BUMP OF CHICKEN「SOUVENIR」藤原基央インタビュー&作品レビュー|再確認した“音楽を受け取る人”の大切さ (3/3)

柴那典による「SOUVENIR」レビュー

たくさんの人たちが、それぞれの思いを持って、ひとつの場所に集まる。声を重ねて歌う。以前は当たり前に思っていたそんな機会が、コロナ禍で制限されてきた約3年間を経て改めて実現すると、それだけでとてもプレシャスなことに感じられる。

先日NHK総合にて放送された「BUMP OF CHICKEN 18祭(フェス)」を観たときに、まず感じたのはそういうことだった。アーティストと18歳世代(17~20歳)が一度限りの共演をするというコンセプトで2016年にスタートしたこの企画。参加を希望する18歳世代が応募動画を送り、それを観たアーティストが動画に込められた思いを踏まえて新曲を制作する特別番組だ。

コロナ禍のここ数年は企画自体が中止になったり、リモートでの収録になったりしたこともあった。また、前述のインタビューでも触れられているように、今回は藤原基央の新型コロナウイルス感染により、予定していた収録が11月から3月に延期になった。そうした経緯を経て、ようやく集まることのできた1000人がBUMP OF CHICKENと1つの曲をともに歌い、演奏し、形にした光景は、とても感動的なものだった。

「窓の中から」は、バンドが投げかけた「自分のこと」というテーマに応えて18歳世代から送られた応募動画にインスパイアされて作られた1曲。「すごく小さな窓の中から 世界を見て生きてきた」という歌詞がとても印象的だ。「カーテンの内側限定のため息 愛読書みたいに並んでしまった独り言」と歌われるように、「窓の中」というのは、誰しもの胸の内にある、たった1人だけの領域を象徴する言葉なのだろう。

BUMP OF CHICKEN

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豊かなハーモニーも聴きどころだ。曲が後半に差しかかるにつれて声が分厚くなっていき、スピーディな掛け合いも含む技巧的で難易度の高いコーラスアレンジがなされている。「同じように一人で歌う誰かと ほんの一瞬だけだろうと 今 重ねた声」というフレーズから後半は、管楽器が加わったり、アカペラになったりと、どんどん熱量が高くなっていく。曲のテンションがクライマックスに達したあとに「これからの世界は全部 ここからの続きだから 一人で多分大丈夫」と歌うアウトロのパートも、とてもエモーショナルだ。

特筆すべきは、同世代の1000人が集まって歌うという「18祭」のコンセプトに応じて書き下ろされた楽曲でありつつ、歌詞には「僕ら」とか「仲間」のような言葉は一切なく、その代わりに繰り返し「一人」という言葉が出てくるということ。そこにはBUMP OF CHICKENがこれまで歌ってきた楽曲と一貫するメッセージが息づいている。

そして、「たくさんの人たちが、それぞれの思いを持ってひとつの場所に集まる」ということや「ひとつの曲に声や思いを重ねて歌う」ということがいかにプレシャスなことであるかについては、きっと、ここ最近の彼らのライブに訪れた人たちも強く実感しているはずだ。

昨年7月に幕張メッセで開催された「BUMP OF CHICKEN LIVE 2022 Silver Jubilee at Makuhari Messe 02/10-11」はバンドにとって約2年8カ月ぶりの有観客ライブとなった。本来なら結成25周年を迎える2月10、11日に開催されるはずだったライブの延期公演だ。「ようやく会えた」という実感が、ステージの上の4人と集まった3万人の間に広がった場所だった。

BUMP OF CHICKEN

BUMP OF CHICKEN

昨年10月から12月にかけては、全国6都市12公演を回るライブハウスツアー「BUMP OF CHICKEN TOUR 2022 Silver Jubilee」が開催された。シングルの表題曲「SOUVENIR」はそのツアーで披露された1曲。テレビアニメ「SPY×FAMILY」第2クールのオープニング主題歌として提供された楽曲で、軽やかな曲調に乗せて心躍るようなメロディを聴かせてくれる、ここ最近のBUMP OF CHICKENの楽曲の中でもとりわけキュートなポップチューンだ。

「この目が選んだ景色に ひとつずつリボンかけて お土産みたいに集めながら続くよ 帰り道」とサビでも歌われている通り、この曲がモチーフにしているのは“帰り道”。歌詞にも歌声もみずみずしい喜びのエモーションが刻み込まれている。リズミカルなバンドアンサンブルもポイントで、特に中盤は爽快なギターカッティングとハンドクラップが絶妙に絡み合う。ライブの場ではオーディエンスが手拍子に参加してステージとの一体感が生まれていた。

「クロノスタシス」も「BUMP OF CHICKEN TOUR 2022 Silver Jubilee」で披露された1曲。キラキラとしたシンセのアルペジオと浮遊感を漂わせるビートが印象的な、ミドルテンポのエレクトロポップだ。「飾られた古い絵画のように 秒針の止まった記憶の中」という歌詞からは、時計の秒針が止まっているように見える現象を意味するタイトルの「クロノスタシス」という言葉にかけつつ、かけがえのない存在を失った切ない感情が感じ取れる。映画「名探偵コナン ハロウィンの花嫁」の主題歌として提供された1曲だ。

そして現在、BUMP OF CHICKENは2月11日の東京・有明アリーナ公演を皮切りに全国11か所20公演を回る全国ライブツアー「BUMP OF CHICKEN TOUR 2023 be there」の真っ最中だ。オーディエンスのシンガロングやコール&レスポンスがひさびさに復活したライブは、ステージの4人にとっても、とても特別な思いを持って感じられるものになっているのではないだろうか。そして、その体感は、この先にバンドが生み出す楽曲にもなんらかの刺激として影響をもたらしそうな気がする。

ライブ情報

BUMP OF CHICKEN TOUR 2023 be there(※終了分は割愛)

  • 2023年4月8日(土)宮城県 セキスイハイムスーパーアリーナ
  • 2023年4月9日(日)宮城県 セキスイハイムスーパーアリーナ
  • 2023年4月20日(木)北海道 北海道立総合体育センター 北海きたえーる
  • 2023年5月2日(火)広島県 広島サンプラザホール
  • 2023年5月3日(水・祝)広島県 広島サンプラザホール
  • 2023年5月13日(土)和歌山県 和歌山ビッグホエール
  • 2023年5月14日(日)和歌山県 和歌山ビッグホエール
  • 2023年5月27日(土)埼玉県 さいたまスーパーアリーナ
  • 2023年5月28日(日)埼玉県 さいたまスーパーアリーナ

プロフィール

BUMP OF CHICKEN(バンプオブチキン)

藤原基央(Vo, G)、増川弘明(G)、直井由文(B)、升秀夫(Dr)の幼馴染4人によって結成。地元・千葉や下北沢を中心に精力的なライブ活動を展開し、1999年に1stアルバム「FLAME VEIN」、2000年に2ndアルバム「THE LIVING DEAD」をリリースする。これが大きな話題を呼び、同年9月にシングル「ダイヤモンド」でメジャーデビュー。2001年にシングル「天体観測」が大ヒットを記録した。2014年には7枚目のオリジナルアルバム「RAY」の発表をはじめ、初音ミクとのコラボレーション、初の東京・東京ドーム公演などでも話題を集める。2015年末には初めて「NHK紅白歌合戦」に出場した。結成20周年となる2016年2月にはアルバム「Butterflies」を発表し、地元・千葉県の幕張メッセにて「BUMP OF CHICKEN結成20周年記念Special Live『20』」を開催。2022年4月に映画「名探偵コナン ハロウィンの花嫁」の主題歌「クロノスタシス」をリリースし、7月に幕張メッセでワンマンライブ「BUMP OF CHICKEN LIVE 2022 Silver Jubilee at Makuhari Messe 02/10-11」を行った。2023年4月にテレビアニメ「SPY×FAMILY」第2クールオープニングテーマの表題曲や「クロノスタシス」、NHK総合「BUMP OF CHICKEN 18祭(フェス)」のテーマソング「窓の中から」を収録したCDシングル「SOUVENIR」と、ライブ映像作品「BUMP OF CHICKEN LIVE 2022 Silver Jubilee at Makuhari Messe」を同時リリース。5月まで全国アリーナツアー「BUMP OF CHICKEN TOUR 2023 be there」を開催している。