ナタリー PowerPush - BUMP OF CHICKEN
充実したバンドの“現在”を伝える「宇宙飛行士への手紙 / モーターサイクル」
メンバー4人で30代を迎えて、曲作りのタガが外れた
──話を戻して、「宇宙飛行士への手紙」はどんな流れで生まれた曲ですか?
藤原 この曲はプロデューサーから「4つ打ちの曲を作ってほしい」というお題を与えられたことから始まって。そのお題を受けてまずBPMを決めて。ギターを持ってコードを弾きながら歌っていたら、メロディと一緒に歌詞もスラスラ出てきたんです。最近はそうやって曲と歌詞がほぼ同時にできることが多くて。
──ギターを弾きながらメロディと一緒に歌詞が出てくるということは、より皮膚感覚に近い言葉が紡がれていくと思うんですね。
藤原 はい、そのとおりだと思います。
──「R.I.P.」以降は「魔法の料理 ~君から君へ~」にしても、この「宇宙飛行士への手紙」にしてもより色濃く藤原さん自身、メンバー4人の存在を曲の中に感じることができる。
藤原 そうだと思います。10年以上曲を書いてきていますけど、僕も表現者の端くれとして、今まで曲を書くときに自分に制限を設けていた部分が多くて。それは、絶対使わないと決めた言葉があったりとか、この曲のこの部分はこういう表現方法を使わずに言い表したいという思いであったりとか。そういう自分の中のルールがあったんです。あとは「R.I.P.」や「魔法の料理 ~君から君へ~」、この「宇宙飛行士への手紙」のように自分の過去の記憶を基軸にして、今や未来を描いていくような表現方法は本来あまり好きじゃなかった。でも、今はそういうことも関係ねえやって思うようになっていて。自分の好きな表現方法が云々という以前に、ホントに表現したいことがあるならそれをそのまま書いてしまおうって。
──そういうソングライターとしてのある種の鎖を解いたのは、20代から30代になったという年齢的なことも関係していますか?
藤原 当然関係していると思います。年齢的なことは今すべてのことに関係していると思いますね。人生の半分以上を一緒に過ごしてきたメンバーととうとう30歳を越えてしまったということ、この4人でずっとバンドをしてきたということ──そういうことに対する思いがすべて重なっています。ちょうど30歳になったころ、メンバーみんなで飯を食っているときにもそういう話が出て。確かそのときはチャマが話を切り出したと思うんですけど。
直井 うん。俺が話しはじめて。「30だね、すごいことだね!」みたいな。「いいことも悪いことも含めてすごいことだよ」って。そっからどんどん話がディープになっていって(笑)。
藤原 その果てに「これからはもっとみんなで話をする時間を大事にしよう」って言ってみたり(笑)。みんな同じようなことを考えているんだなって確認できたのはすごく大きかったです。
──僕は4人と同世代ですけど、なんかうらやましいですね、その話。
藤原 ふふふふふ。そうでしょ?(笑) そういう確認ができたこともあって、曲を作るときのタガが外れたんだと思います。メンバー全員が同じように思っていることなら、このバンドが歌って、鳴らす曲として何の問題もないじゃないですか。
「蜘蛛の巣みたいな稲妻」は子供の頃の実体験
──そうですね。でね、僕が思うのは、藤原さんがソングライティングの鎖を解いたことで、BUMP OF CHICKENの音楽世界の普遍性が増したということなんです。鎖を解く前は、とにかくリスナーそれぞれが曲を受け取ることで思考したり、想像力を働かせることの純度を下げたくないという考えが強くあったと思う。
藤原 そうだと思います。
──でも、こうして鎖を解いた結果、藤原さんが危惧していたこととは、真逆の効果が表われていると思う。
藤原 ああ、そうだったらすごくうれしいです。
──でも、きっと30代に入って鎖を解いたことが重要なんですよね。
藤原 うんうん、それは必然的なことだったと思います。
──今の藤原さんが書く曲は、少年性も青年性も父性もすべて内包していると思っていて。だからきっと、どの年代の人もそれぞれの感性で淀みなく楽曲を受け止めていると僕は確信しています。
藤原 ありがとうございます。うれしいです。マジでこういう感覚を無視できないときがあるというか……誰もが必ず過去と対峙しなきゃいけないときがあると思うんですけど。僕らの場合はこの4人でホントに濃密な時間を過ごしてきたので。だから、4人でずっとやってきたバンドで、音楽で、そういうところに目を向けられるのはすごくうれしいことです。
──わかりました。「宇宙飛行士への手紙」の歌詞は、「蜘蛛の巣みたいな稲妻」という風景描写が、核になっていると思います。僕は「生命のすごみ」を表すメタファーのようにさえ思いました。
藤原 これは、子供のときの実体験なんですよ。幼稚園か、小学生だとしても低学年のころに見たんです、この「蜘蛛の巣みたいな稲妻」を。ある日、母親が料理をしているときに、何か材料が足りないということになって。それで、僕と姉でスーパーまでおつかいに出かけているときに、僕の背後から前に向かってブワッと稲妻が走ったんです。僕と姉はおしゃべりをしながら歩いているから、基本的に僕は姉を見上げて、姉は僕を見下ろしているわけですね。だから、姉はその稲妻に気づかなくて。僕はその稲妻を見たあまりの驚きに言葉が出なくて、天に指を指して「今の見た!?」っていうジェスチャーをしたんですけど、手遅れで(笑)。
──その記憶は恐怖心として残っているんですか?
藤原 うーん、そういうのも通り越してわけがわからなかったですね。そのときのことがなぜかメロディと一緒に出てきたんです。音が呼んだということなんでしょうね。
──この曲の歌詞に触れていても改めて思うのは、時間という概念こそが藤原さんを表現に向かわせる枯渇しないテーマ、動力になっているんだなということで。
藤原 なんかね、そんなことばっか考えているんですね、僕ね(苦笑)。そもそもそういうテーマを描いたSFが好きだったし。あのときこうだったら、と思うことが実際そうできてしまうお話とか。未来を知ることができたら、と思って実際知ることができるとか。有名なところでいえば「ドラえもん」もそうですし。自分の中では時間について考えることはすごく大切なことだし、誰もが普段から考えていることでもあると思うんです。だから「後悔」なんていう言葉もあるわけで。
──それは誰もが無意識に考えていることではあるけれど、無意識に見過ごしていることでもあると思うんです。BUMPの楽曲はそこに豊かな気づきをもたらしてくれるというか。
藤原 ありがとうございます。うん、僕の中では重要なことですね。だから、自分の思考の多くを占めることが歌詞になるんですね。
BUMP OF CHICKEN(ばんぷおぶちきん)
藤原基央(Vo,G)、増川弘明(G)、直井由文(B)、升秀夫(Dr)の幼なじみ4人によって、1994年に中学3年の文化祭用バンドとして結成。高校入学後に本格的な活動をスタートする。地元・千葉や下北沢を中心にライブを続け、1999年にインディーズからアルバム「FLAME VEIN」を発表。これが大きな話題を呼び、2000年9月にはシングル「ダイヤモンド」で待望のメジャーデビューを果たす。その後も「jupiter」「ユグドラシル」といったアルバムがロックファンの熱狂的な支持を集め、2007年には映画「ALWAYS 続・三丁目の夕日」主題歌に起用されたシングル「花の名」を含むメジャー3rdフルアルバム「orbital period」をリリース。2008年には全国33カ所41公演、22万人動員の大規模なツアーを成功させている。