chilldspot「Titles」インタビュー|叶わなくても歌い続ける、さまざまな感情を描いた3rd EP

chilldspotが9月14日に3rd EP「Titles」をリリースした。

3月に自身最大規模となる東京・LIQUIDROOMでのワンマンライブを成功させ、今夏は「SUMMER SONIC 2022」を含む大型フェスへの出演も果たしたchilldspot。今年2作目となるEP「Titles」には、Honda「VEZEL e:HEV」のCMソングとして書き下ろした「BYE BYE」や、比喩根(Vo, G)が高校生の頃に書き下ろした楽曲をバンドで改めてアレンジした「shower」など全5曲が収録されている。

音楽ナタリーでは「Titles」の制作エピソードを中心に、デビュー作「the youth night」のリリースからの約2年間で変化してきたメンバー間の距離間や、それぞれのバンドへの思いを聞いた。

取材・文 / 天野史彬撮影 / トヤマタクロウ

変化してきたchilldspotの距離感

──私は現状、「Titles」の収録曲5曲のうち4曲のラフミックス音源を聴かせていただいたのですが、この時点で、これまでの作品とは違った新しいアプローチを感じます(インタビューは8月上旬に実施)。1曲目を飾る「Like?」のグランジ的なサウンドからして新鮮です。

比喩根(Vo, G) 最近、私がUKロックやポップス、グランジ系のサウンドを好んで聴いていて。それでノイジーなサウンドの要素が入ってきたのかなと思います。あと今回は「the youth night」(2020年11月発表の1st EP)から制作をともにしているプロデューサーの方と私が話し合いながら、コライト的な感じでアレンジしていった曲が多いんです。私の今のモードがEP全体を通してゆがみやノイジーさのあるサウンドにつながったのかなと思いますね。「Like?」も最初は弾き語りのデモだったんですが、話し合う中であえてサビはメロディを入れず、ノイジーなギターに任せちゃおうとなって。

比喩根(Vo, G)

比喩根(Vo, G)

──具体的に、比喩根さんが最近惹かれているUKのロックやポップスと言うと?

比喩根 エド・シーランやホリー・ハンバーストーン、マギー・ロジャースはよく聴いてますね。ほかには20代くらいの若い女性のミュージシャンに好きな人が多くて。そういう音楽をメンバーにも「最近こういう曲が好きなんだよね」と紹介したりしているんです。

──そういった比喩根さんのその時々の音楽的なモードを、3人はどう受け止めているんですか?

ジャスティン(Dr) 比喩根に合わせすぎてもバンドのよさは出ないと思うんです。だから半分聞いて、半分聞いてないくらいの距離感ですね、僕は。chilldspotはボーカルのよさはもちろんあるけど、ほかの3人のよさもバラバラにあるバンドなので、それがなくなっちゃうのはもったいないから受け入れすぎないようにしている部分はあると思います。「ふーん、そうなんだ」くらいの感じ。

比喩根 それ、8割聞いてないじゃん(笑)。

玲山(G) まあ、心の片隅に置いておくくらいだよね。比喩根のイメージにものすごく寄せようとは思っていないけど、どこかしらで意識している感じというか。

小﨑(B) グランジは今世界的に流行っているし、僕としては「chilldspotも流行りに乗るの、面白そうだな」という(笑)。僕も比喩根の話は半分くらい聞いている感じですね。それに加えて流行りも意識しつつ、でもchilldspotらしさを出すことも忘れず。

比喩根 けっこう客観的だよね。実際、各々のフレーズまで私が「もっとこうして」と口出ししちゃうと、それはバンドじゃなくなっちゃうと私も思っていて。曲は私が書いているから、あくまでも私の好みのゾーンになっちゃうけど、その中で3人には思う存分暴れていただきたいっていう気持ちはありますね。

──あくまでもソングライティングや世界観を担うのは比喩根さんでありつつ、でも比喩根さんに寄せすぎないというバンド内の距離感がすごくいいなと思うし、その絶妙さは音からも感じます。結成されてから現在に至るまででバンド内の関係性の変化は感じますか?

ジャスティン 言葉にするのは難しいですけど、より近くなりつつ、でも……っていう感じはあるよね。

比喩根 ここ最近は曲を作ったりライブを重ねたりで、一緒に過ごす時間が長くなった分、変わったところもあると思います。前はお互いが気を遣っている感覚が私はあって。でも今は信頼があるからこそ、本当に話半分でも「この人は大丈夫でしょ」と思えているし、逆に、それぞれが言いたいことは言う間柄にもなってきた気もする。お友達だったところから、1歩身内に近付いたというか。家族ってベタベタしないじゃないですか。そういう距離感に近付いたような気はしますね。

chilldspot

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玲山 意見を言うようになったっていうのは、そうだね。今回のEPは特にそう。

比喩根 これまでに比べても、スタジオで小﨑がジャスティンと密に話している場面があったりして。

小﨑 ドラムとベースに関しては、聴き心地をよくするために、ちょっとしたフレーズの変更とかを地道にやっていったからね。

それぞれが考えるプレイヤーとしての醍醐味

──chilldspotの曲は、ミニマムなサウンドの中でそれぞれの楽器が存在感を持って響いているところが聴いていて非常にスリリングであり、なおかつ心地がいいなと思うんです。皆さんはそれぞれ、ご自分のパートを担うことにどんな醍醐味を感じていますか?

玲山 ギターはバンドサウンドの中では上側にあって、楽曲を華やかにする役割が大きいと思うんですけど、僕らはギターを真ん中や後ろで使うことが多い。なのでリズムギターをやるときにはドラムやベースと合ったグルーヴ感を重視しています。そういう意味で支えにもなるし、メインとして華やかさを担うこともあるし、オールマイティに活躍できるところに面白さを感じていますね。最近はトランペットを練習したりもしているので、ほかの楽器も好きだったりします(笑)。

小﨑 僕は性格的に目立ちたがり屋ではないですし、そういう意味でchilldspotのベースにすごく合っているなと思っていて。ベースは基盤を担う楽器ですけど、例えば「Like?」ではピックで尖った音を出して力強さを表現したり、そういう雰囲気作りを担えるのがいいなって。

小﨑(B)

小﨑(B)

──小﨑さんは、もともと自分の性格に合っていると思ってベースを選んだんですか?

小﨑 いや、違うんです……。

比喩根 ふふふ(笑)。

小﨑 話すのが憚られるんですけど……中学生の頃の誕生日に最初は「ギターが欲しい」と言っていたんですよ。でも親に「ギターは弦で指が切れるよ」と言われて、それが怖くてベースにしたんです。

一同 (笑)。

比喩根 この話、何回聞いても面白い(笑)。

小﨑 今は「ベースでよかったな」と思ってますけどね(笑)。

ジャスティン 僕はほかの楽器をやってみたこともあるんですけど、ドラムほど熱量を持ってやれた楽器がなかったんです。今は「曲のテンションとジャンルを決めるのは最終的にはドラムなんだ」くらいに思ってます。今回のEPは特に、そういうドラムの役割が見えた感じがしました。「Like?」は「僕がテンションを上げないと誰が上げるんだ?」とバキバキに大きく叩いたし、「shower」では落ち着いたドラムを意識したし、「Ivy」では安定して同じものを提供し続けた。この2年間でそれをより理解していった気もしますね。高校生でドラムを始めた頃よりも難しさも楽しさもわかってきて、より「自分がアンサンブルを引っ張らないといけなんだな」と思うようになってきました。

chilldspot

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──比喩根さんは、歌に関してはどうですか?

比喩根 chilldspotは歌が主体で動いている自負はあって。それがいいことか悪いことかはわからないけど、そうやって注目してもらっている以上は責任はすごく大きいなと思います。chilldspotの楽曲は自分がバンッと前に出ているからこそ、歌がなくなったり、引っ込んだときの楽器の映え方はきれいになると思うし、今回のEPはそれが出ていると思うんです。「Like?」のサビで歌がいなくなった瞬間に楽器が前に出る、この迫力って普段ボーカルを中心に置いてもらっているからこそ出る魅力なのかなって。「歌」という注目してもらっている軸があるからこそ、ほかの楽器もカッコよく見える。なので常にいい歌詞といいメロディ、いい歌を歌い続けていたいです。

──歌が主体であることがいいことか悪いことかわからない、というのは、そこに迷いもある?

比喩根 あるにはありますね。「バンドとしての魅力ってなんだろう?」と最近よく考えるんです。歌だけを目立たせたいなら、私のソロとかほかのやり方もあると思う。でもバンドをやるからには、バンドとしての魅力を出したい。みんなの技術、フレーズ、センス……そういうものを前に出したいんです。そもそもは自分の歌に注目してほしくて音楽を始めたけど、今はバンドで活動することに愛着が湧いてきたんだと思います。活動を始めたばかりの頃は私の歌や歌詞をほめられることを求めていたけど、今はそれだけじゃなくて、chilldspot全体を見てほしいし、カッコいいと思ってほしい。「そのためにどうしたらいいんだろう?」ってまさに模索中です。