ナタリー PowerPush - BUMP OF CHICKEN
充実したバンドの“現在”を伝える「宇宙飛行士への手紙 / モーターサイクル」
来るべきニューアルバムに向けて、過去に例のないペースで新曲を制作し、レコーディングを重ねているBUMP OF CHICKEN。そんな彼らから両A面シングル「宇宙飛行士への手紙 / モーターサイクル」(c/w「good friends」)が到着した。バンド、リスナー双方の現在地と未来を力強く照らす“親密な普遍性”が宿った歌「宇宙飛行士への手紙」と、トリッキーかつキャッチーなビートがサウンドを先導し、ロックバンドとしての比肩なきクリエイティビティを躍動させた「モーターサイクル」。この2曲の話を軸に「BUMP OF CHICKENの今」にさまざまな角度から迫った。
取材・文/三宅正一
やり方を変えたらスムーズに曲が生まれるようになった
──BUMP OF CHICKENにとっては異例ともいえるこのリリースペースが、アルバムに向かって順調に制作が進んでいることを感じさせてくれます。
藤原基央(Vo,G) はい、順調に進んでいると思います。
──「宇宙飛行士への手紙」ができたのは時期的にはいつごろなんですか?
藤原 去年の6月ごろだったと思います。それまではデモテープ作りのためにスタジオが押さえられていて、その日までに家で曲を書くという流れがあって。そのやり方を変えてみたんですね。スタッフさんが僕の曲作りのためにスタジオを押さえてくれて、スタジオで曲を書くようになったんです。その新しいやり方が自分に合っていたのか、これまでよりスムーズに曲が生まれるようになって。そのやり方を始めて、最初にできた曲は未発表のものですけど、今回の「宇宙飛行士への手紙」は2曲目か3曲目にできた曲ですね。
──話をかなり過去に引き戻してしまうんですけど、そもそもこのバンドが始まって、オリジナル曲を作るようになってから、1つの楽曲ができるまでに長い時間がかかっていたんですか?
藤原 そうですね。ホントにゆっくりでしたね。
直井由文(B) 例外を挙げれば、「THE LIVING DEAD」(2000年)というアルバムをインディーズでリリースしたことがあるんですけど、あのときは曲作りとレコーディング期間が1週間くらいしか取れないって決まっていて。その期間内にすべてやったんです。
──ええっ、あのアルバムはそんな状況で作られていたんだ。
藤原 うん(笑)。
直井 あれが唯一そういう切羽詰まった状況で作ったアルバムですね。限られた時間の中で毎日のように藤くんが曲を書いて、それをみんなで聴いて、すぐにレコーディングするっていう。そのあとメジャーに移ってからはちゃんとしたレコーディングの基盤ができて、ゆっくり制作できるようになっていったんですけど。
藤原 そう。だから「THE LIVING DEAD」は今よりも衝動でしかないというか。曲ができる順序もめちゃくちゃだったんですよ。まず僕がとりあえずギターを弾いて、コード進行とかリフとかガーッと考えて。それをみんなに説明して、オケだけを録っちゃうんです。
増川弘明(G) 今思い出すとすごいな(笑)。
藤原 ね(笑)。だから演奏しているメンバーは、曲のコード進行や構成しかわかっていなくて。どんな歌詞なのかはもちろん、どんなメロディなのかもわかっていないんです。というか、俺もわかっていないんです(笑)。オケが録れて、「カッコいいオケができたから、じゃあ明日このオケの歌を録ろう」みたいな感じで。
直井 ああ、そんな感じだったね!(笑)
藤原 そこから僕は家に帰ってから、MDに録ったオケを聴きながら鼻歌を歌って、歌詞を書いていくんです。
──うわあ……(苦笑)。
藤原 だから歌詞も字数の多い曲ばかりができて。どうしてもまくし立てるような感じになるから。
レコーディングは時間があればあるだけやり込んじゃう
──かなり切迫してますね。それこそ「生きる屍」になりそうな。
藤原 ホント、みんな「生きる屍」みたいな顔をしてましたよ(苦笑)。あまり寝ないで作業をするものだから当然体調を崩すやつも出てきて。俺も風邪をひいちゃって、「グロリアスレボリューション」の歌入れは風邪をひいた状態でやることになって。
──ああ、確かにあの曲のボーカル、鼻声ですよね。
藤原 そうそう(苦笑)、そういうのも悔しくて。ああいう作り方の良さもあったと思うし、あのアルバムを評価してくれて、それからずっと応援してくれている人もいて。それはすごくありがたいことだし、僕らもあの作品をすごく大事にしているんですけど。
──僕もすごく特別な作品だと思います。
藤原 うん。でも、メンバー全員が大きなストレスを感じていたことも確かで。メンバーそれぞれ、どんな歌詞にどういうフレーズをつけたいかという思いは当然あるわけで。そういう楽曲の物語性を無視してレコーディングしなきゃいけないというのは、やっぱり寂しい話じゃないですか。
──そうですね。
藤原 最初からインストってわかっていたら話は別でしょうけど、歌詞やメロディがある楽曲なら、そういうやり方はあまりにつらい。その反動があって、たっぷり時間を使って納得いくまでレコーディングしたいという思いが強くなっていったんです。
──でも、あれだけコンセプチュアルで、まるで名作の絵本を音楽で聴くような感触のあるアルバムがそんなふうにできていたとは驚きです。
藤原 ああ、なるほど。でもね、ある意味そういう作り方だったからこそ必然的にコンセプチュアルな作品になったと思うんです。1週間くらいの限られた時間で同じ人間が曲を書くわけですから。
──なるほどね。
藤原 それで、メジャーにいったらレコーディングにかけられる時間や費用も増えるということだったので。それは僕らにとってはホントに夢のような話で。ただ、メジャーになってからは、逆に時間があればあるだけやり込んじゃうし、上手に時間を使えるようにならなければと思うようになっていくんですけど。
──そういう流れを経て、いまやっとニュートラルな制作の方法論を見つけたという感じですか?
藤原 そうですね。よかったです。
──リスナーも喜んでいると思う(笑)。
藤原 喜んでもらえたらうれしいです(笑)。
BUMP OF CHICKEN(ばんぷおぶちきん)
藤原基央(Vo,G)、増川弘明(G)、直井由文(B)、升秀夫(Dr)の幼なじみ4人によって、1994年に中学3年の文化祭用バンドとして結成。高校入学後に本格的な活動をスタートする。地元・千葉や下北沢を中心にライブを続け、1999年にインディーズからアルバム「FLAME VEIN」を発表。これが大きな話題を呼び、2000年9月にはシングル「ダイヤモンド」で待望のメジャーデビューを果たす。その後も「jupiter」「ユグドラシル」といったアルバムがロックファンの熱狂的な支持を集め、2007年には映画「ALWAYS 続・三丁目の夕日」主題歌に起用されたシングル「花の名」を含むメジャー3rdフルアルバム「orbital period」をリリース。2008年には全国33カ所41公演、22万人動員の大規模なツアーを成功させている。