ナタリー PowerPush - BUMP OF CHICKEN

ツアーの熱を封じ込めた「firefly」誕生

緊張感を消さないように作った「ほんとのほんと」

──カップリングの「ほんとのほんと」についても訊かせてください。人と人の心と心が通じ合う尊さが歌われたバラードで。アリーナツアーのアコースティックセクションを彷彿とさせる趣もあるんですけど、この曲を書いたのはツアー後ですか?

藤原 ツアー直後ですね。カップリングは、さっき言った他にあるいくつかの未発表曲のどれかにしようかなとも思っていたんですけど、やっぱり「firefly」に対するカップリングの曲作りをちゃんとしたいなと思って。あとは、いくつかの未発表曲を「firefly」のカップリングとして考えたときにしっくりくるものがなかったんですね。それで、またスタジオに入って書きました。

──この曲がアコースティック調なサウンドになった理由は?

藤原 やっぱりこれも生理的なものとしか言えないんですけど。アコースティックなアプローチをしようと思って作ったわけでもないですし、もっと豪勢なサウンドにしようと思えば全然できるんです。そうすることでドキドキもワクワクもするんですけど、それによって消えてしまう緊張感みたいなものもあって。この曲は、そういう緊張感を全面に押し出したアレンジをするべきだと僕は思ったんでしょうね。

──なるほどね。確かにそれを求めている歌だと思います。

藤原 はい。まず曲ができてから、シンバルは打たずにキックとスネアをドン、バン、ドン、バンと打ち込んで。ギターはコードストロークのみなんだけど、曲が進むにつれてストロークの音数やピッキングの強弱でアプローチしていく。ベースはギターのストロークに対して、歌うようにフレーズを紡いでいくと。ギターとベースが曲のダイナミズムを表現しているんですけど、ドラムはずっとループしていくっていう。

──そのドラムのループ感がサウンド全体をしっかり支えている。

藤原 そうですね。デモでは僕が打ち込んでいますけど、僕の頭の中では升くんが熱を持ってドラムを叩いているイメージが浮かんでいるんです。同じフレーズを叩きながら、だんだん音の表情が熱を帯びていく升くんのドラムが僕の中で聴こえていて。そこからメンバーに渡して、みんなでアレンジを考えていった感じですね。

直井 ツアー直後にとんでもなく素晴らしい歌が上がってきたなと思って。レコーディングも、デモを聴いてからすぐ録るという雰囲気だったんで、「よしよし!」とテンションを上げて(笑)。デモをもらってからいろいろ考えた結果、藤原くんのアコースティックギターと僕のベースは、前半はとにかくシンプルに抑えながら弾く感じで、後半はプラスアルファのフレーズを作って、ちょっと劇的な動きになるように表現しました。ドラムはシンプルですけど、ホントの意味で一番エモーショナルなのはドラムだと思いますね。

 うん。プレイヤーとしてもすごくやりがいのあるドラムですね。「firefly」もツアーで得たことが反映されていると思うんですけど、「ほんとのほんと」もアコースティックステージの経験が糧になっていると思います。ああいう経験をしないと、こういうタイプの曲のアプローチはうまく表現できなかったかなって。シンプルなサウンドの調和の中でドラムをしっかり刻んでいくことの大切さというか。そこには繊細な表現力を求められるので。

──シンプルの極みというか。

 うん。よく言われることですけど、シンプル=簡単ではないので。むしろ難しい。僕は「ほんとのほんと」のようなドラムのアプローチをするプレイヤーが個人的にも好きなんですよ。すごくいい経験になりました。

──ところでサウンドの凛としたムードを高めている、バックで通奏低音のように鳴ってる音、あれはなんですか?

藤原 あれはピアノの音をドーンと弾いて、それをずっと伸ばしてるんです。あとE-BOW(ギターエフェクター)の音も入ってますね。

──なるほど。アウトロでこの音がグーッと伸長して消えた瞬間に曲が終わりを告げるんですけど、ハッとさせられるラストですね。

藤原 最初からずっとピアノの音が流れていて、最後に消えるというのもプロデューサーのアイデアで。良いアイデアをもらえたなと思います。

誰でも誰かを傷付ける能力をちゃんと持ってる

──藤原さん、この曲も言葉からできたんですか?

藤原 うん、この曲も言葉が引っ張っていきましたね。この曲のアレンジってシンプルに聴こえるけど、特殊で。それもこの言葉を表現するためにこうなったと思います。言葉を優先して作った曲は他にもありますけど、この曲は特にその色が濃いと思いますね。

──コミュニケーションの本質を突いた歌詞だと思う。

藤原 コミュニケーションのもどかしさというかね。言外にお互いの本音があって、それを伝えようとする感じ。聴く人によっていろんな場面をイメージすると思うんです。親子の歌って取る人もいるだろうし、恋人同士の歌って取る人もいるだろうし、友達同士の歌って取る人もいるだろうし。あるいは、僕らみたいなバンドメンバー同士とかね。

──つまり1人じゃ成立しない物語でもあって。

藤原 そうですね。だから、どういう関係でもいいんです。「僕」とも「君」とも「私」とも「あなた」とも言ってないから。この曲で表現したかったのは、誰でも誰かを傷付ける能力をちゃんと持っているってこと。何気なく発した言葉でもしっかり誰かのことを傷付けることがある。場合によっては相手を再起不能にまで追いやることができる言葉を、誰でも放つことができるじゃないですか。それは凶器を持って歩いてるようなもので。いつどんなタイミングでそれを使ってしまうかもわからない。自制が利かない場合もあるかもしれないし。

──無自覚に使っているときもあるだろうし。

藤原 そう、あとはそこまでのつもりはなかったのにとか、あるいは本音を伝えようとして言葉を選び間違えてしまうとかね。規模の大小はあると思うんですけど、そういう事象はたくさんの人がいろんな局面で経験したことがあると思います。

──インタビューという行為を生業にしている者としてもドキッとする歌詞だなと。

藤原 ああ、言葉と向き合いまくってますもんね。僕がこういう歌を歌いたいと思ったのは、世の中に対して思うことがあったのかもしれないし、身の周りで起こった出来事から起因しているのかもしれない。とにかく今歌いたかった言葉なんですね、これが。

──この曲のボーカルは、より裸になった藤原さんの声色に触れるような感触がある。

藤原 実はプリプロのテイクをそのまま使っているんですよ。本チャンの歌入れもしたんですけど、プリプロのときのボーカルのほうが良くて。そういうことが最近結構あるんです(笑)。

BUMP OF CHICKEN(ばんぷおぶちきん)

プロフィール画像

藤原基央(Vo, G)、増川弘明(G)、直井由文(B)、升秀夫(Dr)の幼なじみ4人によって、1994年に結成。高校入学後に本格的な活動をスタートする。地元・千葉や下北沢を中心にライブを続け、1999年にインディーズからアルバム「FLAME VEIN」を発表。これが大きな話題を呼び、2000年9月にはシングル「ダイヤモンド」で待望のメジャーデビューを果たす。

その後も「jupiter」「ユグドラシル」といったアルバムがロックファンを中心に熱狂的な支持を集め、2007年には映画「ALWAYS 続・三丁目の夕日」主題歌に起用されたシングル「花の名」を含むメジャー3rdフルアルバム「orbital period」をリリース。2008年には全国33カ所41公演、22万人動員の大規模なツアーを成功させた。

2009年11月に両A面シングル「R.I.P. / Merry Christmas」を発表したあとは、精力的なペースで楽曲をリリース。2010年4月にシングル「HAPPY」「魔法の料理 ~君から君へ~」を、10月にシングル「宇宙飛行士への手紙 / モーターサイクル」を発売。12月には宇宙飛行士を意味する単語をタイトルに冠したアルバム「COSMONAUT」をリリースした。

さらに2011年2月には「映画ドラえもん 新・のび太と鉄人兵団 ~はばたけ天使たち~」の主題歌として書き下ろした「友達の唄」をシングルとして、5月には東日本大震災被災者を支援する「復興支援ポータルサイト」のテレビCMソング「Smile」をチャリティシングルとして発表。10月に、PSPゲームソフト「FINAL FANTASY 零式」テーマソングとして書き下ろした「ゼロ」をシングルリリースし、同年12月から2012年1月にかけて、約3年半ぶりの全国ツアー「BUMP OF CHICKEN 2011-12 TOUR『GOOD GLIDER TOUR』」を開催した。

また2012年1月には、3D映画「ALWAYS三丁目の夕日'64」の主題歌に起用されたシングル「グッドラック」を発表。さらに4月から7月にかけて全国13都市20公演のアリーナツアー「BUMP OF CHICKEN 2012 TOUR『GOLD GLIDER TOUR』」を行い、大盛況のうちに終了させる。そのツアー中に生まれた「firefly」を、9月にシングルとしてリリース。