Bialystocksがドラマ「きのう何食べた? season2」のエンディングテーマ「幸せのまわり道」を配信リリースした。
2022年11月にメジャー1stアルバム「Quicksand」を発表し、普遍的でありながら新しさを兼ね備えた音楽性でひと際注目を浴びた彼ら。6月にスタートし、全公演がソールドアウトを記録した2ndツアーでは、進化した姿をリスナーに提示してみせた。そんなBialystocksは、人気作である「きのう何食べた?」の毎話ラストを彩る楽曲にどんな思いを込めたのか。
音楽ナタリーではBialystocksの甫木元空(Vo)と菊池剛(Key)にインタビュー。音楽的なアイデアにあふれた2ndツアーの裏側と、新曲「幸せのまわり道」の制作についてじっくり話を聞いた。
取材・文 / 森朋之撮影 / 森好弘
「どう受け止めてもらえるんだろう」ストイックな2ndツアーを振り返る
──まずは6月から9月にかけて行われた全国ツアー「Bialystocks 2nd Tour 2023」について(参照:混沌、調和、そして熱狂 Bialystocksの音楽への追求心たぎる2ndツアー終了)。手応えはどうでしたか?
甫木元空(Vo) 2回目のツアーだったんですけど、フィジカル(肉体的)に見せるストイックなライブというか。音源とのギャップを含めて、「どう受け止めてもらえるんだろう」と思っていましたが、一番盛り上がったのは、菊池(剛)、サポートの朝田拓馬さん、秋谷弘大さんの3人がギターを弾いたところでしたね(笑)。
──「あくびのカーブ」のアウトロのトリプリギターセッションですね。
甫木元 ああいうところで盛り上がるのはいいことだなと。音楽好きの人たちが観に来てくれてることが伝わってきたし、ありがたかったです。
菊池剛(Key) 前回のツアーではライブ用のアレンジを直前に準備していたんですけど、今回はブラッシュアップする時間的な余裕があって。わかりやすくクオリティが上がったのかなと思ってます。
──原曲とはかなり違うアレンジで演奏された曲もありました。それもツアーのテーマだったんですか?
菊池 アレンジを変えることを前提にしていたわけじゃないんですが、音楽的なアイデアを詰め込んだ感じですね。アレンジにはレコーディングしたあとに思いついた、音源には入れられなかった要素も反映しています。音源をライブでそのまま再現できない場合もあるので、そういうときは思い切りアレンジを変えたほうがやりやすいんですよ。
甫木元 あと、サポートミュージシャンにもスポットが当たるようにしたいというのもあって。全員にソロパートを作るというのも決めてましたね。僕らにスポットが当たり続けても……という気持ちもあるんですよ(笑)。音源にもギターソロが入ってたりするし、ライブでもそこはしっかり見せたいなと。
──「差し色」のエンディングでは数分間のベースソロがありました。
甫木元 ギターソロやドラムソロが入っている曲もあるので、「ベースソロもどこかで弾いてほしい」という話をしていて。サポートベースのYuki Atoriさんはジャズを得意としているプレイヤーなので、ああいうジャズやフュージョン系のソロが光るんですよね。
──さらに「All Too Soon」では、インプロビゼーション的な演奏も繰り広げられました。ああいう即興のようなアレンジもジャズ的なのかなと。
甫木元 そうですね。「All Too Soon」はジャズのフォーマットに近かった気がします。
菊池 個人的に、ジャズをやっている方にサポートに入ってもらったほうがやりやすいんです。もちろんいろんな音楽に理解がないと一緒にライブを作り上げるのは難しいんですけど、ジャズを知っているプレイヤーのほうが共通言語があるというか、音楽的にもストレスがないので。
──バンドアレンジは菊池さんが中心になって作ってるんですか?
菊池 はい。ラフな譜面を書いて、あとは口頭で伝えています。みんなでセッション的に進めるやり方もあると思うんですけど、まずは1人で決めたほうが突飛なこともやりやすい。突飛という表現が合っているかわからないけど、「ここで長いベースソロを弾いてほしい」みたいなことも入れやすいんです。
──それがBialystocksのライブのスタイルにつながっているのかも。
菊池 どうなんですかね。ただ、各プレイヤーのソロパートだったり、それぞれにフォーカスすることは続けていきたいです。もし今後、大きな会場でやることになったとしても、そういう部分があったほうが面白いと思うんですよね。
全体の流れから見えてきたボーカルの“抜き差し”
──甫木元さんの安定したボーカルもとても印象的でした。ライブにおけるボーカルの表現の幅も広がっているのでは?
甫木元 ……難しいですけどね、そこは。今回のツアーは、ライブの流れみたいなことを意識していて。お客さんの反応はどうであれ、全体の流れの中で、それぞれの曲の立ち位置を決めていたところもあるし、ツアーが進むにつれてそれを少しずつ蓄積できたのかなと。“抜き差し”というのかな。「この曲はボーカルが前に出る」「この曲はちょっと引く」みたいな感覚が少しずつ見えてきた気がします。さっき話してた各プレイヤーのソロも、取って付けた感じではなくて、必然性があったんですよ。
──確かにライブ全体を通して、大きなストーリー性みたいなものを感じました。ちなみに「ここはお客さんを盛り上げないと」という瞬間もあるんですか?
甫木元 盛り上がりを強要するのも違うのかなと。自然に楽しんでもらって、好きなところで歓声を上げてもらえたりすると「いいな」と思うんですよね。踊っている人もいれば、静かに聴いている人もいて、いろんな聴き方をしている人たちが混在しているのもいい。手拍子が始まったらもちろんうれしいですけど、ライブのお決まりみたいなものが増えると、自分たちがやりたいことを入れづらくなるような気もしてるんですよ。まあ、そこまでライブをやっているわけでもないですからね、まだ。
──あくまでも音楽が優先というか、楽曲や演奏が最優先なんでしょうね。
甫木元 そうだと思います。曲作りに関しても同じで、「歌詞でこれを伝えたい」ということよりも、メロディの中の響きを優先しているんですよ。アレンジも「派手にしたい」とか「泣かせにいきたい」みたいなことはなくて、あくまでも曲の流れを意識しています。
──先ほど話に上がった「あくびのカーブ」のアウトロですが、EX THEATER ROPPONGIで行われた追加公演では甫木元さんがカメラを持ち、撮影した映像をリアルタイムでスクリーンに投影する演出が取り入れられました。あれはどなたのアイデアだったんですか?
甫木元 僕ですね。追加公演はスクリーンが使えるということだったので、映像を入れようか?と考えつつ、ツアー自体は映像演出を使っていなかったので、追加公演だけ特別感が出すぎるのもどうなのか、という話にもなって。少しだけ印象を変えられるといいなと思ったんです。あとは単純に「みんなミュージシャンの手元を見たいだろうな」と。あれだけフィジカルでしっかり見せられるメンバーがそろっていたし、自分なりのサービスです(笑)。
タイアップでは書けない「Branches」
──メジャー1stアルバム「Quicksand」を昨年11月に発表したのち、Bialystocksは「頬杖」「Branches」の2曲を配信リリースしました。「頬杖」はライオンの柔軟剤「ソフラン エアリス」のCMソングですね。
甫木元 はい。CMの映像を見せてもらって、そのイメージに合わせて作りました。
──この曲もライブでかなりアレンジを変えていて。特にボーカルのニュアンスはまったく違いましたね。
甫木元 そうですね。音源ではもっと抑えて歌ってるので。さっき言ったライブの流れの影響もあるんですけど、「ここはもっとエモーショナルに振ったほうがいいかな」と思って変えました。
──「Branches」はどういうイメージで制作された曲なんですか?
甫木元 「『頬杖』とは違う感じの曲を」と菊池にお願いしました。
菊池 この曲は頭の中でイチから考えるところから始まりましたね。アレンジがなかなか浮かばなくて、けっこう迷いましたけど。
──ピアノとギターの絡みが独創的ですよね。
菊池 タイアップ曲ではなかなかできない構成だと思います。
甫木元 菊池が作る曲のデモ音源には、菊池が英語で歌う仮歌が入ってるんですよ。「Branches」のデモを聴いたときに、川を流れている枝みたいなイメージが浮かんで。サビで一気に場面が変わるんですけど、そこで自分が言いたいことを入れるとクドすぎるなと思って、「なんのことを歌ってるんだろうな」くらいにとどめようと意識して歌詞を書きました。ただ見ているだけというか、あまり感情移入せず、音楽的なところが前に出たほうがいいと思ったんですよね。あとは言葉の響きですね。菊池は英語で歌ったときの“音”を重視するので、それを損なわず、どう日本語に変換するかを考えて。
──歌詞の響きや母音に関して、菊池さんから意見することもあるんですか?
菊池 めちゃくちゃ言いますね。歌詞の内容は任せているんですけど、音に関してはかなり言います。デモの段階で付けている英語詞は、自分で言うのもアレですけど、すごくいい感じでハマってるんですよ。甫木元が英語で歌えたら一番いいんですけど、日本語に変換するときもできるだけ語感を生かしたい気持ちがあります。
次のページ »
できるだけフラットに、最後はちょっとだけ幸福感を