ちゃんみな|自分と向き合い受け入れた二面性

昨年夏に発売したアルバム「Never Grow Up」のタイトル曲のロングヒットを続けるちゃんみなが、「note-book -Me.-」「note-book -u.-」という2枚の新作をリリースした。これらはちゃんみなに内在する2つの世界観を2枚に分け、4曲ずつ表現したという作品。ロサンゼルスで全曲を制作した本作では、彼女が生み出すメロディやフロウも一段と磨きがかかっている。しかし今回の作品に漂うムードは全体的にダーク。スイートなラブソングもアグレッシブなラップチューンもどこか憂いが滲んでいる。今回のインタビューの冒頭で「2019年は病んでいた」と明かすちゃんみなは、そんな自分にどう向き合い、この作品を生み出したのか。2020年の展望と共に語ってもらった。

取材・文 / 猪又孝 撮影 / tAiki

病んだけど結果的には勝った

──ちゃんみなさんにとって、2019年はどのような1年でしたか?

よりアーティストになった年でした。いっぱい曲を作った年だった。感覚がちょっとディープになった感じです。

──感覚というのは曲作りに対して?

というか、すべてに対して第六感みたいなものが生まれた感じ。今思えば2018年って今と比べるとけっこう上っ面だったなと思うくらい、2019年はもっと深いところに入って曲を作っていたと思います。

──より深く自分と向き合っていった。

そうです。それで病みました。

──傍から見ると、アルバムを出してフェスに出てツアーも回って、どちらかというと光の中にいたように思いますが。

ちゃんみな

いや、めっちゃ影でした。病みましたね、すごく。

──じゃあ、2019年を漢字1文字で表すと“影”や“闇”になりますか?

それは“勝”なんですよね。2018年から2019年に年が明けた瞬間、最初に頭に浮かんだ漢字が“勝”だったんです。なぜかわからないけど「今年は勝つな」みたいな。

──いい導きじゃないですか。

私、毎年、日光東照宮に行っておみくじを引くんです。2018年は金運を引いて、そしたら本当にお金に困らなくなった。で、2019年は勝運を引いたんです。なんとなく「今年は勝つな」と思っていた矢先だったから怖すぎると思いました。

──それなのに病んだと。

病んだけど、結果的に勝ったなという感じがします。

──闇を克服したということですか?

克服というより、受け入れました。

──そもそもなぜ病んだんですか?

わからないんですよ、それが(笑)。

病み期に気付いた繊細な自分

──以前のインタビューで、ちゃんみなさんは前作「Never Grow Up」(2019年8月発売)で歌詞の書き方が変わったと話していましたよね。デビュー当初は自分の生い立ちやバックボーンを書いていたけど、感情にフォーカスするようになったと。それが引き金になったところもあるんでしょうか。

たぶんそうだと思います。「Never Grow Up」を作っていたときに感情の扉まで行ける道順がわかって。だからこそ、そこから先に行くしかなくて、それですごく病んじゃったんだと思う。

──扉を開けたらその先が真っ暗だった、みたいな。

そう。「私ってこれでいいのかな?」じゃなく「私ってなんなんだろう?」みたいな感じでした。それで2019年は今までにないくらいたくさん本を読みました。

──病んだ手がかりを探そうと?

「なんで私はこういう感覚になるんだろう」みたいなことを知りたくて。心理学とかひとりっ子の特徴の本とか、日韓ハーフの行動学とか、自分に当てはまるものをとりあえず読み漁りました。でもどれも当てはまらなくて、最終的にしっくりきたのが“HSP”という言葉だったんです。5人に1人はいると言われている人間の特性というか気質みたいなものなんですけど。

──HSP?

Highly Sensitive Personの略です。

──直訳すると極めて繊細とか、感受性が人一倍強いということでしょうか?

そうです。人の気持ちがなだれ込むように自分に入ってくるとか、ちょっと夢見がちとか、すべてのことを敏感に感じてしまうとか。「あ、私、とても繊細な子だったんだ」ってわかってからは“yeah!”って感じになりました。

ちゃんみな

自分の中にいる“みな”と“ちゃんみな”

──今回の新作は、その病んだ精神状態から制作に向かっていったんですか?

今回の作品はもともと作る予定がなかったんです。だけど「Never Grow Up」を発売するちょっと前くらいから作品を作りたい欲がどんどん出てきて、レコード会社に「どうしても作りたい作品がある」と直談判して、ロサンゼルスに行って10日間くらいで全部作りました。

──それまでに溜め込んでいたものを一気に吐き出したという意味で、デトックスにも近いかもしれないですね。

はい。何かを作りたい衝動がすごかったんですよね。マイナスな感情をいっぱい持って行って、向こうでプラスに変えてきた。かなり新鮮な状態で出せてると思います。

──今回、2部作にした理由は?

「note-book」というタイトルだけ最初から見えてたんです。なぜなら私のノートブックに溜めていた思いだったから。そのノートに書いたまんまの思いを作品にしたかったから「note-book」というタイトルにしようと。

──それを「Me.」と「u.」に分けたのは?

ある日、ノートに言葉を書いていたとき、私って少なくとも人格が2つあるんだろうなと思ったんです。それをわかりやすく言うと本名の“みな”とアーティストの“ちゃんみな”なのかなって。“みな”と“ちゃんみな”がいつの間にか分離してた……いや、ひょっとしたら最初から分離してたのかもしれない。

ちゃんみな

──“みな”は素の自分とかプライベートの自分ってこと?

それこそHighly Sensitive Personな部分を持った敏感過ぎる自分。で、“ちゃんみな”は力ずくで進んでいく自分ですね。私、すごく繊細なんですけど、一方ですごく雑なところもあって。二面性は誰にでもあると思うんですけど、私の場合その境界が曖昧なんですよね。たまに自分の意思じゃないことをしてしまうときがあるんです。

──頭の中では「それはやめとけ」と思っているのに衝動的にやっちゃうとか?

そうなんです。「なんで私、これをしてるんだろう?」みたいなことがあります。でも「自らやっていることだから本能なのかな?」と思ったりもして。それを考えるのが面倒臭くなっちゃって、もう「Me.」と「u.」でいいやって2枚に分けました。

──そこは雑な性格が顔を出した(笑)。

(笑)。私、誰かに言う言葉とノートに書く言葉が全然違うんですよ。曲を書いてるときだけ本心になるんです。でもそこを掘り下げれば掘り下げるほど、誰かに向けて話している自分と曲を書いている自分にむちゃくちゃギャップが出てくる。

──そんな自分に困惑してしまったと。

そう。困惑して病んだんですよ、たぶん。