ナタリー PowerPush - チャラン・ポ・ランタン
姉・小春&妹・もも ふたりだけの世界
何が起こるかわからないライブが評判を呼んでにわかに注目度が高まっている姉妹デュオのチャラン・ポ・ランタンが、12月26日に新作「たがいの鍵穴」をリリース。9月に出た2年ぶりのアルバム「つがいの歯車」はインディーズながらも都内CDショップの総合ランキング上位に食い込むなど本人たちも予想外の盛り上がりを見せたものだが、そこからわずか3カ月で発売となる今作はそれを上回ること必至。多重録音など初の試みもしながらボーカル・ももの“演じ唄”とアコーディオン・小春の“悲哀メロディ”をクッキリ際立たせたことで、前作にも増して濃密な仕上がりになっている。
本人たちも待望だった“ナタリー初登場”ということで、バックグラウンドについての話を含めてタップリ訊いた。
取材・文 / 内本順一 インタビュー撮影 / 広川智基
半分くらいの人は間違って来ちゃったんじゃない?
──9月にリリースされた2年ぶりのアルバム「つがいの歯車」があちこちで「傑作」の評をものにして、認知度も一気に高まりました。インディーズとしては破格の成功だったと言ってもいいんじゃないかと。
小春(Accordion) そうですかあー? 成功のラインってどれくらいなんですか?
──具体的な数字のラインはわからないけど、広がり方は目に見えてるでしょ。(10月27日に行われた)青山CAYでのワンマンライブも、前回のワンマンの倍以上の人が集まったわけだし。
小春 あれ、半分くらいの人は間違って来ちゃったんじゃない? 次の日になんかデカいイベントがあって、日にち間違ったんだと思うよ。
──ははは(笑)。でも、ちょっと前に比べるとずいぶん状況が変わってきたなとは思うでしょ?
小春 いや、全然まだまだだと思うから、なんとも言えない。個人的には前よりライブが減ったから、それがちょっとね。前は2日に1回くらいやってたから、その日にできなかったことは次の日にやればいいくらいの感じだったんだけど。
──曲制作やPV撮影など、作品まわりに費やす時間も増えたから。
小春 うん。だから1回のライブでやらなきゃならないじゃないですか。これは明日やればいいやみたいな感じにできないし、曲順とかもちゃんと決めていかなきゃいけないから、それが嫌ですね。本当はステージの上で決めたいくらいなんですよ。でもそういうわけにはいかないし。
──日常としてやっていたライブが少し特別なものになってきたことへの抵抗感?
小春 うーん。そうかな。本当は毎回リクエストを訊いてやるくらいでもいいと思ってるんだけど。
──でも、作り込んだライブはやり終えたあとの充実感も大きいのでは?
小春 どうだろ。
もも(Vo) 私はこの前のCAYのワンマンのときに、構成とか準備とか、いろいろ前からやんなきゃいけないことがあって、出番直前までバタバタしてて、すごい焦って。こんなの初めてだなって。落ち着かないし、緊張してるなって思いました。
──あのライブは単純にやることが多かったですもんね。
もも だから準備しておかなきゃいけないものとかをメモしてたんですけど、やっぱり抜けてることが多くて、ダメだダメだって思って。
──それだけにやり終えたときの充実感も……。
もも ありましたね。ひとつのライブを作ることに対して、私は今まで何もやらなさすぎたから。気持ちの面でもそうだし。ふわーって始まって、終わって、みたいな。それでも感じるものはたくさんあったんですけど、この前のワンマンみたいにひとつのライブに向けてどう楽しませるかみたいなことをあんなに考えたのは初めてでした。
──やりきったなって感じ?
もも 全然できてないなと思いましたけど。
小春 私はいつものライブと、やるっていうことの姿勢は変わらないから。ワンマンだから特別力を入れるとかはないですね。ただああいうワンマンとかだと、お客さんのワーッていう空気を楽しめるところもある。だからお客さんのおかげじゃないですかね。お客さんがああいう感じだったから良かったんだと思います。
小春が死んだら? よろしくやってると思うよ
──「つがいの歯車」のリリース前に話を聞いたとき、小春さんは状況の急激な変化に戸惑っていると言ってたでしょ。その後アルバムが出て、好意的に受け入れられた今、気持ちは変わりましたか?
小春 いや、まだ変わらない。多分あと3年くらいは慣れないんじゃないかな。
もも 3年かなあ?
小春 わかんない。5年くらいかも。ホントは今でもなるべく人と関わりたくないからね。他人の意見とかなるべく聞きたくないのに、こんなに聞かなきゃならない状況に自分から入り込んじゃったから。自分で自分の首を絞めてる感じ。
──でも後悔はしてないでしょ?
小春 わかんない。何年か後には良かったって言ってるかもしれないけど。
──今は楽しいからやっているというよりも、回し車の中をクルクル回っているハムスターみたいに止められない感じなんですかね。
小春 あ、そうそうそう! だからなるべく1人で考える時間とかを作らせないでほしい。止まって考えちゃうと良くないと思うんだよね。考えちゃうと……1人で海外とか行っちゃうかもしれない。「探さないでください」って置き手紙書いて(笑)。
──そしたら、ももさんはどうします?
小春 多分、こいつ、楽しくやってると思うよ。よろしくやってるんじゃない?
もも 何、よろしくやってるって!?
小春 知り合いのバックバンドとか引き連れてさ、小春の作った曲とかいろいろ引っ張り出して、「小春は今どこにいるのでしょう……」とか言いながら唄ってると思うよ。
もも いやいやいやいや。あのさ、ときどき思うけどさ、あなたにとって私はどういうキャラなの? どこでそう思うの?
小春 いや、割とそういうタイプだと思うよ。例えば小春が明日死んだとして、まあ、そこで泣くとしよう。でもちょっとしたら「小春のアコーディオンが私の全てでした」とか言いながら、全然違う人と一緒にやってると思うよ。よろしくやってると思うよ。
もも どういうキャラですか私は。小春が死んだら、よろしくやれないよ。
収録曲
- 鍵穴 -a cappella-
- サイテーな女
- 雪解け
- 墓場までご一緒に
- 恋は盲目
- 最期の準特急
- 旅立ちの唄
- 鍵穴 -a ccordion-
チャラン・ポ・ランタン
1993年生まれのもも(Vo)と1988年生まれの小春(Accordion)による姉妹ユニット。2009年に結成。2010年8月に「チャラン・ポ・ランタンと愉快なカンカンバルカン」名義でアルバム「ただ、それだけ。」をリリースする。2012年9月には、約2年ぶりの新作アルバム「つがいの歯車」を発表すると同時に、ももが20歳の誕生日を迎える2013年4月9日までに3枚のアルバムをリリースすることを公約。12月にその2枚目となるミニアルバム「たがいの鍵穴」をリリースする。
2012年6月にはZAZEN BOYS、group_inouらとのカナダツアーを大盛況に収めるなど海外での活動も多数。過去にはイギリスでPINK FLOYDのデイビッド・ギルモアからのセッションの誘いを「なんか難しそうな曲だから……」と断るなどのエピソードも持つ。2012年に初出演を果たした「FUJI ROCK FESTIVAL」ではベストアクトの評価を多数獲得するなど、毎年約150本のライブ活動でファンを増やす。