ナタリー PowerPush - BUMP OF CHICKEN
映画「ALWAYS三丁目の夕日'64」主題歌「グッドラック」
彼らは映画を撮るけど、僕らの場合はバンドだった
──今回、期間限定盤のDVDには山崎監督が制作したショートムービー「Good Luck」が収録されていて。内容は高校生たちの映画制作を巡る青春劇になっていますが、監督が解釈した「グッドラック」の世界観をどう受け止めましたか?
直井 やっぱり山崎監督はすげえなって思いました。このショートムービーに関しては、演奏シーンでチラッと出演していますけど、僕ら4人は完全にいち視聴者の立場で。あの短い時間に起承転結がしっかりつけられていて、そのなかに笑いも喜びも切なさも詰まってる。内容はストレートな青春ストーリーなんですけど、僕はストレートなストーリーを描くのが一番難しいと思うんですよ。だから余計にすごいなって思います。演奏シーンを撮影したときに現場でほかのシーンも見学させてもらったんですけど、監督の頭の中にある画が忠実に具現化されていることが伝わってくるんですよね。どの世代の人が観てもそれぞれに感じることがある青春ストーリーになっていると思います。
藤原 チャマが全部言ってくれた感じなんですけど、ホントにたくさんの人に観ていただきたいですね。あと、升くんがこのあいだ言ってたことが面白くて。主人公たちの学校におけるポジションがすごく見えるんですよね。学校生活のヒエラルキーってあるじゃないですか。1軍、2軍とか(笑)。
──あるある。冷静に考えれば、みんな学生以上も以下もねえだろって思うけど(笑)。
藤原 それをおまえなんて言ったんだっけ?
升 エアポケット(笑)。主人公たちは、不良でもなければ、ガリ勉でもなければ、スポーツマンでも、笑いに走るわけでもない奴らじゃないですか。そこに共感して。彼らは映画を撮るけど、僕らの場合はバンドだったっていう。
藤原 うん、そういう意味では自分たちと重なるところはあったね(笑)。
増川 あったね(笑)。ストーリー上では、特別なことは何も起こってないんですよね。でも、すごく普遍的な感動があって。やっぱり山崎監督はすごいなって思う。
僕の立場はアンプみたいな気分
──カップリングの「ディアマン」についても訊かせてください。変われない、変わらない生き方をする少年とシンガーの物語を、「Smile」に続き藤原さんが弾き語りで歌っています。
藤原 この曲は……確か「グッドラック」より前にできていたんですけど、なんかできたっていう感じなんですよね(笑)。スタジオに入って、こういう感じのストロークを弾きはじめて、「アハン!」ってそんな感じの節回しで歌いはじめて(笑)。ホントにね、歌詞の内容については何も言うことがないというか。少年とシンガーのどっちかが俺というわけでもないし、どっちが俺でもいいし、どっちも俺じゃなくてもいいと思ってます。つまり、そういうこととは関係のない歌になってると思います。聴く人によって、少年側に感情移入する人もいれば、シンガー側に感情移入する人もいるだろうし。
──少年とシンガーに同軸で感情移入できるとも思う。
藤原 そうですね。僕らの世代だとそうかもしれないですね。僕の立場を歌詞の中に出てくるアイテムに当てはめるなら、アンプみたいな気分というか(笑)。少年とシンガーがギターの音に込めるものがどのような感情であれ懸命に応えたいみたいな。
──そのあたりの思いをもう少し詳しく訊きたいです。
藤原 なんて言うか、僕も曲作りを始めて十数年になりますけど、そこに向ける熱さとか聴いてくれる人に対する意識は、常に上がり続けていて。それはこれからもっと上がっていくと思うんです。だから、いつだって今が絶頂なんですね。下がることは絶対にない。今ツアーを回れば回るほど、聴いてくれる人がいるんだって実感するし。そうすると、アンプみたいな気分になってくるんですよね。誰のどんな感情であれ懸命に音楽で応えたい、精一杯できる限りの音量を出したいっていう。あるいはそれは、なるべく小さな絶叫みたいなときもあって。表現ってそういうことだと思うんですよ。音を出したら音楽が生まれるわけじゃないんですよね。受け取ってくれる人がいて初めて音楽は生まれたと言えるんですよね。そのことの実感が純粋にどんどんデカくなっていってるんです。だから……自分というアイデンティティも音楽のうしろに立って消してしまいたいくらいなんですよ。その音楽の存在を知ってもらえるだけでありがたいから。それがさっき話に出た「魂の望む方へ」にもつながるのかもしれないですね。
──うん、そういうことなんでしょうね。
藤原 うん。そういう気持ちがあってのアンプ発言でした(笑)。
升 僕も今ツアーをやっていて思うのは、結局は音楽そのものになりたいということで。自分の個性とかどうでもよくなるというか。聴いてくれる人と演奏してる人の壁がなくなって、音楽だけがそこに存在してるっていう。藤原くんのアンプの話を聞きながら、そんなことを思いました。
──この曲が藤原さんの弾き語りの着地になったのはどういう経緯があったんですか。
直井 「グッドラック」のカップリングを決めるときにプロデューサーが「藤原がひとりで歌ってるテイクがあるんだけど、それがすげえいいんだよ」っていきなり言い出して。
藤原 みんなはまだ聴いてなかったんだよね。
直井 そう。だからどんな曲なのかさっぱりわからなくて。で、聴かせてもらったら俺もこの曲はこの温度のまま届けたいって思いましたね。デモも素晴らしかったんですけど、さらに録り直してそれ以上のクオリティになってますね。曲の感想としては、14歳のときに初めてベースを手にしたときの感動と、今大人になって音楽をやって持っている感動が、挨拶したような感じがあって。あの頃と同じ気持ちを持っている自分、まだ応えきれていない自分とか……いろんなものが入り交じってめっちゃ熱い気持ちになりました。
──増川さんは?
増川 すごく個人的な感想になるんですけど、この曲は僕が思う究極のカッコよさに最も近いというか。それを藤原くんがひとりで歌う感じも最高だと思います。
藤原 ありがとう(笑)。
まだ発表していない速い曲もあるんですよ!
──最後に、2012年はどのように音楽と向き合っていきたいですか?
藤原 まずは年明けからツアーが再開したので、1つひとつのライブを大切にやっていきたいですね。
──ちなみにレコーディングを待っている曲はまだありますか?
藤原 まだありますね。そろそろ貯金が切れるかな?という感じもありますけど(笑)。でも、また新たに生まれていくものもあると思うので。待っていてください。
直井 さっきの話に戻りますけど、まだ発表していない速い曲もあるんですよ!
藤原 そう、あるんです!
直井 それがすっっっごく良くて。まだデモの段階で、録ってはいないんですけど、勝手に僕はアレンジを考えたり、弦を弾いたりしているんです。
藤原 そうやってね、勝手なんて言わなくていいんです。このバンドのベースは君しかいないんだから!(笑)
直井 そうだね。俺しかいない! 楽しみにしていてください。
BUMP OF CHICKEN(ばんぷおぶちきん)
藤原基央(Vo, G)、増川弘明(G)、直井由文(B)、升秀夫(Dr)の幼なじみ4人によって、1994年に結成。高校入学後に本格的な活動をスタートする。地元・千葉や下北沢を中心にライブを続け、1999年にインディーズからアルバム「FLAME VEIN」を発表。これが大きな話題を呼び、2000年9月にはシングル「ダイヤモンド」で待望のメジャーデビューを果たす。
その後も「jupiter」「ユグドラシル」といったアルバムがロックファンを中心に熱狂的な支持を集め、2007年には映画「ALWAYS 続・三丁目の夕日」主題歌に起用されたシングル「花の名」を含むメジャー3rdフルアルバム「orbital period」をリリース。2008年には全国33カ所41公演、22万人動員の大規模なツアーを成功させた。
2009年11月に両A面シングル「R.I.P. / Merry Christmas」を発表したあとは、精力的なペースで楽曲をリリース。2010年4月にシングル「HAPPY」「魔法の料理 ~君から君へ~」を、10月にシングル「宇宙飛行士への手紙 / モーターサイクル」を発売。12月には宇宙飛行士を意味する単語をタイトルに冠したアルバム「COSMONAUT」をリリースした。
さらに2011年2月には「映画ドラえもん 新・のび太と鉄人兵団 ~はばたけ天使たち~」の主題歌として書き下ろした「友達の唄」をシングルとして、5月には東日本大震災被災者を支援する「復興支援ポータルサイト」のテレビCMソング「Smile」をチャリティシングルとして発表。10月に、PSPゲームソフト「FINAL FANTASY 零式」テーマソングとして書き下ろした「ゼロ」をシングルリリースし、12月からは約3年半ぶりの全国ツアー「BUMP OF CHICKEN 2011-12 TOUR『GOOD GLIDER TOUR』」をスタートさせた。
2012年1月には、最新シングル「グッドラック」を発表。この曲は、3D映画「ALWAYS三丁目の夕日'64」の主題歌であり、2007年の「花の名」に続く同シリーズとのコラボレーションとなる。また4月からは全国13都市20公演のアリーナツアー「BUMP OF CHICKEN 2012 TOUR『GOLD GLIDER TOUR』」を開催する。