ベリーグッドマン Rover MOCA|丁寧に考え抜いた言葉で届ける 身近な人への愛とメッセージ

ベリーグッドマンが自主レーベル・TEPPAN MUSICからのアルバム第2弾「必ず何かの天才」をリリースした。

表題曲「必ず何かの天才」のほか、3年ぶりのCDシングル「ナツノオモイデ」、結婚式場でのライブが話題を集めた「それ以外の人生なんてありえないや」、Roverの33歳の誕生日に配信された「散々」などを収めたこのアルバム。再生時間は約31分とコンパクトだが、その分味の濃い作品に仕上がった。「必ず何かの天才」にベリーグッドマンはどんな思いを込め、どれほどのアイデアを詰め込み、いかなる工夫を凝らしたのか。RoverとMOCAの2人に話してもらった。

取材・文 / 高岡洋詞撮影 / 須田卓馬

今のベリーグッドマンはこういう歌でいきます

──1年前のインタビュー(参照:ベリーグッドマンRover&MOCAインタビュー)でお話を伺ったとき、Roverさんは「今回はそこまでライブを前提にしないで自由に作りました」とおっしゃっていましたが、今回はどうでしたか?

Rover コロナ禍や自粛というモードから、いつもの作り方に戻ってきつつある気はしますね。今回はツアーをけっこう意識して作ったんで。アッパーソングの「GroovyでDancingなParty」や「new era」もそうですけど、「Distance」のような“どバラード”って、これまでは外しがちだったんです。これを入れ込めたのは「ワンステージの1時間半~2時間の中で緩急を付けたい」という認識で3人とも進んでいたからやと思うんですね。いかにもラブソングラブソングした曲ではないけど、愛を込めた歌やし、僕はこの曲がライブのキーポイントになってくるかなと思います。「Distance」のハマりどころがどこになるのかとか、先行シングルで切った3曲は「WEDDING TOUR 2021」では歌ったけどホールで歌ったらどうなるのかというのも楽しみです。

──同じく去年のインタビューで、MOCAさんは「勝手にアルバムの構想を練るのが趣味で、次のアルバムの構想も僕の中ではもうできてるんです」とおっしゃっていました。

MOCA 今回は「必ず何かの天才」がリード曲になると信じてアイデアを持っていって、2人も乗ってくれて「ここを目がけて作ろう」という感じでできたと思います。表題曲をもとに、それとは正反対の曲だったり、両者の中間の曲だったり、ちょっとテイストが違う曲を作ってアルバムを完成させたような形なので、「早いタイミングでスイッチを入れられてよかったな」という感覚がありましたね。

左からRover、MOCA。

──やはり表題曲がアルバムの軸なんですね。

Rover 確か6月かな、「WEDDING TOUR」の福岡公演のときにMOCAから「みんな天才なんだ、とエールを送れる曲を作りたい」って言われたんですよ。その場でウクレレをポロポロッと弾いてくれたんですけど、これまでになかった感じで「いいやん!」と思って。

MOCA 自分たちももう若くないんで、もっと言葉1つひとつに責任を持っていかなあかんし、「ベリーグッドマンが歌わんでもええようなことは歌わんとこ。ありそうでなかった穴をきっちり狙っていかな」と思ったんです。「必ず何かの天才」はあんまり聞いたことないテーマやったし、「アイカタ」がいい形で認知してもらえるきっかけにもなったところで、このテーマにRoverのメロディとHiDEXのトラック、3人のリリックが混ざり合ったら確実にオリジナリティあるしイケるぞ、っていう感覚がありました。まあ僕はテーマだけ出して、あとはRoverに丸投げですけど(笑)。

Rover もう1曲、僕の中で温めてたリード曲候補があったんですけど、それはけっこうドラマチックというか壮大なイメージだったんです。ただ、今の時期は「必ず何かの天才」のようなポップな路線のほうがいいかなと思って、その曲は今回は入れないでMOCAの構想に乗ってみました。

MOCA その曲もけっこう全貌が見えていて、事務所含め「めちゃめちゃいい!」ってなってるんで、あえて取って置いてるんです。今回は挑戦してみた感じですね。

Rover 時代はラブソング、みたいな流れもあると思うんですけど、僕たちは時代に合わせて歌うことは今までもせんかったし、これからもしないと思うんですよ。「時代にぴったりかどうかはさておき、今のベリーグッドマンはこういう歌でいきます」というアルバムになったし、かなり本気の1枚だと僕は思ってます。

──尺もコンパクトで、言いたいことが凝縮されている感じですよね。

Rover そうなんです。まるっと聴いても30分ちょっとで終わっちゃうんですけど、すごく濃い1枚だと思います。

タブーに挑んだ遊び人ソング

──「Distance」と表題曲以外だと、アルバムの濃さが表れているのはどの曲だと思いますか?

Rover

Rover 「Alarm」は濃いと思いますね。この曲って、なんて言うんですかね、30歳過ぎの男3人が歌う曲としてはちょっとタブーな曲だと思うんですよ(笑)。

──いわゆる遊び人ソングですよね。

Rover これもMOCAのアイデアで、「なんで?」とは思いましたけど、僕たちはある意味役者なんで、どんな役も演じられるようになっておかないといけないなと。今の時代への風刺というわけではないんですけど、何かすれば叩かれる、「不倫なんてもってのほか」というような風潮を踏まえて、ちょっとだけ古いサウンドに乗せてこういうことを勢いよく歌ってる感じが滑稽でいいんちゃうかなと。

──MOCAさんが男性役、Roverさんは女性の役ですものね。

Rover 振り回されてる女性の役をやりたかったんです。男の役は「どう思われるか」と考えると大変なんで(笑)。

──そしてHiDEXさんはちょっと引いた立場で心象を説明するような役で、シリアスな雰囲気のある歌声が、すごくいい味を出していると思いました。

Rover めっちゃいいですよね。僕、仕上がり的にはこの曲が一番面白いと思います。今までなかったタイプの曲だし。

MOCA HiDEXのトラックを聴いたとき、最初にアラームが鳴った瞬間に男女のベッドシーンしか浮かばなかったんですよ。少なくとも応援歌っぽいコード感ではないし、かといって僕たちが本気でやってるようなテーマと混ぜたらおかしくなるし、と思ってワンナイトラブをテーマにしました。ホテルのアラームで起きたら「誰やこの子!?」みたいな。やったことないからわからないですけど。

Rover やったことは、まあ、たぶんあるんでしょうけど……(笑)。

MOCA ないよ! ないない!

Rover こういうことをバカ正直に歌えるっていうのはいいことだと思います。

MOCA 「バカ正直」って言うたらやったことあるみたいやんけ。

Rover 「Secret Drive」も似た感じだし、「エキスパンダー」でも「タッタラもうエッフェル塔よ」とか言ってて、チャラ男っぽい歌をやりたがるんですよ、MOCAは。いいと思います。

MOCA 「Alarm」と「new era」はHiDEXが早い段階でトラックを上げてたんです。「new era」はRoverが今までにないような歌詞を書いてくれて、かなりテンション上がりましたね。サビ2つ目の「最も重要な世代が僕らだった事を知った」っていうフレーズが、僕がこのアルバムで一番泣けるところなんですよ。のちのち「あのパンデミックを乗り越えれたのは俺らだけやったよな」って思い出せそうなフレーズで。

Rover もともとは「no way」っていう、「どうしようもない。ありえない。ダメだ」っていう曲だったんです。僕たち1988年生まれって、10年後ぐらいには働き盛りで国を支えていくような世代だと思うんですけど、「すごく重要な時代に生きて働かせてもらってるんだな」というのを最近すごく感じるというか。そういう意味で作ったフレーズですね。まあ、僕は一番好きではないですけど(笑)、MOCAに刺さってよかったです。

言葉を丁寧に届けることの大切さ

──MOCAさんは「new era」が一番泣けるとのことですが、Roverさんは泣ける曲はありますか?

Rover 「Distance」のMOCAのバースですね。電話でしゃべってるような声で歌ってるんですけど、言葉以前にテンション感がすごく好きで。「何でだろう? ケンカとかもあったのにな 当たり前が当たり前じゃなくなったからかな? とりあえず元気にやってっかな?」って「?」が続くあたりがめっちゃ泣けるんですよ。MOCAはたぶん妄想で言ってるんでしょうけど、電話で話してると捉えると、ソーシャルディスタンスやリモートのような人と人を隔てる距離の象徴にもなってるし。これがあるから、僕が歌う落ちサビの「せめてその声だけでも聞かせて」というところは電話で話してる感じにしたんです。

MOCA ふーん。初めて聞きました(笑)。

Rover 「聞~か~せて~」って伸ばしてもよかったんですけど「聞か、せ、て」って短く切ったのは、「……」を音で表したかったんです。「せめてその声だけでも……」にしたかったんですよ、本当は。切なさをしぼり出したような感じですね。すごく悲しい曲なんで。

MOCA

MOCA その落ちサビの「朝が来るよ」の「あ」の入り、「ぁぁはぁさ」ってなるところが、爆音で聴けば聴くほど切ないんですよ。

Rover めっちゃ練習したからな。

MOCA 「あ」じゃなくて「は」やねん。車で聴きながら真似してますけど、全然できないですね。

──当たり前ですが、1つの音にもたくさんの創意工夫が詰まっているんですね。

MOCA 僕はいつも低い声域で曲を作らないんですよ。というのは低音だとライブで動きながら発声するのが難しいからで、自分の出しやすい音域だけでずーっとやってきたんです。だけど今はライブもなかなかできないし、むしろ言葉を丁寧に届けたり、噛みしめて歌ったりするほうが大事やなと思って、今回は低いところに挑戦しました。もともと2人は「MOCAは低い声のほうがカッコええから」と言ってくれてたんですよ。これまではチャレンジしてもアルバムに1曲ぐらいでしたけど、今回は4、5曲入ってます。