前作「すごいかもしれん」からわずか半年、ベリーグッドマンがニューアルバム「ピース」をリリースした。
今年11月に結成10周年を迎えるベリーグッドマンは、阪神甲子園球場100周年記念事業アンバサダーに就任し、節目となる11月に目標として掲げていた同球場でのワンマンライブを開催。その前には「Road to 甲子園」と銘打ち、約6カ月かけて全国を巡演する47都道府県ツアーも控えている。初ものだらけ、大忙しのアニバーサリーイヤーだ。
音楽ナタリーではメンバーのうちRoverとMOCAの2人にインタビュー。アルバムの詳細はもちろん、甲子園ライブとツアーへの思いもたっぷり話してもらった。
取材・文 / 高岡洋詞撮影 / 入江達也
すべてが大切なPieceでPeaceなアルバム
──1月に配信リリースされた「夢物語」とその前の「青春開幕宣言」の印象が強いせいか、アルバムを最初に聴いたとき、今回はMOCAさんの色が強いように感じました。
Rover 今回はMOCAの音楽的な感覚とか価値観がふんだんに盛り込まれているので、その意味では大正解ですね。「青春開幕宣言」「夢物語」「オドリバ★ジャポニカ」はMOCAがイメージを出してくれましたし、「Ame」も「サウナ」もMOCAのエッセンスが多いです。誰が作ってるとか、誰がメインで歌ってるみたいなことって僕たちはまったく気にしないんですけど、ある意味で今までにやったことのない、新しい作品なのかなと思います。
MOCA 言われてみると確かに、という感じですね。僕がおいしいところをやらせてもらってるからそう聞こえるのかもしれないですけど。例えば「夢物語」の「高3で春夏、甲子園に出場」のヴァースが、仮に2番にあったらまた印象が違うと思うんですよ。「青春開幕宣言」やったら、サビ後の「感動するような瞬間を」と畳みかけるところは、3人で歌ってますけど、僕のエッセンスですしね。「Fave」では僕のパートは最後の「Oh! 親愛なる家族みたいに」のところにしか出てこないけど、ここで1回ひっくり返す感じがあるので、印象深く感じてもらえるのはうれしいですね。
──曲のフックになる部分をMOCAさんが担っていることに加えて、「夢物語」ではMOCAさん自身の悔しい思い出が曲のストーリーにリアルな説得力を与えているのではないかと。
Rover 「夢物語」はすでにツアーやライブで歌っているんですけど、自然と魂がこもるし、すごい曲かもしれないと思っていますね。それと対をなす曲が「マスターピース」で、「夢物語」がチームのことを歌ってるのに対して、これは自分たち自身のことを歌ってるんですよ。その2曲を際立たせるには、あとはもうふざけるしかないということで、「サウナ」とか「オドリバ★ジャポニカ」とか、元気な「青春開幕宣言」とか、ちょっと僕ららしくない「Fave」を入れました。あと、47都道府県ツアーが決まっていたので、今回のアルバムは楽しい感じに振り切ってもいいのかなと思って、ラブソングは入れてないんです。
──確かに今回はラブソングがないですね。
Rover それに、今までは「ライオン」みたいな応援歌を前面に押し出すことが多かったんですけど、どうしても「ライオン」は超えられないんですよ。だからといってあきらめるわけじゃなくて、新たな方向で挑戦してみるというか。例えば「オドリバ★ジャポニカ」みたいな明るくふざけた曲に「人生とは」という重みのある歌詞を載せたほうが心に刺さることもあるかもしれない。エロい曲が人間らしいという意味で、男子高校生への応援歌になるかもしれないですし(笑)。
Rover 頭おかしなってると思われるでしょうけど、実際に頭はおかしなっていってます(笑)。じゃなかったらできないと思いますね。
──アルバム冒頭の「Intro ~ピース~」は毎回、ライブが始まる前にメンバーでやっていることを表した曲ですか?
Rover はい。両手でピースサインを作って3人で指先をくっつけて「がんばりましょう! ベリーグッドマン! キラキラキラキラ」ってやっているんです。アルバムタイトルは、僕らがこれまで出会ってきた1つひとつすべてが大切な“ピース(piece)”であるという意味のほかに、このピース(Vサイン)の意味もあります。
音楽の発想は音楽以外の刺激からしか生まれない
──ではここから収録曲について1曲ずつお聞きしていきます。まずは「青春開幕宣言」ですが、この曲はどのように作られたんでしょう?
Rover 実はこの曲は1年以上寝かせていた曲なんです。
MOCA とあるタイアップコンペのお話をいただいて、高校生たちが海辺を走りながら何かを食べてるイメージビジュアルを見ながら作った曲です。コロナ禍だったので、内に溜まってるものが爆発するような、青春の叫びみたいな曲になればいいなと思ってワンコーラスだけ作ってあって。ライブハウスツアーがあるこのタイミングでアルバムの1曲目にしたら、熱量的にはいきなりピークを迎えられるんじゃないかと思って完成させました。
──ビジュアルのイメージにインスパイアされて出てきた曲なんですね。
MOCA 結局コンペには落ちたんですけどね(笑)。でもタイアップ案件とかでテーマをもらえると、自分たちの引き出しも増えるんですよ。
──僕ら素人には、アーティストと呼ばれる人たちは内的な芸術的衝動を何も言われなくても形にしているように思いがちですが、意外と皆さん「お題をもらうのは大事」とおっしゃいますね。
Rover 絶対そうですね。僕は音楽の発想は音楽以外の刺激からしか生まれないと思います。この曲をもとに新しい曲を作ろう、というやり方では土台が弱いと思うんですよ。サンプリングもそれと似ていて、そのフレーズを超えるものができないと、リリースしたくはならないんですよね。サンプリング元に申し訳ないというか。
トイレで泣いた
──次の曲「夢物語」は甲子園ライブのテーマ曲みたいな位置付けですか?
Rover 甲子園ライブに向けて開催する47都道府県ツアーのサブタイトルが「Road to 甲子園」なので、甲子園に向かっていく道中、各地で歌っていきたい曲という感じですね。大きな夢を見ることのカッコよさも恥ずかしさも全部伝えて、「これを支えてくれたのは今、目の前にいる皆さんであり、仲間なんですよ」と。「夢物語」って「そんなの夢物語だよ」「叶うわけないよ」みたいに、ちょっとバカにした感じで使われる言葉だと思うんですけど、「ホンマに夢を叶える人はバカにされる人なんだよ」ということが、この曲で一番言いたいことかもしれないです。夢をつかむ人間は「そんなことできっこない」とナンボ言われても、その夢に向かってがんばってきた人だと思うので、その意味合いがライブで伝わったらいいですね。
──パフォーマンスの熱量とともにそのメッセージを伝えようと。
Rover はい。「夢を持ってください!」とか「夢は叶います!」みたいなきれいごとが言いたいわけじゃなくて、夢が叶うかどうかなんてわからないけど、自分がやりたくてたまらないんだったらやってくれ、バカにされても失敗しても全然問題ないと。そういう学校で教えてくれないことを、僕は自分たちの応援歌に詰め込みたいとずっと思っているんです。例えば学校で1人ひとりのその先を見据えて「お前はこういういいとこがあるからがんばって伸ばしていけ」と言ってくれる先生ってあまりいないと思うんですよね。こういうことって音楽やドラマや映画やマンガで学んでいくものなんかな。マンガが一番いいと僕は思うんですけどね。登場人物と一緒に経験して「がんばるってこういうことなんだ」と学んでいけるというか。自分にはマンガの才能はなかったので、音楽やってます(笑)。
──確かに、それはサブカルチャーの存在意義の1つかもしれません。
Rover 特に僕は学生のときが一番つらかったんで、学生の方たちに言いたいことがいっぱいあるんです。何をすればいいかわからないというのが一番怖いと思うんですよね。自分が悩んでることにすら気付いていない。無明というか。そういう子たちに、「お前はこれで悩んでるんだ」と教えてあげたいんです。そうすればもっと未来は明るくなっていくのになと……それが僕が「オドリバ★ジャポニカ」で伝えたいことです。
MOCA いや、「オドリバ★ジャポニカ」では伝えてないやろ。「お招きしよう ダンスダンスピーポー」やで(笑)。「夢物語」の歌詞にある「トイレで泣いた」というフレーズが個人的すぎるかなと思って、最初は「隠れて泣いた」にしようか迷ったんです。でもレコーディングのときにHiDEXとRoverから「トイレのほうがええやろ。だって実際にトイレで泣いたんやろ?」と言われたことで、最終的に「トイレで泣いた」になりました。
Rover 「夢物語」は野球をやっている人だけのための曲じゃないから、「歌詞が野球に偏りすぎてるんじゃないの?」みたいな意見もあったんです。確かに偏ってはいるけど、どうせだったら、振り切ったほうがいいと思って。
──僕もこれで正解だと思います。さっきもチラッと言いましたが、この曲がストーリーとして強度があるのは「トイレで泣いた」のおかげなんじゃないかと。
Rover そうですね。そこが一番入ってくる。
MOCA ヒップホップが評価される理由のひとつは、その人が歩んできた人生をリリックでちゃんと伝えてるからやと思うんですよ。この曲の「高3で春夏、甲子園に出場 ベンチに入れずアルプスで応援」もどうでもいい描写だけど、「トイレで泣いた」からの「掴んだ17年越しの甲子園」で「もしかして俺もできるんかな?」みたいに思ってもらえたら最高です。規模は全然違うけど、僕らもWBCを観てめちゃめちゃ勇気をもらえたので、この曲でもそういうふうに人に勇気を与えられたらいいなと思いますね。
次のページ »
人は幸せになるために生まれてきたはずやのに