ボイスメモに吹き込んだ5番目の恋
──「Me.」のリード曲である「ボイスメモ No. 5」は、どんなきっかけで書いたんですか?
「うーわ、この人どうしようもないな」みたいな人と出会ってしまったと思っていたら「まあ、私もどうしようもないしな」という結論に達して(笑)。もうどうしようもない同士でいいかも、いやむしろこの状態って完璧なんじゃないかなと思って作った曲です。
──ボイスメモも創作道具の1つですか?
そうですね。ボイスメモには私の本音が入っています。「ボイスメモ No. 5」に出てくる男性のことも誰かに話すときは「別に私、全然平気」みたいに言っていたんですよ。「彼は不器用なだけなんだよね」とか。だけどあとでボイスメモを聴き返したら「マジ最低」「意地悪だし、たぶんほかの子にも興味があるし」とか残っていて、自分が怖くなりました。
──でも相手の嫌なところが見えるということは、それだけ気になってるんですよね。無関心ではそうならない。
そうなんですよね。それに私自身もどうしようもないやつだっていうことが最近わかって。恋愛においては優等生だと思ってたんですよ。ちゃんと尽くすし連絡も取れるし手料理も作ってあげられるし……って。だけど既読スルーするときもあるし、やっぱり人として欠落してる部分があるんです。で、彼にもそれがあるから。
──その凸凹がフィットしてるんじゃないかと。
そう。逆にうまくいくんじゃないかって。君に欠落してるところは私は求めてない、君が特化してる部分は私が求めていたもの、私に欠落してる部分は君にとってはどうでもいいところ……ってバランスがすごくいいと思ったんです。
書き終わっていないノートから新しいノートに切り替えて
──2曲目「ルーシー」は、かつて憧れたアーティストのことを歌っているように思いました。
その通りです。憧れの人に向けて初めて書きました。アーティストになって売れて、そこで稼いだお金でごはんを食べていけたら幸せだと思っていたんです。だけどその人はあんなに売れてるけどたぶん幸せじゃないんだろうなというのが今になってわかってきて。私が憧れた、いわゆるトップスターと呼ばれるような人たちに幸せそうな人が1人もいないんです。それで需要があるのに不幸な人間はいるし、人間は不幸なほうに美しさを感じるんだなと思って。そうだとして、「話が違うよ、ルーシー」と始まるわけです。
──憧れの人の背中を追っていけば幸せになれると思っていた。でも現実はどうやら違いそうだと。
そうです。ということは私がめちゃくちゃ売れたとしても幸せにはならないんじゃないかと思って、それでも私はそこに向かって行くの?と。そういう思いを歌いました。
──「I cannot go back to you」では、たまには会いたいと思うけど、会うと踏ん切りがつかなくなりそうだと歌ってますが、タイトルの「cannot」がポイントですか? “戻らない”じゃなくて“戻れない”っていう。
だって、新しい人と出会っちゃったから。
──世の中にはヨリを戻すカップルもいますが。
私はヨリを戻さない人なんです。進んじゃったら戻れない。性格上そういうのは無理。ちなみに「Call」の「何がしたいのかわかんないんだよね」と同じメロディに「結局今でもわかんないんだよね」というリリックを乗せてリンクさせているんですけど、気付きましたか?
──わ、確かに。続いて「note-book」は、新しい恋が始まった気持ちを描いたラブソングですか?
そうです。これは「ボイスメモ No. 5」で歌った人の曲。あなたの名前がノートブックに出てくるようになったという歌です。
──歌詞に出てくる“新しいノート”は、新しい恋のノートでもあるし、人生のノートのようにも聞こえました。
そんな感じもありますね。人生なんて言うと大袈裟だけど切り替えの時期というか。ノートの最後まで書き切っていないけど、新しいノートにしちゃおうという感じに近くて。
──ここから新しいスタートだ、みたいな気持ちがこの曲からうかがえたんです。それこそ闇から脱出したくて新しいノートに変えたんじゃないかって。
まっさらな状態になったんですよ。新しい人と出会ったタイミングくらいで私がそういうマインドになれた。新しい人格に近いかもしれないです。
人生で一番美しい瞬間
──続いて「u.」のほうに話を移したいんですが、こちらのリード曲「Picky」はどんなきっかけから書いたんですか?
Highly Sensitive Personの話になるんですけど、私、すごくこだわりが強いんです。家を出るときは必ず右足からとか、そういう小さなこだわりが多くて「私ってpickyだな」と思って作った曲です。
──それを「u.」に入れたのは、ちゃんみなは周りからPickyと思われているだろう、と考えて?
それもあります。外からはワガママという意味でのPickyに見られてると思うし、「うん、そうだよ」というところもあるから。
──歌詞には嫌いなモノがでてきますが、“濃い緑”って何ですか?(笑)
コケとかですね。あと私メカブが大嫌いなんですよ。そう思うようになってから濃い緑が嫌いなんです。濃い緑を見るとメカブを思い出してしまって……濃い緑を見るだけでつらくなる(笑)。
──(笑)。
チェスも昔から嫌い。あと曲がってる線もイヤ。見てると気持ち悪くなっちゃう。
──曲がってる線は僕も苦手です。教科書のアンダーラインとかちゃんと定規で書きたいタイプ。
私もそのタイプです。先生が黒板で消し残してると授業中でもわざわざ前に行って消してた子で、歌詞にも「消し残し」という言葉を使いました(笑)。
──「u.」の1曲目「In The Flames」は、どんな思いから書いたんですか?
これは「Me.」の自分と「u.」の自分が同時にいる曲で、一番いろんなものが入り交じってる。人と距離を置きたい自分と距離を縮めたい自分、誰かにそばにいてほしい自分みたいなのが入り交じっていて、この曲はどっちに入れようかすごく迷ったんですけど「u.」にしました。
──タイトルを直訳すると「炎の中で」となりますが、炎はなんのメタファーですか?
さっき言った通り「不幸な人が結局いいんでしょ?」みたいな思いで、最後の「火花の近くではにかんだ私は世界一きれいだったでしょう」という歌詞を書いたんです。火花とか炎というのは哀しみの感情に近いですね。
──怒りとか情熱とか激しいほうのイメージではないんですね。
そういう火じゃないです。もう死んでもいいと思ってる感じ。私のイメージでは家が燃えて室内に煙が充満している状態なのに、1人で炎の近くにいるみたいな。炎の中にいるのに逃げ出そうとはせず、ただ絶望の中にいる感じ。そこで“はにかんだ”ということは「もう死ぬんだ」って全部受け入れてるんです。その姿ってムッチャキレイなんじゃないかなって。
──ふむふむ。
だって涙を誘うような光景じゃないですか。ということは美しいんですよ。人間は死ぬことが一番美しいんじゃないかと、これを書いてるときに思いました。みんな泣くし同情するし「会いたい」って一気にいろんな人に思われるし、その人のことをいろいろ考えるじゃないですか。それが人生で一番美しい瞬間だなって思ったんです。
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“Princess”の次は“Queen”を通り越して