BUMP OF CHICKENメンバーとクリエイターが語り合うパッケージ作品論、藤原基央がエンディングテーマに込めた「ヒロアカ」愛 (5/5)

「命のきらめき」を俺も知っている

──サビのところで金属音のような音が鳴っていますよね。あれもすごく効果的に作用していると思いました。

あれはパーカッションの一部なんですけど、いわゆるドラムセクションの中に含まれないようなタイプの音がたくさん入っていて。以前初めてやったインスタライブでリスナーの方にあの音は何かと質問されて、とっさに「命のきらめき」と答えたんです。これが何を表現しているのかというと──「ヒロアカ」の堀越(耕平)先生の絵ってすごいじゃないですか。1枚の絵の力だけで鳥肌が立つことが何度もあって、終盤はそれがさらに増している。みんな、すげえ生きてるんですよ。目のきらめきとか、汗の輝きとか、あるいはなんだかわからないけれどキラキラしたエフェクトが描かれていたりする。そのエフェクトが何を表現しているかはわからないけれど、どこにも違和感がない。こいつの命のきらめきだろうとしか思えないような表現がある。そういうものを「ヒロアカ」を読んで感じました。そして、俺もこれを知っていると思ったんです。

──というと?

「わかるわ!」と思ったんですよ。「ヒロアカ」はエネルギーがほとばしる感じが絵として視覚化されている。で、マンガの中だけじゃない、俺もこれを現実の世界でも見たことがある。それはステージに立っているときだと気付いたんですね。1つの曲を真ん中にしてお客さんとつながっているときに、そのお客さんの命がバチバチとほとばしっているのを感じる。自分自身にも感じます。歌いながら「がんばれ俺の命、あいつに届けろ、燃えろ」と、火花が線香花火のように激しく炸裂するような感覚がある。それを音にしたいと思いました。バンドメンバーに渡したデモ音源には入れてなかったけれど、マンガを読んでいたときからこれが脳内に鳴っていた。命が炸裂する音を「ヒロアカ」から浴びるほど感じたし、俺たちもステージの上でそれを実際に体験している。そういう音でしたね。

藤原基央(Vo, G)

藤原基央(Vo, G)

──わかりました。これは、最初にお伺いした「ヒロアカ」とBUMP OF CHICKENのどういうところが重なり合っているか、どういうものが共通項であり、この曲で何を歌うかということについての、とても的確な説明だと思いました。

ありがとうございます。うれしいです。ドラム以外のリズムトラックについてもっと話していいですか? 別のインタビューで「イントロに犬の声が入ってる」と言われたんですけど、たぶん僕の声なんです。エンジニアさんと話している声をチャマ(直井由文 / B)が勝手にサンプリングして、効果音みたいに加工してイントロに貼りつけた。

──メンバーのアイデアがそういうふうに採用されるのは、BUMP OF CHICKENのレコーディングや楽曲制作のエピソードとしてはあまり多くない印象があります。

僕の声をサンプリングしてどうこうしよう、みたいなことは僕は思いつかないので。いつもデモテープを作る段階で細かいとこまで打ち込んじゃうことが多かったんですけど、この曲はみんなでアレンジをやりたいという思いがあって。それがやっぱりいい方向に行ったなと思ってます。何しろ楽しかったです。

──1番のAメロで3回ハンドクラップを鳴らすところも印象的ですが、あれは?

あれもチャマのアイデアです。あそこでヒーローもヴィランも分け隔てなく手拍子をしたい、と。エンディングテーマになるのであれば、そこにアニメーションがつくわけで。あいつはデモを聴いた段階から勝手にそれを想像していたわけです。ここで3回手拍子の音を入れて、アニメーションではヴィランもヒーローもみんなで手を叩いている絵があったらいいな、と思ってたそうなんですね。俺はそれはすごく素敵だし、音楽的にも最高だと感じました。彼のアイデアに何も疑問を持たなかったのは、お互いに「ヒロアカ」が大好きだったからだと思います。全員が「ヒロアカ」が大好きで、通じ合うイメージを持っていた。だからすぐに「いいね、それ!」ってなる。チャマの言うこともすぐわかるし、俺が言うこともすぐに伝わる。そういう現場でした。

「ヒロアカ」が好きな人たちと分かち合いたかった

──いろんな音に意味合いが込められているんですね。

そうです。あとは、2番のサビのあとに砂嵐みたいな、テレビのホワイトノイズみたいな音が入りますけれど、あれはワン・フォー・オールの中とつながるような、意識がコンタクトするような、チャンネルが合うようなイメージです。まだまだほかにもいっぱいありますよ、小ネタは。今日は全部話すつもりだけどいいですか? 僕はそのための取材だと思ってますし、ここでしかしゃべれないことがたくさんあるので。

──お願いします。

この曲はサビが3回あって、それぞれの最後で「その前にいる」「そのための夜」「そのためにいる」と歌っているんですけれど、その歌い方がちょっとずつ違うんです。「その前にいる」の「ま」、「そのための夜」の「た」、「そのためにいる」の「た」の音を比べると、だんだん長くなっているんですね。これはデクのワン・フォー・オールの使いこなし度を表現しているんです。だんだんパーセンテージが大きくなっているという。

──なるほど!

大きなバトルになればなるほど、最後のスマッシュの“溜め”が長くなるじゃないですか。その表現でもあります。どのフレーズも最後が「る」で終わってるんですね。この「る」のところでぶん殴るイメージで歌ってました。

──お話を聞いて思ったんですが、この曲はアニメのエンディングムービーともすごくマッチしていると思います。「ヒロアカ」の物語全体を通してデクが成長していく様がエンディングムービーになっている。子供だったデクが成長し、役割を担い、いろいろなことを悟り、最後に原点のノートに戻る。あれを見て、アニメ製作サイドもこの曲のことをすごく愛しているなと思いました。

そう言ってもらえるとめっちゃうれしいです。

──サビのところのサウンドも印象的なものがありました。バンドサウンドにストリングスやホーンが加わって広がりが生まれるような響きになっている。「ヒロアカ」は群像劇であるし、ヒーローと一般市民の関係も描かれている作品だと思うんです。1人とみんなのストーリーでもある。その“みんな”の部分がサビのサウンドに表れていると感じました。

ありがとうございます。それは血肉になって表現されてると思います。3番のサビで「さあやっと見つけた ここまで来た もう触れるよ」と歌うところがあるじゃないですか。チューブラーベルとかも響いて、荘厳なイメージがある。その後半の「傷付けたとしても」から升(秀夫 / Dr)くんがスネアのリズムを叩くんですけれど、そのスネアと同じリズムで、ドラムセットをぐるりと囲むように配置したロートタムという打楽器を、ほかの3人が叩いているんです。まさにここで表現したいことがあって。

──それはどういうことですか?

「ヒロアカ」には1人のヒーローがたくさんの人の願いを背負うシーンがあるじゃないですか。神野区でオールマイトが戦ったときもそうだし。原作の404話「大好き!! オールマイト!!」の中で、かっちゃんが飛んでいくのに対してたくさんの人の祈りが預けられたシーンもそうです。それを表現したかった。升くんが叩いているスネアの音が真ん中にいるヒーローだとするならば、俺たち3人が叩いている周りのロートタムはそこに届けと多くの人たちが願っている思いみたいなものである。これを僕は勝手に「思いのトンネル」と名付けました。放たれたヒーローの拳というものは、人々の思いのトンネルをくぐっていくものだと思うんです。この「思いのトンネル」をどうしても表現したかったんですね。……まだまだあるんですよ。だけど、あまり言いすぎるのもあれなんで、これくらいにしておきます。あと“9”にまつわる仕掛けはもう1つだけ曲の中に入れてるので、興味があったら「これかな」「あれかな」と聴きながら考えてみてもらえたらうれしいです。

──わかりました。めちゃめちゃ面白かったです。途中からインタビューというより「ヒロアカ」談義になりましたね。

僕はこの夜を待ってたんですよ。こうやって話せる日を。だって話したいじゃないですか。「ヒロアカ」面白かったよね、最高だったよね、終わっちゃって寂しいよね、って。そういう思いを、「ヒロアカ」を読んだ人と、固唾を飲んでアニメを見守ってる人たちと分かち合いたかった。だからこういう話をしたかったんです。

BUMP OF CHICKEN

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プロフィール

BUMP OF CHICKEN(バンプオブチキン)

藤原基央(Vo, G)、増川弘明(G)、直井由文(B)、升秀夫(Dr)の幼なじみ4人によって結成。地元・千葉や下北沢を中心に精力的なライブ活動を展開し、1999年に1stアルバム「FLAME VEIN」、2000年に2ndアルバム「THE LIVING DEAD」をリリースする。これが大きな話題を呼び、同年9月にシングル「ダイヤモンド」でメジャーデビュー。2001年にシングル「天体観測」が大ヒットを記録した。2014年には7枚目のオリジナルアルバム「RAY」の発表をはじめ、初音ミクとのコラボレーション、初の東京・東京ドーム公演などでも話題を集める。2015年末には初めて「NHK紅白歌合戦」に出場した。2024年9月に10枚目のオリジナルアルバム「Iris」をリリースし、同月よりドーム、ホール、ライブハウスを巡る全国ツアー「BUMP OF CHICKEN TOUR 2024 Sphery Rendezvous」を開催。2025年12月にこのツアーの模様を収録した映像作品「BUMP OF CHICKEN TOUR 2024 Sphery Rendezvous at TOKYO DOME」と、テレビアニメ「僕のヒーローアカデミア FINAL SEASON」のエンディングテーマ「I」を収録したCDシングルを同時リリースする。

2025年12月5日更新