介するサポートプログラム「RADAR:Early Noise 2021」、YouTube Musicのアーティスト支援プログラム「Foundry」に選出されるなど注目を浴びている。アルバムには「夜の探検」「ネオンを消して」のほかに、とある夜の出来事を描いたグルーヴ感あふれる「Groovynight」、劣等感や自己否定をテーマにしたダンスナンバー「未定」など現在のバンドのモードを反映した全11曲が収められる。

音楽ナタリー初登場となる今回は、アルバムの制作秘話や各楽曲の魅力、比喩根が綴る歌詞へのこだわりについて話を聞いた。

取材・文 / 天野史彬撮影 / 小財美香子

このバンドでよかった

──chilldspotは比喩根さんが中心になって結成されたそうですね。なぜ、4ピースバンドという形態を選んだのでしょう?

比喩根(Vo, G)

比喩根(Vo, G) 正直、そもそもバンドを組みたかったというわけでもないんですよ。当初の私の夢はソロでデビューして、バックバンドを付けて活動していくことだったんですけど、1人で音楽を始めたときに、自分だけで作り上げられる世界観に満足できなくて。ギターの技術もなければ、DTMができるわけでもない。それに当時は高校生だったから、当然プロのミュージシャンにお願いするお金もなくて(笑)。そんなとき、私は軽音部に所属していたから「楽器ができる人、身近にいるじゃん」と、このメンバーを誘ったんです。私はギターに自信がなかったので、リードギターを入れて結果的に4ピースバンドになりました。今は1人でやるより「このバンドでよかったな」と感じます。

──今はどんなときに「このバンドでよかった」と感じますか?

比喩根 私含めメンバー全員が未熟だというのもあるけど、ほかの3人のがんばりに引っ張られているなと感じることが多いです。そもそも私は性格的に「中の上」で満足してしまうタイプというか(笑)。例えば学校のテストも前日に勉強して平均点以上取れたら「やったー!」と満足してしまうんですよね。でもバンドではほかの3人ががんばっていると、私も100点を目指すぐらいがんばらなきゃなと思う。その相乗効果で、よりいいものが作れてるのかなと思います。あと私たちは友達の延長線上でバンドを組んでいるので、1人で音楽をやるより楽しさは大きいんじゃないかなと。友達と過ごしながら一緒に音楽を作ることができる楽しさ。それはバンドならではのことで、素敵だなと思います。

──chilldspotを結成した時点で、自分たちが表現したいものの方向性は定まっていたのでしょうか?

比喩根 私たちは、それぞれ聴いている音楽のジャンルが全然違うんですよ。だから私が誘った段階では音楽的な共通項はなんにもなくて。ただNulbarichやSuchmosの名前はよくバンド内で挙がっていました。「ああいう芯があって、自分たちのやりたいことをやっていけるバンドがいいよね」という話を最初にしたんですけど、ジャスティンしか覚えてないみたいで……。

──玲山さんと小﨑さんは覚えてない?(笑)。

玲山(G) 記憶がなくて……。

小﨑(B) あったような気もするけど……。

比喩根 まあまあ、ぽろっと言っただけの話だから(笑)。

──(笑)。皆さんはそれぞれどういった音楽を聴いてきたんですか?

玲山 小さい頃に親の影響でBUMP OF CHICKENを聴き始めて。あとは友達に薦められてRADWIMPSを聴いたりしていました。

ジャスティン(Dr)

小﨑 僕の場合、好きな音楽のジャンルが幅広くて。特に好きで聴いていたのは、ロックやボカロ、EDMですね。

ジャスティン(Dr) 僕が初めて音楽に触れたのは親が家で流してたエリック・クラプトンとかだと思うんですけど、自分で初めて買ったのはClean BanditというイギリスのバンドのCDでした。中学生くらいからより深く音楽を掘るようになるんですけど、聴いてきたジャンルは本当にバラバラで、何が自分のルーツかよくわからないんですよね。ただ、1年前くらいからドラムを教わっていて、そこで受ける影響は大きいかもしれません。その師匠に教わってヒップホップやR&Bを聴くようになって。今、影響を受けているのはそういった音楽だと思います。

比喩根 私は小学生の頃はアイドルが好きでAKB48のグッズを集めたり、ボーカロイドにものすごくハマったりしていました。高校の軽音部に入ってからはブラックミュージックを聴くようになったりして。

歌で自分を肯定してほしい

──chilldspotは歌に重きを置いているバンドだと思うのですが、比喩根さんは「歌う」という行為とどう向き合ってきたのでしょう?

chilldspot

比喩根 子供の頃は夏休みになるとお母さんの実家に遊びに行って、カラオケでアイドルソングを歌っていました。小さい子が歌うと、周りの大人も「上手~」ってはやし立ててくれるじゃないですか。それを真に受けたんですよね(笑)。私は自己承認欲求というか、「自分を認めてほしい」という気持ちが強いんだと思うんです。歌を褒められて「歌えば認めてもらえるんだ」と思った。それで中学生の頃に両親に「歌手になりたい」と伝えたら、「じゃあ、ボイストレーニングに行ってみる?」って1年間くらいボイストレーニングに通わせてくれて。その発表会でカバー曲を歌ったら、私の歌で泣いてくれた人がいたんですよ。そのときに、「自分にしかできないことがあるのかもしれない」と真剣に音楽をやりたい気持ちが強くなったんです。

──「歌によって認めてもらいたい」という気持ちは今もありますか?

比喩根 根本は変わらないです。歌って、その人のすべてが出るものだと思うんです。もともとの声質も、性格も、生きていたことも。歌が認められると、自分自身が認められたような感じがする。ただ、今は「褒めてもらいたい」というより「自分自身の全部を肯定してほしい」という気持ちで歌っているような気がします。私が書く歌詞はネガティブなものが多いけど、その部分も含めて肯定してほしい。そういう意味では歌は自分のエゴでもあるんですけど、そのエゴに人を巻き込んでいけたらいいなと思うんです。歌で聴いている人の感情を動かせたら、その人の心に私自身が届いたということだから。

比喩根が思うメンバーの魅力

──比喩根さんから見て、一緒にバンドを組む3人にはどんな魅力がありますか?

比喩根 ジャスティンは聴く音楽のセンスがすごくいいんですよ。いろんなジャンルの音楽を聴いているけど、いいところを突いてくるなと思う。それにアイデアマンでもあって、「これだ」と思ったらすぐに行動できるから、そういう部分も信用してますね。あと、単純に面白いから彼がいると空気が和やかになります(笑)。玲山は、違う学校の軽音部にいたんですよ。あるときいくつかの高校が集まる合同ライブをする機会があったんですけど、初めて見たときからオーラがすごくて。なんとなく「この人は何をやっても成功するな」と感じてバンドに誘ったんです。実際、ものの見方が人と違うし、ズバッと一刀両断するような意見を言ってくれる。私が感情論的な意見を言ってしまう中で、彼は冷静に判断してくれるから、そういう部分はバンドで一番だと思います。あと単純にギタープレイが私の好みだし、実は天然で抜けてるところもバンド内の笑いにひと役買っていてくれる感じがします(笑)。

──小﨑さんについてはどうでしょう。

小﨑(B)

比喩根 小﨑は幼馴染だから、いい具合に気を遣わずにいれる関係性がすごくよくて。それに、小﨑もジャスティンと同じで性格が大らかで優しいんです。私はすごく短気な部分があるんですけど、小﨑はバンド内のピリピリしたムードを中和してくれる。それに、普段は自分のことをあんまり表に出さないけど、「こうしたい」という意思が内側にしっかりあるところもいいなと思います。

──お二人は幼馴染なんですね。小﨑さんは一緒にバンドを組んで、比喩根さんの印象が変わったりしました?

小﨑 そうですね。本当によく考える人なんだなと思いました。ライブのあとにメンバー1人ひとりに改善点を長文で送ってくれるんですよ。このバンドに対しての思いは彼女が一番強いと思います。

──なるほど。お話を聞いていると、比喩根さんはバンドという空間に優しさや大らかさを求めているんですかね?

比喩根 怒ったりしたくないんですよ。誰かが怒っているのを見るのも苦手だし、怖いことも嫌だし。とにかく楽しくいたいというか、自分の周りで嫌な思いをする人がいてほしくない。chilldspotがこのメンバーになったのも、そういう部分が反映されているのかなと。3人とも大らかで楽しくて、私の話をちゃんと聞いてくれている。音楽を作るなら私は本気でやりたかったので、このメンバーでよかったなと思います。

──なるほど。でも比喩根さんが書く歌詞には怒りが滲むものもありますよね。

比喩根 そうですね。

──自分自身の内側にある怒りについては、どのように向き合っていますか?

比喩根 うーん、あまり人に怒りをぶつけたくないんですよ。怒りを直接ぶつけられたときの悲しさってあるじゃないですか。あれを人に味わわせてしまうのが嫌だから、私は曲にしているのかもしれないです。