BUMP OF CHICKENメンバーとクリエイターが語り合うパッケージ作品論、藤原基央がエンディングテーマに込めた「ヒロアカ」愛 (3/5)

音楽ナタリーではBUMP OF CHICKENのニューシングル「I」とライブ映像作品「BUMP OF CHICKEN TOUR 2024 Sphery Rendezvous at TOKYO DOME」の同時リリースを記念した特集を前後編で展開中。後編では、「I」にまつわる藤原基央(Vo, G)のインタビューが実現した。

「I」はテレビアニメ「僕のヒーローアカデミア FINAL SEASON」のエンディングテーマとして書き下ろされた楽曲だ。かねてよりメンバー全員が「ヒロアカ」のファンであることを公言していたBUMP OF CHICKEN。物語がいよいよ完結へと向かう中、そのエンディングを彩る楽曲に彼らはどのような思いを込めたのか。藤原にじっくりと話を聞いた。

インタビューでは、楽曲の制作背景や、タイトルに込められた「必然」とも呼べる偶然、サウンドに隠された緻密な仕掛けまで、話題が尽きず、取材時間は予定を大幅に超過した。「ヒロアカ」への愛とともにたっぷりと語ってもらったインタビューをお届けする。

取材・文 / 柴那典撮影 / 太田好治

純度100%「ヒロアカ」で、純度100%BUMP OF CHICKEN

──エンディングテーマの話を受けて、まずどこから楽曲制作が始まりましたか?

昨年の「Sphery Rendezvous」ツアーの金沢公演(2024年11月24日・25日)のときに「エンディングテーマのオファーがあった」という話をスタッフから聞いたんですけれど、その時点ですでにサウンドのイメージはありました。というのも、もともと僕は「僕のヒーローアカデミア」が大好きで。オファーをいただく前から、マンガを読んでいるときに脳内で勝手に鳴っていた音があったんです。なので「おそらくそのサウンドを形にするのだろう」という腹づもりはありました。ただ、最初にできたのは歌詞とメロディです。厳密に言うとわずかに歌詞が先で、その歌詞が引っ張り出してきたメロディという感じでした。

藤原基央(Vo, G)

藤原基央(Vo, G)

──歌詞はどういうところがとっかかりになりましたか?

いつも話していることですけれど、何かの主題歌を書かせていただくときは必ず、「先方が表現してきた世界や概念」と「自分たちが表現してきた世界や概念」が重なるところに立って、そこから言葉を抽出しています。今回もそうです。なので、できあがったものは純度100%「ヒロアカ」でもあるし、純度100%BUMP OF CHICKENが伝えたいことでもある。今回の曲で言えば、俺たちがステージに立ってリスナーを目の当たりにして感じたこと、リスナーに伝えたいことでもあります。

──「ヒロアカ」とBUMP OF CHICKENが重なり合う部分は大きいのではないかと思います。

勝手にそう感じていました。シンパシーを感じるところは大きいです。

──いろんなテーマが描かれている作品だとは思うんですが、どういうところにシンパシーを感じましたか?

この話が刺さったとか、このシーンで泣いたとか、ここのシーンをずっと覚えてるとか、そういうものがたくさん「ヒロアカ」の物語の中にありますけど、どこがどのようにというのは言語化できません。感動が涙という形で出たので、それ以上に表現することは無理かなという気がします。

──曲を作るにあたって、改めてマンガを読み返したりアニメを観返したりはしましたか?

しました。ただ、曲を作るから読み返そうとか、そういう動機ではありませんでした。2024年はずっとツアーと制作をやっていて、その最中に原作が完結したんです。ツアーと制作が終わってからは次のライブの予定も決まってないから、そのあとはみんなでゆっくり休む期間になっていて。そこで終わったばかりの大好きな作品をイチから読み直したい、という単純な動機でした。それでマンガも最初から読んだし、アニメも最初から観ました。

歌詞はあらゆるキャラクターのセリフになり得るものであってほしい

──歌詞のフレーズはどんなふうに生まれていったんでしょうか?

これもよく言うことですけれど、感覚としては自動書記のような感じです。嘘みたいだけど、これが一番真実に近い言い回しなんです。もちろん考えて書いているんですよ。「この言葉じゃないな」とかやっているんだけど、あとから振り返ると本当にそれに近い。今回は曲作りのためにスタジオに入っても、最初は全然書けなくて。3回目の最後に歌詞の片鱗を書いて、4回目でワンコーラス、5回目でフルコーラスが書けた。最初の3回は「これしかない」という言葉を厳選する時間だったのかなと思います。

──「ヒロアカ」の物語性や世界観についてはどんなふうに意識しましたか?

歌詞について「これは特定のキャラクターのことなのか?」って聞かれたりすることがけっこうあるんですよね。デク(緑谷出久)と死柄木弔なのか、かっちゃん(爆豪勝己)なのか、オールマイトなのか、とか。でも、それは一切ないです。特定のキャラクターを思い浮かべて書くということを僕はしていないです。書かなきゃいけないことは、特定のキャラクターのセリフだとか思考だとかシーンだとか、そういうものではないと思っていて。それよりも、この「ヒロアカ」の世界に漂っている空気とか匂いとか、雨が降るのであればその雨の冷たさとか、一粒一粒の質感とか、湿度とか音とか。風が吹いていれば、その強さ、冷たいのか生暖かいのか、その風の中でどんな匂いが混じっているのか。光が差しているんだったら、その光はどこからの光なのか、どのくらいの量がどんな形でそこに注いでいるのか。その世界を構成している元素に近いものを僕は書くべきだと思っています。

藤原基央(Vo, G)

藤原基央(Vo, G)

──特定のキャラクターをイメージした言葉を書いたわけではない。

強いて言うのであれば、あらゆるキャラクターのセリフにもなり得るものであってほしいと思っています。あらゆるキャラクターのオリジンだったり、彼らの生き様を串刺しにできるようなものであるべきだと思います。例えば歌詞に「さあ やっと見つけた」というフレーズがありますけれど、そこはデクやオールマイトはもちろん、たとえオール・フォー・ワンであってもこの一節を言えるようなものであってほしい。そこにも説得力が欲しい。そのくらい強固なものでなきゃいけないな、と。

──この曲はファイナルシーズンのエンディングテーマですが、ファイナルシーズンのストーリーというよりは「ヒロアカ」の物語全体をイメージさせる曲になっていると思います。そういう意識はありましたか?

そこはあまり考えていなかったんですけど、結果そういうものが正しいという気がしていました。全体を串刺しにするようなものが最後にふさわしいという。それが自分の中で自然なことだったから、いちいち考えもしなかったのかもしれないです。

2025年12月5日更新