ナタリー PowerPush - チャラン・ポ・ランタン

姉・小春&妹・もも ふたりだけの世界

「鍵穴」が好きすぎるくらい好き

──では、ここから改めて新作の話を。まず、前作に対して今回はこうしようというビジョンみたいなものはありましたか?

小春 いや、何も考えず。周りは考えてたかもしれないけど、私は特に何も。あ、曲順はすごい考えましたけど。

──たくさんあるストックの中からどの曲を入れるかは?

左からもも(Vo)、小春(Accordion)。

小春 それも考えました。けど、どの曲も自分たちの曲だから、今回はこれをどうしても入れたいみたいなのはそんなになくて。

もも でも、アコーディオンのソロをどれにするかって話になったときに、この曲がいいっていうのは言いました。私、個人的に「鍵穴」が好きすぎるくらい好きで。

──「鍵穴」はいつ書いたものなんですか?

小春 曲は1年くらい前からあって。ある舞台用に書いたんですけど、ボツにされた曲みたいな。で、歌詞は最近。「たがいの鍵穴」っていうアルバムタイトルが先にあって、そこから書いたんですけど。

──実にいやらしいタイトルですが。

もも あはははは(笑)。

小春 「鍵穴」の歌詞も最初に書いたやつはボツられたんですよ。いやらしすぎるって言われて。

──これでも十分にいやらしいけどね。

小春 もっとやばかったの。“まさぐる”とかそういうので。

もも それ、見たかった。

──アルバム全体的にも、前作にも増してディープになった印象がありますが、どうです?

小春 でも全く内容が別物なんで、なんとも言えないけどね。こっちのほうが好きって人もいるだろうし、前のほうが好きって人もいるだろうし。そこは好みだと思うけどね。

──変拍子が多用されていたりと、構成が複雑な曲も増えてますよね。

小春 いやでも、全然複雑には聴こえないと思うよ。

もも わかって唄ってないんですよ。別のインタビューでも「変拍子が多いですね」って言われて、あ、そうなんだーって思って。

──「墓場までご一緒に」は前にも唄うのが難しいって言ってましたよね。

もも はい。でもそれが難しいのは、変拍子だからというより、息継ぎするポイントが少ないからなんですよ。まあ、いつものことではあるんですけど。

小春 アコーディオンで作るとそうなっちゃうんだよね。でも「墓場までご一緒に」は確かに難しい。自分でも難しいもん。割と考えて作っちゃったんだよね。考えるとあんなふうになっちゃうの。で、なんも考えないと「最期の準特急」みたいなのができる。

──え? 「最期の準特急」は何も考えないで作ったんですか?

小春 うん。あれ、なんも考えないで、10分くらいで作った。

──それもすごい。

もも どっちがいいかって訊かれたら難しいんですけどね。

正直、全部録り直したいです

──ボーカルに関して、前作のときはちゃんと表現しきれてないという反省点が大いに残ったと話してましたが、今回はどうですか? ももさん。

もも 今聴くと……正直、全部録り直したいです。

──力を出し切れなかったという思いがある。

もも うん。やってるときもずっと悔しい悔しいって感じでしたね。特に今回はあんまり声を張ってないのが2曲あって、「雪解け」と「旅立ちの唄」なんですけど、それが難しかったです。感情的だったりするほうが意外とスーッと唄えるんですけど。

──自分とは違うキャラを思い切って演じるもののほうが唄いやすくて、逆に自分に近いものほど難しいというところもあるんですかね。

小春(Accordion)

もも あ、多分、そう。うん。演じていたいのに自分が出てきそうになっちゃうんですかね。「雪解け」は1回録り終えたんですけど、聴き直してどうしても納得がいかなかったから、録り直したいですって言って。「雪解け」が一番悩みました。

──小春さんはボーカルのディレクションも具体的にしたりするんですか?

小春 ここはもっと泣いてる感じでとか、そのくらいのことは言いますけど、最後にももが納得いくいかないは、もも自身のことなので任せてますね。レコーディングの段階でもう1回唄い直してほしいとかは言わないです。ももが「このテイクがいい」っていうのが、多分一番いいやつだと思うんで。

──あのときのライブではすごく気持ちを込めて唄えたのに、レコーディングではそれができない、というようなもどかしさもあったりしました?

もも それはないです。ライブとは全く違うものなので。初めから違うものとして自分も唄ってるから。

小春 うん。それは別物ですからね。だから、あのときのももの声の出し方をレコーディングでも入れたいよね、みたいなことには全くならない。例えばライブのときのこの構成の4曲目で唄うからこう聴こえるみたいなのがあるじゃないですか? で、アルバムはアルバムで、この曲順だからこう聴こえるっていうのがあるし。それでいいと思うんですよ。だから別物。ライブのあの感じをCDでも、って言われても、だったらライブに来いよって話でね。そんな贅沢なこと言ってんじゃねえって話ですよ。

もも (笑)。っていうか、ライブと同じように唄える人なんているんですかね?

──そこで苦心している人は少なくないですよね。ライブのときのエモーションをいかにレコードに落とし込めるかと。

小春 だから、同じだと思うからそうなるんだよ。違うものでいいんじゃないですかね。

もも 100%違うものだと思いますよ。だって、ライブハウスでやるサウンドチェックでも気持ち的に全然違うし。本番で唄うくらいの声量で気持ち込めてみようと思って唄っても、やっぱりお客さんがいないと全然違う。お客さんが入ったあの空間のあの瞬間っていうのは、そのときだけのものだから。そのときにしかできない。

“ほぼ”フルアルバム「たがいの鍵穴」 / 2012年12月26日発売 / 1680円 / Mastard Records LNCM-1019
“ほぼ”フルアルバム「たがいの鍵穴」
収録曲
  1. 鍵穴 -a cappella-
  2. サイテーな女
  3. 雪解け
  4. 墓場までご一緒に
  5. 恋は盲目
  6. 最期の準特急
  7. 旅立ちの唄
  8. 鍵穴 -a ccordion-
チャラン・ポ・ランタン

1993年生まれのもも(Vo)と1988年生まれの小春(Accordion)による姉妹ユニット。2009年に結成。2010年8月に「チャラン・ポ・ランタンと愉快なカンカンバルカン」名義でアルバム「ただ、それだけ。」をリリースする。2012年9月には、約2年ぶりの新作アルバム「つがいの歯車」を発表すると同時に、ももが20歳の誕生日を迎える2013年4月9日までに3枚のアルバムをリリースすることを公約。12月にその2枚目となるミニアルバム「たがいの鍵穴」をリリースする。

2012年6月にはZAZEN BOYS、group_inouらとのカナダツアーを大盛況に収めるなど海外での活動も多数。過去にはイギリスでPINK FLOYDのデイビッド・ギルモアからのセッションの誘いを「なんか難しそうな曲だから……」と断るなどのエピソードも持つ。2012年に初出演を果たした「FUJI ROCK FESTIVAL」ではベストアクトの評価を多数獲得するなど、毎年約150本のライブ活動でファンを増やす。