ドラマチックな演出と初期衝動が融合した奇跡のステージ兵庫慎司
この作品に関して大事なポイントである、と観て思った点について、順番に書いていきます。
1つ目は、ライブ映像作品になる以前の話で、このツアー自体が、バンプにとって特別なものだったことだ。MCで藤原基央本人も口にしていたように、このツアーは、バンプにとって初の試みだった。曰く、「初めて自分たちからやりたいと言って決まったツアー」、つまりメンバーが何も言わなくてもセオリーとしてスタッフ側がスケジュールを決めるような、何かのリリースに紐付いたツアーではなかった、ということだ。
厳密に言うと、2017年はこのツアーのスタート前に「リボン」と「記念撮影」の2曲がデジタルシングルで発売されているが、それをお披露目するという意味合いではなかった、それらが出ていようがいまいが行うつもりのツアーだった、ということなのだろう。ゆえに、通常のアルバムなどのリリースツアーとも違うし、2016年に行った結成20周年ライブとも異なる、今回のこのツアーならではの選曲、曲順になった。
半年かけて16会場29公演、アリーナもライブハウスも含めて回る、という規模の大きさも、バンプのツアーとしては初だったのではないかと思う。
それから、どんなにキャパが大きくなろうと、ライブハウスの頃のままのシンプルなステージングを貫いて来たが、2013年に千葉・QVCマリンフィールド(現・ZOZOマリンスタジアム)で行ったベストアルバム発売記念ライブあたりから映像や特効といった「普通スタジアムバンドならやるでしょ」ということをようやく取り入れ始めたのがバンプだが、それがいよいよ極まったと言える、派手で華やかでドラマチックな演出が随所に施されたライブだったことも、初だと言える。
特に、ステージ中央から長く伸びた花道の先がセカンドステージになっている、という作りが目を引いた。「宇宙飛行士への手紙」で、増川が1人でそこまで出て行ってギターソロを弾いているが、そんな、ほかのバンドなら普通であろうシーンも、昔のバンプなら考えられなかったことだ。10年前の自分が観たらびっくりすると思う。
で、次は、ライブ映像作品としてのポイント。これまでバンプのライブ映像作品は……いや、ライブ映像作品だけでなくMVも番場秀一が監督することが多かったが、「ray」からバンプのMVを手がけるようになり、2016年のアルバム「Butterflies」ではジャケットやアーティスト写真やMVなどのクリエイティブを担当した東市篤憲が、本作の監督をしていることだ。
正直、すごく新鮮だった。「え? こんなライブだったっけ?」と、何度もびっくりした。僕はこの収録日に会場にいたし、ツアー前半の10月3日の新潟朱鷺メッセも観ているにも関わらずだ。
かなり細かく短時間で、パッパッパッと画面を切り替えていく編集なのだが、どのカメラのどのアングルで、メンバーの中の誰の(あるいは引きの会場全体の画の)、どの瞬間を切り取るかが絶妙、かつ意外。さっき「こんなライブだったっけ?」と書いたが、瞬間によっては「こんなバンドだったっけ?」と思えることすらある。つまり、僕はこのライブをこういうふうには観ていなかったということだな、と、今書きながら自覚したが、それと同時に、バンプをこういうバンドとして認識してはいなかった、ということでもあるかもしれない。と考えると、なんだかすごい気がする。
そして最後のポイントは、生で体験したときも、この映像作品を観たときも思ったが、BUMP OF CHICKENというバンドの、ある種の特殊さがわかりやすく表れたツアーだった、ということだ。
つまり、バンドを始めた頃の初期衝動を今でも保ち続けている。こんな大規模の、こんな派手で凝った演出のツアーを行うようになった今でも。
どういうことかと言うと、つまり、自分たちが今こうして音楽をやれている、その音楽がこんな多くの人と出会うことができて愛されている、こんなにいっぱいの人がライブに足を運んでくれる、という事実に、まったくもって慣れていない、ということだ。
人気があるとか動員がすごいとかいう外面的な意味でも、自分たちの音楽がこれだけ大きく広く深く伝わっているという内面的な意味でも、これだけ長いことやってきても、1つも普通のこととして受け入れることができていない。よく言えば奇跡、悪く言えば何かの間違いとか偶然じゃないかと思いながら、1本1本のステージに立ち続けている、と言うか。
だからビビっているし、怖いし、もうライブやりたくない、音楽やりたくないと思うことも頻繁にある。でも、そんなギリギリなところに立ち続けているがゆえの、他の何にも替えられない、かけがえのない喜びも、確かにある──ということが、画面を観ながら音に耳を傾けているだけで伝わってくる、そんな作品になっている。
この日のアンコールで1人ずつMCをした際、チャマはまさにそのような「1回も普通に思えない、当たり前に思えない、だからやりたくなくなるくらい怖いけど、だからこそやり続けたくなる喜びもある」というような話をしていた。しゃべりながら、感極まって涙ぐんでいた。
本作にそのシーンは収録されていないが、そんなふうに言葉にしなくても、この映像作品を観てもらえれば伝わるだろうから必要ない、と、判断したのではないかとも思う。
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- BUMP OF CHICKEN(バンプオブチキン)
- 藤原基央(Vo, G)、増川弘明(G)、直井由文(B)、升秀夫(Dr)の幼なじみ4人によって結成。地元・千葉や下北沢を中心に精力的なライブ活動を展開し、1999年に1stアルバム「FLAME VEIN」、2000年に2ndアルバム「THE LIVING DEAD」をリリースする。これが大きな話題を呼び、同年9月にシングル「ダイヤモンド」でメジャーデビュー。2001年にはシングル「天体観測」が大ヒットを記録した。2014年には7枚目のオリジナルアルバム「RAY」の発表をはじめ、初音ミクとのコラボレーション、初の東京ドーム公演などでも話題を集めた。2015年4月にはテレビアニメ「血界戦線」の主題歌「Hello,world!」と映画「寄生獣 完結編」の主題歌「コロニー」を収録した両A面シングルをリリース。同年末には初めて「NHK紅白歌合戦」に出場した。結成20周年となる2016年2月、約2年ぶりのフルアルバム「Butterflies」を発表し、地元・千葉県の幕張メッセにて「BUMP OF CHICKEN結成20周年記念Special Live『20』」を行った。2017年には「リボン」「記念撮影」と2作の配信シングルをリリースし、9月より全国ツアー「BUMP OF CHICKEN TOUR 2017-2018 PATHFINDER」を開催。このツアーのファイナル公演の模様を収めたライブDVD / Blu-ray「BUMP OF CHICKEN TOUR 2017-2018 PATHFINDER SAITAMA SUPER ARENA」を8月8日にリリースする。また、スマートフォン向けゲーム「妖怪ウォッチ ワールド」CMソングの「望遠のマーチ」が最新曲として配信中。