ナタリー PowerPush - BUMP OF CHICKEN

ツアーの熱を封じ込めた「firefly」誕生

僕はあなたたちのおかげでこの曲を書けた

──「firefly」の曲作りは何を起点に進んでいったんですか? コードからなのか、イントロで鳴ってるギターのアルペジオからなのか、それとも歌詞からなのか。

藤原 ああ、それで言ったら言葉かなあ。さっきの話と同じ説明になりますけど、その時点で歌いたかった言葉を紡いでいく感覚ですよね。ただ、この曲の歌詞に書いたようなことを歌いたいという思いは「COSMONAUT」の頃からあって。それがドーンと出てきた感じです。その言葉がコードを呼んでっていう。

──歌詞は、衝動的に飛び出した「蛍みたいな欲望」が、いつしか「夢」を描いて、それこそがその人自身の「物語」と「光」を生んでいくという描写から始まります。やがて抗えない困難な現実に直面して、その人が「夢」を諦めなきゃいけない局面が訪れたことを厳しい視点で書いていて。でも、最後に掲げられているのは諦めてもなお消失しないその人の根源的な「光」であり、「物語」を続ける強さで。

藤原 「蛍みたいな欲望」の歌、それ以上でもそれ以下でもないと僕は思っているから、歌詞の捉え方は曲を聴いてくれる人それぞれであってほしいと思うんですけど。それはいつもどおり、どの曲でも一貫してます。ただ、あえて踏み込んで言うなら……「夢は叶うよ」という言葉って、古くから言われていますよね。これって、実際には必ずしもそうならないからこそ生まれた言葉だと思うんです。誰かにその言葉を言われて励まされた人も、その人が困難な局面に立っているからこそ響いたはずで。それは僕が言うまでもなく、誰もが身を持って知っていることだと思います。

──「firefly」の歌詞は、今その人がどう生きていて、その「夢」がどういう状態にあるのかという視点が貫かれているしね。だからこその厳しさがあって。

藤原 うん。欲望から生まれた大切な夢を、どうしても諦めなければいけなかった人たちがいる。道が閉ざされたら、切実な思いがあるほどその事実を受け入れるにはすごく時間がかかる。ただ、それでも勇気を出して諦めることは、歌詞には「黄金の覚悟」と書いていますけど、それはすごく輝きのある行為で。

──それがこの曲の核心だと思う。

藤原 僕がそれを思ったときにこの歌ができたんです。誰かにエールを送りたいと思って書いたのではなくて、あくまで僕がそういう思いを抱いたから書いた歌なんですね。ただひとつ思うのは、うまく言えないんですけど、ツアーでお客さんと裸の付き合いができた感覚があって。それがあって「僕はあなたたちのおかげでこの曲を書けたんだよ」って思いますね。

曲と相談しながら、曲に教えてもらいながら作ってる

──サウンドは、まずドラムがすごく印象的で。リズムの軸は力強く打たれる4分の4拍子で、リムショットを用いたバックビートも大きなポイントになっている。

藤原 アレンジは1人でデモテープを作っている段階からいろいろ試しました。ドラムのアプローチはプロデューサーと一緒に考えて、僕はスネアの位置を工夫するみたいな。そういう遊びは「COSMONAUT」から結構やっていて。この曲はニーヨン(2拍目、4拍目にアクセントを置くこと)を使って遊んでみようとデモを作ってるときに思いましたね。最初のAメロにリムショットを入れることになったのは、プロデューサーの意見ですね。そのアイデアを秀ちゃんに渡して、相談しながら進めていきました。

 確かに印象的なドラムになってますよね。藤原くんからデモをもらったときは、すごくカッコいい曲ができたなと思うと同時に、いちプレイヤーとしてビックリしたのを覚えてます。打ち込みのドラムが入ったデモの段階から、細かい部分までいろんなアプローチが施されていて。でも、それがただトリッキーになっているのではなく、曲のダイナミズムと有機的に結びついていたんですよね。この曲でドラムが果たしている役割はかなり大きいぞと思いましたね。それを受けて、自分ができることをしっかりやるという意識を持ってレコーディングに臨みました。デモのイメージを活かしながら、ダイナミックな曲にすることができた満足感があります。

──さっきも言いましたけど、イントロから鳴ってるアルペジオもすごくドラマチックで。このアルペジオのフレーズが、楽曲全体の重みと光彩を象徴しているとも思う。

藤原 アルペジオなんだけど、リードとしての役割を担うような、そういうフレーズが欲しいなと思って。コード進行がこのフレーズを生んだところがありますね。それは間奏の「オーオーオーオー」というコーラスもそうです。

──そう、あのコーラスの存在感も重要ですね。

藤原 プロデューサーからコーラスを入れてほしいって言われて。どういう意図だったかはわからないんですけど。で、数テイク歌って、結構早めにこのフレーズに決まりましたね。僕もすごく満足してて、全ての音が一丸となっている感じがあのコーラスで表現できたかなと思います。

──イントロからサウンド全体に奥行きを与えているシンセやサビで鳴るグロッケンも有機的に作用していて。

藤原 ありがとうございます。

──それでいて、シンプルに歌が響いてくるしね。それは毎度のことながら、ですけど。

藤原 うん、そうやってシンプルに聴こえるべきだと思うし、いつもそこに向けてアレンジ作業をしていますね。でも、どれだけアレンジにこだわったとしても、曲がちゃんと伝わらなければ本末転倒なので。曲自体もそれを望んでいると思うから。曲と相談しながら、曲に教えてもらいながら、僕らは音やフレーズを拾っていく作業で。どの曲でもそうです。だからそう言ってもらえると、すごくうれしい。

──どんどん熱が帯びていく藤原さんのボーカルもすごい迫力だなと。

藤原 ありがとうございます。もうそこに関しては自然にこうなったとしか言えないんですけど。うれしいです。

BUMP OF CHICKEN(ばんぷおぶちきん)

プロフィール画像

藤原基央(Vo, G)、増川弘明(G)、直井由文(B)、升秀夫(Dr)の幼なじみ4人によって、1994年に結成。高校入学後に本格的な活動をスタートする。地元・千葉や下北沢を中心にライブを続け、1999年にインディーズからアルバム「FLAME VEIN」を発表。これが大きな話題を呼び、2000年9月にはシングル「ダイヤモンド」で待望のメジャーデビューを果たす。

その後も「jupiter」「ユグドラシル」といったアルバムがロックファンを中心に熱狂的な支持を集め、2007年には映画「ALWAYS 続・三丁目の夕日」主題歌に起用されたシングル「花の名」を含むメジャー3rdフルアルバム「orbital period」をリリース。2008年には全国33カ所41公演、22万人動員の大規模なツアーを成功させた。

2009年11月に両A面シングル「R.I.P. / Merry Christmas」を発表したあとは、精力的なペースで楽曲をリリース。2010年4月にシングル「HAPPY」「魔法の料理 ~君から君へ~」を、10月にシングル「宇宙飛行士への手紙 / モーターサイクル」を発売。12月には宇宙飛行士を意味する単語をタイトルに冠したアルバム「COSMONAUT」をリリースした。

さらに2011年2月には「映画ドラえもん 新・のび太と鉄人兵団 ~はばたけ天使たち~」の主題歌として書き下ろした「友達の唄」をシングルとして、5月には東日本大震災被災者を支援する「復興支援ポータルサイト」のテレビCMソング「Smile」をチャリティシングルとして発表。10月に、PSPゲームソフト「FINAL FANTASY 零式」テーマソングとして書き下ろした「ゼロ」をシングルリリースし、同年12月から2012年1月にかけて、約3年半ぶりの全国ツアー「BUMP OF CHICKEN 2011-12 TOUR『GOOD GLIDER TOUR』」を開催した。

また2012年1月には、3D映画「ALWAYS三丁目の夕日'64」の主題歌に起用されたシングル「グッドラック」を発表。さらに4月から7月にかけて全国13都市20公演のアリーナツアー「BUMP OF CHICKEN 2012 TOUR『GOLD GLIDER TOUR』」を行い、大盛況のうちに終了させる。そのツアー中に生まれた「firefly」を、9月にシングルとしてリリース。