SALUが語る「ブラックパンサー」|ケンドリック・ラマーが不可欠な理由

ケンドリック・ラマーがいなくては成り立たない

──「ブラックパンサー」にはケンドリック・ラマーが全面的に協力しています。この映画において彼はどんな役割を果たしていると思いますか?

ケンドリック・ラマーが主人公でもいいくらい、ケンドリックっぽい映画でしたよね(笑)。僕はこの「ブラックパンサー」という映画は彼がいなくては成り立たないくらい重要だと思います。彼の歌詞、声、キャラクター、ストーリーが映画に入り込んできてるような感覚で映画を観てました。

──詳しく教えてください。

「ブラックパンサー」

僕は主人公のティ・チャラの一族がやっていることを、現実世界の音楽という形で実行しているのがケンドリックだと思うんですよ。彼はコンプトンという非常に治安の悪い町で育って、悲しい人生を送る人たちを目の当たりにしてきた。だからすべての人によりよい人生の選択をしてほしいと活動している。たぶん彼のこういった歌やストーリーは、監督が描きたかったテーマを現実とリンクさせるうえで必要不可欠だったんだと思う。

──今のアメリカではリル・パンプや6ixe9ineのような、ミュージックビデオで拳銃を見せびらかしたり、ドラッグで酩酊したりするようなヒップホップが主流です。そんな中で、言っていることも音楽性も違うケンドリック・ラマーが非常に高く評価されているのはなぜだと思いますか?

確かにリル・パンプみたいな子たちとケンドリックでは「ただのラップ」と「音楽」くらい違う。それはよし悪しではないですけど。僕は新しいことに挑戦し続ける若いトラップのアーティストも、ヒップホップが多様化した現代においては1つの正義だと思う。だけど、ずっと聴いてると飽きることもあって。小さい頃から慣れ親しんでいる音楽を心のどこかで求めてる。ケンドリックは最新トレンドを取り入れつつも、豊かな音楽性で愛について歌ったりしてるから、みんな好きになっちゃうんじゃないかな。

──ケンドリック・ラマーの内面的な部分についてはどう思いますか?

SALU

ケンドリック・ラマーは自分が持ってるものに気付いていると思うんです。今の時代に、自分がやるべきことを理解して、それをちゃんとやってる人と言うか。自分の持ってるものに気付いてる人や、やるべきことを理解してる人はたくさんいると思うけど、すべてがぴったりハマってるのがケンドリック・ラマーだと思います。

──例えば、以前ケンドリック・ラマーはアメリカの2大ギャング、ブラッズとクリップスの融和をスニーカーで表現してましたが、普通そんなことしたら殺されちゃうと思うんです。軽々しく扱えないテーマと言うか。

これは僕の推測でしかないけど、みんなそういった問題をいつか解決したかったんじゃないかな。タブーじゃないものにしたかったんだと思う。2パックがそういうことをできる存在だったけど、亡くなってしまった。だからみんなふさわしい後継者を待ち望んでたんじゃないかなって。だからみんなで応援したくなる人って言うか。みんなの気持ち、夢を乗せた箱舟みたいな存在。

──そう考えると重いですね。

ケンドリックはよく自分の作品で弱音を吐いてますしね。でもやるんです。それが愛なんですよ。

みんな枝分かれしたオリジナルの1つ

──「ブラックパンサー」は主要キャストがほぼ黒人です。日本ではそういった作品が一般的に敬遠されがちだと思います。「日本人に黒人の文化は理解できない」みたいな。日本のヒップホップに対しても、いまだに「黒人のパクり」という意見があったり。

「ブラックパンサー」より、チャドウィック・ボーズマン演じるティ・チャラ。

それ、本当にいまだに言う人いるんですよね……僕も最近尊敬するアーティストと話してるとき、同じ話になったんですよ。そしたらその人が「人類の起源はアフリカにあると言われてて。そこからいろんなところに移り住んで今日の世界がある。その果てに僕ら日本人がいるわけだよね? じゃあ日本人がアフリカ人のコピーなのか、パクってるのかと言ったら、それは違う」と言うんです。つまり「みんなオリジナルなんだよ。その場所、その環境、その時代、その風土に適応して枝別れしただけなんだ」って。

──すごく共感できます。

SHOKICHI(EXILE、EXILE THE SECOND)くんが言ってたんですよ。僕もこれ聞いたとき、衝撃を受けて。ヒップホップも一緒かなと思うんです。アメリカの黒人たちが始めたヒップホップが、日本にたどり着いて、この場所に適応したんですよ。だからパクりじゃなくてオリジナルが枝分かれしたものなんです。それに、そもそも仮に僕がアメリカに行って「ラップやってるんだ」と現地の黒人に言ったとしても、彼ら彼女らは「は? ふざけんな」とはならないと思う。もちろんアジア人のヒップホップに理解のある黒人は少ないと思うけど、日本人が気にしてるほどではないと思うな。「自由にやったら」って言うか。日本人が勝手に敷居を高くしすぎてる部分はあるかなって。

──もしも「ブラックパンサー」を同じような理由で敬遠してる人がいたら、そう言ってあげたいですね。

ホントホント(笑)。黒人文化を「お邪魔します」って感じで見せてもらって、そこで感じたことを自分なりに持ち帰って育んでいくことは何も間違ったことではないと思いますよ。この映画も「黒人の歴史は黒人にしかわからない」というスタンスでは全然ないし。観た人それぞれが好きに解釈していいよって言ってる感じはすごくしましたもん。ネタバレになっちゃうから言わないけど、最後のシーンの発言がすべてを象徴しているような気がしましたね。手を差し伸べてきてると言うか。

──もう1回観たくなっちゃいますね。

SALU

そうなんですよ(笑)。この映画って、人種とか、趣味嗜好とかは関係なく、観た人がいろんなことを感じ取れる作品だと思う。愛についての作品というのは僕の意見ですね。ケンドリックも最近はほとんど愛について歌ってる気がするんです。むしろ成功している人は愛について考えて、愛のために何かを実行してる人しかいないような気すらしてるんですよ。

──では最後にSALUさんの活動についても聞かせてください。SALUさん自身はアルバム「INDIGO」リリース後にフリーダウンロード作品シリーズの最新作「BIS3」を発表してキャリアに1つの区切りを付けました。今後はどのように活動していく予定ですか?

最近ようやくアーティストとしてのスタートラインに立てた気がしてて。僕にとってアーティストとは、表現したことを聴いた人の耳と心にすんなりと届ける何かを持っている人なんです。その何かはこれまでも僕の中にあったのかもしれないけど、自覚してなかったし、自信もなかった。だけど徐々に準備が整ってきた。今は自分が本当に言いたいことを言うために歩みを一歩ずつ進めている段階です。議員になる前の政治家みたいな感じ。僕が悪徳議員にならないように見守っててくださいね(笑)。

「ブラックパンサー」
2018年3月1日(木)全国公開
「ブラックパンサー」
ストーリー

アフリカの秘境・超文明国家ワカンダには、ある秘密があった。それは、世界を滅ぼしてしまうほどのパワーを秘めた希少鉱石“ヴィブラニウム”の産出地であるということ。歴代のワカンダ王は、この鉱石が悪の手に渡らないよう秘密を厳守するとともに、鉱石を研究し最先端のテクノロジーを生み出していた。父を亡くした若き国王ティ・チャラは、儀式を経て国を守るヒーロー“ブラックパンサー”に即位する。しかしまだその心構えを持てず、かつての婚約者ナキアへの思いも断ち切れないティ・チャラは葛藤していた。その頃、ワカンダを狙う謎の男エリック・キルモンガーと、武器商人のユリシーズ・クロウが手を組み、大英博物館にあったヴィブラニウム製の武器を盗み出し……。

スタッフ / キャスト

監督:ライアン・クーグラー

脚本:ライアン・クーグラー、ジョン・ロバート・コール

出演:チャドウィック・ボーズマン、マイケル・B・ジョーダン、ルピタ・ニョンゴ、ダナイ・グリラ、マーティン・フリーマン、ダニエル・カルーヤ、レティーシャ・ライト、ウィンストン・デューク、アンジェラ・バセット、フォレスト・ウィテカー、アンディ・サーキスほか

V.A.「Black Panther The Album(国内盤)」
2018年2月28日発売 / Interscope Records
V.A.「ブラックパンサー:ザ・アルバム」

[CD] 2700円
UICH-1008

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収録曲
  1. Black Panther / ケンドリック・ラマー
  2. All The Stars / ケンドリック・ラマー、SZA
  3. X / スクールボーイ・Q、2チェインズ、サウディ
  4. The Ways / カリード、スウェイ・リー
  5. Opps / ヴィンス・ステープルズ、ユーゲン・ブラックロック
  6. I Am / ジョルジャ・スミス
  7. Paramedic! / SOB X RBE
  8. Bloody Waters / アブ・ソウル、アンダーソン・パーク、ジェイムス・ブレイク
  9. King's Dead / ジェイ・ロック、ケンドリック・ラマー、フューチャー、ジェイムス・ブレイク
  10. Redemption Interlude
  11. Redemption / ザカーリ、ベイブス・ウドゥモ
  12. Seasons / モジー、ジャヴァ、リーズン
  13. Big Shot / ケンドリック・ラマー、トラヴィス・スコット
  14. Pray For Me / The Weeknd、ケンドリック・ラマー
SALU(サル)
SALU
1988年、北海道生まれのラッパー。2010年に当時はまだ無名の存在だったにもかかわらず、SEEDAが所属するSCARSの「CASH & THE CASHER」で客演ラッパーとしてフィーチャーされる。翌2011年にはSEEDA「黙る時代は終わり」、JAY'ED「ブレイブ・ハート」、SIMON「Change My Life」といった楽曲に次々とフィーチャーされ、話題の存在となった。2012年3月、BACHLOGICが立ち上げたレーベル「One Year War Music」から1stアルバム「In My Shoes」を発売。翌年6月にはミニアルバム「In My Life」でTOY'S FACTORYよりメジャーデビューし、2014年5月に2ndアルバム「COMEDY」を、2016年4月にKenmochi Hidefumiや中島美嘉ら多数のゲストを迎えた3rdアルバム「Good Morning」をリリースした。2016年10月にSKY-HIとのコラボレーションアルバム「Say Hello to My Minions」を発表したのち、2017年5月に4thアルバム「INDIGO」をリリースした。

2018年3月6日更新