ナタリー PowerPush - bloodthirsty butchersトリビュート
山中さわお(the pillows)、増子直純(怒髪天)、日高央(THE STARBEMS)が明かす吉村秀樹の素顔
世界中で一番カッコいいのは札幌だと思ってた
──さっき日高さんも言ってましたが、音楽性も本当に独特ですからね。
日高 そうですね。ブッチャーズとビークルでツアーを回ったときに、マシータが吉村さんと2人で飲まされたことがあって。そのときに「俺はハードコアパンクとギターポップをつなげたいんだ。だからビークルと一緒にツアーやってんだ」って5時間くらいにわたって話してたらしいんですよね。
増子 マシータに話してもしょうがないけどね(笑)。
日高 ドラマーですからね(笑)。でも、その言葉は象徴的だなと思って。
山中 オルタナティブっていう言葉が存在する前から、ああいう音をやってたわけじゃない? だから最初の頃は「宝島」なんかに「アコースティック・パンク」なんて書かれてたんだよ。ギターには美しい響きがあるんだけど、存在感や歌い方はハードコアっていう。そんな音楽はそれまでなかったから、「アコースティック・パンク」なんていう変な言い方になったんだろうね。
増子 パンクシーンのなかで、ギターでアルペジオを弾いてるバンドなんてなかったからな。
山中 しかも当時から「アンプ2台を使って、片方は歪んだ音、片方はクリーン」っていうのをやってたからね。20歳くらいのときからそれをやってたのは、すごいことだよね。
日高 発明だよね。
山中 今みたいに専門誌があって、それを調べるっていう時代じゃなかったし。ホントに子供みたいに「自分の頭の中に鳴っている音を、どうやって出せばいいんだろう」って考えたんじゃないかな。で、「そうか、歪みとクリーンを同時に出せばいいのかもしれない」って思いついて。
──そういう独創的なロックを1980年代後半の札幌でやってたわけですよね。
山中 うん。これは自慢というか、日高くんとかもきっとうらやましがると思うんだけど、当時の札幌って、イースタンと怒髪天とブッチャーズのライブを500円くらいで観れたんだよ。
日高 それはうらやましい、確かに。
山中 東京に行きたいとか、全然思ってなかったからね。世界中で一番カッコいいのはココだっていう。
増子 東京のバンドも札幌でライブやってたけど、「俺らのほうが全然カッコいい」って思ってた。あと、グランジブームのときもまったく衝撃を受けなかった。「これ、ブッチャーズじゃん」って。しかもブッチャーズは日本語で歌ってるから、わかりやすいし(笑)。
世が世ならボーイズラブのネタになってたかも
──日高さんはどう思われますか? ブッチャーズの独創性について。
日高 1つ印象的な出来事があるんだけど、一緒にツアー回ったとき、長崎で海水浴したんですよ。ビークルのメンバー5人と吉村さんで。
増子 うわ、最悪だな。
日高 今思うと確かに最悪ですね(笑)。でっかい丸太を転がしてきて、その上にタレサンをかけた吉村さんが乗って、それをビークルのメンバーが押すっていう(笑)。後になって、そのときの写真をデータで200枚くらい送ってきたんですよ、吉村さん。「この写真を見ながら、毎日、家で呑んでる」って。
増子 ハハハハハ!(笑)
日高 しかも「あのときの思い出をコードにした」って、オリジナルのチューニングとオリジナルの押さえ方で新しいコードを考えて。当然、コードの名前なんかわからないから「俺はこれを『ocean』と名付ける!」って言ってんですよね。その後に出た「NO ALBUM 無題」に「ocean」っていう曲が入ってて、「これ、あのときのヤツだ。曲になってる!」って(笑)。
増子 日記みたいにして曲を作ってたのかもな。やっぱり乙女だ(笑)。
──そうやって新しいコードを作るって、本当にすごいですよね。やってることはメチャクチャだし、子供っぽいところもあるけど、それを素晴らしい音楽に結び付けてしまうというか。
山中 映画を観てるとさ、「ヨウちゃんのことを嫌いになりそうだ」って思うくらい、ひどい発言をしてるじゃない? 大人としてまったく成り立っていないメチャクチャなことを、いかにも正しいことのように言ってて。だけど、ときどき出てくるライブのシーンは死ぬほどカッコいいっていう。海岸でアコギを弾くシーンもすごいじゃない?
増子 そこでバランスがなんとか取れてたんだろうな。俺は吉祥寺のバウスシアターで見たんだけど、終わってからヨウちゃんに「ひどい映画だったけど、面白かったよ」ってメールしたら、「いい映画だったろ」って返事が来て。
日高 全然人の話を聞いてない(笑)。
増子 「映画はあそこで終わってるけど、その後もバンドは続いてるんだよ」って。
山中 すごいよね、あれは。小松くん(ブッチャーズのドラマー、小松正宏)なんて、「完成した後、ヨウちゃんも映画を観る」ってことをまったく意識しないで、ガンガン悪口言ってるでしょ? カメラが回ってれば、普通は“作る”じゃん。観られることを想定してない会話だからね、全員が。
日高 射守矢さんも小松さんも、すごく正直な人ですからね。
増子 ビョークの「ダンサー・イン・ザ・ダーク」並みに救いがないよな(笑)。
日高 確かに(笑)。
増子 バンドを続けることの代償と、そこで得られるもの。そういう強い光と強い影がすごく出てるからね。あれを観た若いヤツが「よし、バンドをやろう」とは思わないよな(笑)。それでもやりたいと思うヤツは何があってもやるんだろうし。
山中 もっとライトにやってるよ、みんな(笑)。
増子 射守矢には何回も「辞めろ」って言ったんだよ。「あれじゃあ、どうにもならねえだろ。イヤだったら辞めたほうがいい」って。でも、そのたびに「俺がやるしかないんだ」って言うんだよね。
日高 そこは覚悟があったんでしょうね。
増子 ないとやれないよ。ブッチャーズの人間関係ってすごいからね。ヤキモチっていうか、射守矢がほかのことをやるのはイヤだったみたいだよ、ヨウちゃんは。小松がほかのバンドを手伝うのはしょうがない。チャコちゃんが他のユニットをやるのも、まあ、しょうがない。
日高 プレイヤーとしても人気があるし。
増子 でも、射守矢が何かやろうとするのはちょっと気に入らないっていう。
山中 それを聞くと乙女っぽいな(笑)。
増子 ただならぬ関係性だよ。
日高 世が世なら、ボーイズラブもののネタになってたかも(笑)。
V.A.「Yes, We Love butchers ~Tribute to bloodthirsty butchers~」
- トリビュートアルバム第1弾「Abandoned Puppy」 / 2014年1月29日発売 / 3000円 / 日本クラウン / CRCP-40357
- トリビュートアルバム第1弾「Abandoned Puppy」
収録曲
- 襟がゆれてる。 / ACIDMAN
- 2月/february / the band apart
- 散文とブルース / BRAHMAN
- ROOM / COCOBAT
- 9月/september / 八田ケンヂ
- ocean / HUSKING BEE
- JACK NICOLSON / KING BROTHERS
- ラリホー / ロマンポルシェ。
- サラバ世界君主 / The SALOVERS
- アンニュイ / SLANG
- ファウスト / SODA!
- ギタリストを殺さないで / THE STARBEMS
収録曲
- sunn / CARD
- 僕達の疾走 / cinema staff
- 襟がゆれてる。 / Climb The Mind
- I'm on fire / 怒髪天
- JACK NICOLSON / LOSTAGE
- 9月/september / LOST IN TIME
- ファウスト / LOW IQ 01
- サラバ世界君主 / MONOBRIGHT
- プールサイド / 向井秀徳
- 11月/november / THE NOVEMBERS
- 襟がゆれてる。 / perfectlife
- 散文とブルース / the pillows
- トリビュートアルバム第3弾「Night Walking」 / 2014年3月26日発売 / 3000円 / 日本クラウン / CRCP-40366
- トリビュートアルバム第3弾「Night Walking」
収録曲
- ファウスト / ART-SCHOOL
- ソレダケ / bed
- 7月/July / Co/SS/gZ
- no future / Discharming man
- Never Give Up / eastern youth
- discordman / きのこ帝国
- ロスト・イン・タイム / MO'SOME TONEBENDER
- ファウスト / 少年ナイフ
- 燃える、想い / SiNE
- ピンチ / タルトタタン
- 8月/august / ueken butchers project
bloodthirsty butchers
(ぶらっどさーすてぃぶっちゃーず)
1986年に札幌で結成されたロックバンドで、メンバーは吉村秀樹(Vo, G)、射守矢雄(B)、小松正宏(Dr)、そして2003年に加入した田渕ひさ子(G)の4人。1991年にFugaziの来日公演に出演したことを機に上京し、2度のアメリカツアーや、オリンピアで行われたフェス「YO YO A GO GO Fes.」への出演などでUSインディーシーンにも名を知らしめる。1994年にはメジャーデビューアルバム「LUKEWARM WIND」をリリース。その後「kocorono」「未完成」といったアルバムが各方面で絶賛され、90年代のオルタナシーンで確固たる地位を築く。結成20年目となった2007年には自主レーベル・391toneを設立。2011年には彼らの姿を追った長編ドキュメンタリー映画「kocorono」が全国各地で劇場公開される。2013年5月、吉村が急性心不全のため逝去。すでにマスタリングを済ませていたアルバム「youth(青春)」と、写真集「bloodthirsty butchers『青春』」が同年11月に発売される。そして念願だった「kocorono」のアナログ盤を完全限定発売。2014年にはトリビュートアルバムを数カ月にわたって複数枚リリースする「Yes, We Love butchers ~Tribute to bloodthirsty butchers~」シリーズが企画されている。
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youth(青春)
[CD] 2013/11/14発売 3000円 キングレコード KICS-196 -
kocorono(アナログ盤)
[アナログ] 2013/11/14発売 5040円 391tone NAS-2009~10