ナタリー PowerPush - bloodthirsty butchersトリビュート
山中さわお(the pillows)、増子直純(怒髪天)、日高央(THE STARBEMS)が明かす吉村秀樹の素顔
すべてにおいて美学があって、持ってるモノにもこだわりが
──日高さんがブッチャーズの音楽を最初に聴いたのは?
日高 アメリカ留学中に「YO YO A GO GO」っていうコンピ盤を聴いたら、ブッチャーズとコーパス(・グラインダーズ)が入ってて。曲は「Lost In Time」だったんだけど、違和感なく普通に日本語でやってるのがすごいなって思ったんですよね。その頃はまだ「海外でやるには英語で歌わなくちゃ」みたいな風潮があったんですよ。そんなの関係なく、堂々と日本語で歌ってるってことに、まずビックリして。ハードコアなのかギターポップなのか、ジャンルもよくわからないし。しかもライブを見ると「海外でウケよう」なんて感じはまったくないじゃないですか。
増子 そうだよな。
日高 だから、最初はちょっと理解できなかったんですよね。特にカッコつけてもいないし、着の身、着のままでステージに立ってるんだけど、気合いは異常に入ってるっていう。
増子 本人はカッコつけてたんだけどね(笑)。すべてにおいて美学があって、持ってるモノにもこだわりがあったし。
日高 そうなんですよね。よく履いてたストレッチパンツも、同じヤツを4本くらい持ってましたし、TシャツやVANSのスニーカーもそうだし。オシャレですよね。
増子 わかりづらいけどな(笑)。服のサイズ感もすごくこだわってたよ。ダボダボの服とか、絶対に着なかったから。
山中 確かにオシャレな印象はあるな。札幌時代もジーンズの膝を破いて、そこからチェックの生地が見えるようにしてたり。
増子 家で縫ったんだろうね、自分で(笑)。
山中 あの頃は髪を染めたり、立たせたりしてたし。あと、目の下にメジャーリーガーみたいなクマを書いたりもしていて。自分プロデュースをちゃんとやってた人だと思う。
増子 決してやりすぎないしね。俺はどうしてもやり過ぎちゃうんだけど。
日高 北海道時代の増子さんの格好、すごいですもんね(笑)。
山中 この前の武道館(参照:怒髪天、初武道館で男泣き「何やってもグッとくるわ」)で昔の映像が流れてたじゃないですか。
──剃り込みが入った長髪でしたね(笑)。
山中 昔「なんで怒髪天が売れないんだろう?」って思ってたけど、理由がわかりましたよ。あんな格好してたら、メジャーは手を上げないです(笑)。
器用に何かができたことなんて、1つもないんじゃない?
──日高さんが実際に吉村さんと会ったのは?
日高 ブッチャーズをイベントに呼ぼうと思ったんですよ。チャコちゃん(田渕ひさ子)が入ったタイミングだったんですけど、「チャットモンチーと対バンさせたい!」って思いついちゃって。とりあえずオファーしてみたら、OKが出たっていう。
山中 それも意外なんだよな。
増子 ヨウちゃん、けっこう新しいバンドも聴いてたからな。
日高 「音はいいけど、チャットモンチーっていう名前はどうかと思う」って言ってたけど(笑)。
山中 必ず1つはダメ出しがあるんだよ(笑)。
日高 「ちなみにBEAT CRUSADERSはどう思ってますか?」って勇気出して聞いてみたら、「最初はわからなかったけど、ライブを観たらピンときたぞ」って完全に上から言われました(笑)。もちろん先輩なんで「ありがとうございます」って言いましたけど。そのあたりから、なんとなく吉村さんとの接し方がわかってきたんですよね。ダメ出しをちゃんと受け止めると、すごい心を開いてくれるんだなって。その後は逆にかわいがってもらいましたけどね。
増子 ヨウちゃんって、時期によって世話してた後輩が違ったりするんだけど、後半はほぼ日高だったよな。どっちかっていうと、日高が面倒を見てたと思うんだけど。
日高 そう、俺がお世話をしてました(笑)。吉村さんの近くにいて殴られたことがないのは、たぶん俺とRacco(IdolPunch)だけなんですよ。どうしてかな?と思ったら、2人ともちゃんとギャラを払ってるんですよね、吉村さんに(笑)。
増子 そういうことは大事よ。ヨウちゃんは金銭的にもシビアだったけど、そこは評価されるべきだと思う。ちゃんとビジネスとして割り切れるというか。「おまえ、ブラック・ジャックかよ」みたいな話もたくさんあったけどね(笑)。俺のところにも苦情がけっこう来てたし。
日高 そのあたりのサジ加減はけっこうめちゃくちゃですからね(笑)。
増子 「もうちょっと上手にやれんだろう?」ってことばっかりだからね。器用に何かができたことなんて、1つもないんじゃない? エフェクターとかは自分で直してたみたいだけど……。今思い出したけど、ヨウちゃんにセミアコを直してもらったことがあるんだよ。うちに壊れたセミアコがあって、一緒に飲んでるときに「俺が直してやるよ」って言い出して。1年後くらいにやっと持ってきたんだけど、配線がギターから飛び出してたっていう。
山中 ハハハハハ(笑)。
増子 明らかに途中で飽きてるんだよね。たぶん簡単に直せると思ったら、意外と大変だったからイヤになったと思うんだけど。で、「家で弾くんだったら、(アンプに)つなげなくてもいいだろ?」って。
日高 ふりだしに戻ってますね(笑)。確かに飽きっぽいですからね、吉村さん。
増子 子供だよ。でかい子供。キレるポイントも全然わからないし。
実はガーリーなんです
──そういうジャイアン的なエピソードはたくさん残ってますよね。
山中 暴君エピソードは多いんだけど、俺は変なポジションで、後輩っていうムードもなかったんだよね。「殴られるかも」って思ったこともないというか。
増子 山中に対しては優しかったよな。
山中 表面上ではいろいろあったんですよ。ふくろうずのライブを観に(代官山)UNITに行ったら、対バンがLAMAで。楽屋にチャコちゃんがいて、「おつかれ」なんて言ってたら、後ろから「山中!」って声が聞こえきて。「おまえ、挨拶の順番が違うだろう」って……。
増子 知らねえよ(笑)。
山中 ヨウちゃんは「俺はみんなの前で、ピロウズの山中さわおにこんなこと言うよ」っていう遊びが好きだったと思うんだよね。でも、2人のときは全然そんなことなかったから。暴力的な威圧感もまったくなかったし……。あとね、ピロウズの20周年のときに俺たちについて語ってくれたことがあるんだよ、俺のいない場所で。あとでそれを読んだら「山中とは先輩、後輩という感じとは違う。あいつもやってて、俺もやってて、でも、何か気に入らねえな」みたいなことを話してたんだけど、そのときもすごくピンときて。
増子 うん。
山中 ライブなんかもあまり誘ってくれなかったしね。UNITのときに俺が映画「kocorono」の話をしてたら、「ひさびさに一緒にやるか」って言ってくれたんだけど。結局、実現しなかったけどね。
増子 ヨウちゃんはさ、自分自身の音楽に影響を受けた人間に対する“俺様ぶり”と、影響を受けてない人間に対する態度がだいぶ違ったんだよね。イースタンとブッチャーズと怒髪天における関係もそうだったんだよ。吉野は「ブッチャーズに影響を受けた」って公言してるわけじゃない? 怒髪天はそうじゃないから、やっぱりライブには誘われなかったし。
山中 なるほど。
増子 いつだったか忘れたけど、ライブの打ち上げでヨウちゃんと後輩の誰かが大ゲンカしたことがあって。その後輩が「なんでそんなことするんですか?」みたいなこと言ったら、ヨウちゃんが「おまえ、俺のファンじゃなかったのか!」って言ったんだよね。これは名言だと思ったね(笑)。あのひと言がすべてを表してると思うよ。
日高 かわいいんですよね、言うことが(笑)。実はガーリーなんです、みんな気付いてないけど。
増子 乙女だね。吉野もそうだけど。
山中 気持ち悪いわ! しかも吉野くんまで巻き込まれてるし(笑)。
V.A.「Yes, We Love butchers ~Tribute to bloodthirsty butchers~」
- トリビュートアルバム第1弾「Abandoned Puppy」 / 2014年1月29日発売 / 3000円 / 日本クラウン / CRCP-40357
- トリビュートアルバム第1弾「Abandoned Puppy」
収録曲
- 襟がゆれてる。 / ACIDMAN
- 2月/february / the band apart
- 散文とブルース / BRAHMAN
- ROOM / COCOBAT
- 9月/september / 八田ケンヂ
- ocean / HUSKING BEE
- JACK NICOLSON / KING BROTHERS
- ラリホー / ロマンポルシェ。
- サラバ世界君主 / The SALOVERS
- アンニュイ / SLANG
- ファウスト / SODA!
- ギタリストを殺さないで / THE STARBEMS
収録曲
- sunn / CARD
- 僕達の疾走 / cinema staff
- 襟がゆれてる。 / Climb The Mind
- I'm on fire / 怒髪天
- JACK NICOLSON / LOSTAGE
- 9月/september / LOST IN TIME
- ファウスト / LOW IQ 01
- サラバ世界君主 / MONOBRIGHT
- プールサイド / 向井秀徳
- 11月/november / THE NOVEMBERS
- 襟がゆれてる。 / perfectlife
- 散文とブルース / the pillows
- トリビュートアルバム第3弾「Night Walking」 / 2014年3月26日発売 / 3000円 / 日本クラウン / CRCP-40366
- トリビュートアルバム第3弾「Night Walking」
収録曲
- ファウスト / ART-SCHOOL
- ソレダケ / bed
- 7月/July / Co/SS/gZ
- no future / Discharming man
- Never Give Up / eastern youth
- discordman / きのこ帝国
- ロスト・イン・タイム / MO'SOME TONEBENDER
- ファウスト / 少年ナイフ
- 燃える、想い / SiNE
- ピンチ / タルトタタン
- 8月/august / ueken butchers project
bloodthirsty butchers
(ぶらっどさーすてぃぶっちゃーず)
1986年に札幌で結成されたロックバンドで、メンバーは吉村秀樹(Vo, G)、射守矢雄(B)、小松正宏(Dr)、そして2003年に加入した田渕ひさ子(G)の4人。1991年にFugaziの来日公演に出演したことを機に上京し、2度のアメリカツアーや、オリンピアで行われたフェス「YO YO A GO GO Fes.」への出演などでUSインディーシーンにも名を知らしめる。1994年にはメジャーデビューアルバム「LUKEWARM WIND」をリリース。その後「kocorono」「未完成」といったアルバムが各方面で絶賛され、90年代のオルタナシーンで確固たる地位を築く。結成20年目となった2007年には自主レーベル・391toneを設立。2011年には彼らの姿を追った長編ドキュメンタリー映画「kocorono」が全国各地で劇場公開される。2013年5月、吉村が急性心不全のため逝去。すでにマスタリングを済ませていたアルバム「youth(青春)」と、写真集「bloodthirsty butchers『青春』」が同年11月に発売される。そして念願だった「kocorono」のアナログ盤を完全限定発売。2014年にはトリビュートアルバムを数カ月にわたって複数枚リリースする「Yes, We Love butchers ~Tribute to bloodthirsty butchers~」シリーズが企画されている。
-
youth(青春)
[CD] 2013/11/14発売 3000円 キングレコード KICS-196 -
kocorono(アナログ盤)
[アナログ] 2013/11/14発売 5040円 391tone NAS-2009~10