ベリーグッドマンの約2年ぶりのアルバムは「サンキュー」。シンプルかつ彼ららしいタイトルだ。
通算12枚目となるこのアルバム、「サンキュー」のリリースを記念して、音楽ナタリーは3人にインタビュー。メンバーが集大成であり「2周目の1年目の作品」と位置付ける本作について、新曲を中心に語ってもらった。
取材・文 / 高岡洋詞撮影 / 山崎玲士
全部報われた甲子園ワンマン
──やや旧聞に属する話ですが、最後にお会いしたのが甲子園ライブ(2023年11月18日)の直前だったので、ライブの感想からお伺いできますか?(参照:ベリーグッドマンが3万人と大合唱、Roverの涙で大団円を迎えた夢の甲子園ワンマン)
Rover 甲子園ライブから1年ちょっと経ちましたけど、当日のことは脳裏に焼き付いていて、よく覚えています。すごく寒かったのがまた記憶に残りやすかったというか。あんなに寒いライブは蒲郡のカウントダウンイベント以来、人生で2回目だったんで。でも、その寒さすらもパフォーマンスに落とし込めたと思います。過酷な状況下のベリーグッドマンを観てくれた方に「こいつら、まだまだいけるな」と思ってもらえたならうれしいですね。
MOCA 僕はひと言で言うと「むちゃくちゃ楽しかった!」。どちらかというとライブのたびに緊張してたタイプなんですけど、甲子園は不思議と純粋に楽しめました。5周年の大阪城ホール公演(2019年1月20日開催「ベリーグッドマン“てっぺんとるぞ 2019”~超好感男は大阪城へ~」)のときは1曲目で声が枯れたし、自分の中で「まだ早かった」と思ってしまった。だから、あれから5年で成長できた部分も多かったのかなと感じました。あとは、Roverがだいぶ甲子園に入れ込んでるのを見たので、逆に冷静になれましたね。「Rover、そっちは頼んだ。泣いてくれ」と思ってたら本当に泣いてましたから(笑)。
Rover 泣かんようにしようとは思ってたんですけど、お客さんや、ずっと一緒にやってきたスタッフさんの姿が目に入ったとき、我慢がきかなくなりましたね。
HiDEX ギリギリまで我慢しすぎたせいで、「ヒャァッ」って変な声で泣いてたな(笑)。
MOCA Roverはいつも冷静やけど、当日の朝に長文のLINEを送ってきたので、緊張してるのがわかって。
HiDEX 僕には送ってきてないですけどね。
MOCA ちゃうちゃう! 全員に送っててん。俺は「パキパキやな」って返したけど、ヒデだけ無視したという(笑)。
HiDEX ああ、あれか(笑)。中学校の吹奏楽コンクールのときも同じ感じやったんで、「また出た」と思ってました。
Rover ホンマあの頃と同じやな(笑)。だからここまで来れました。
──そこは3人いるからこそのバランスかもしれませんね。HiDEXさんは甲子園ライブいかがでしたか?
HiDEX 僕は緊張もなく、「とうとう来ちゃったね」ぐらいの感じで2人と一緒にセッティングして、舞台に上がって1曲目が始まったときに「あー、全部報われたな」と感じて、自然に笑みがこぼれました。そのまま最後までずっと、とにかく楽しかったです。「音楽をやってきてよかったな。もっとがんばりたいな」と思いました。
──僕は甲子園には行けませんでしたが、47都道府県ツアーの東京公演にお邪魔して、ライブこそがベリーグッドマンの本領なのがよくわかりました。
Rover ライブアーティストであるべきだなと思いますね、やっぱり。
HiDEX 本質だと思います。
──曲を作るときから、ライブでの聞こえ方、響き方をイメージしている感じといいますか。
Rover 一番重要なことは“持つ”ことなんです。ライブで歌ったときに僕らとお客さんのエネルギーやテンションが持続するかをめっちゃ意識しますね。そういう意味で「サンキュー」はライブを意識して作ったアルバムじゃないので、収録曲でセットリストを組むのは難しいんじゃないかな。1年以上前から作ってきた曲と、新曲は4曲だけですから。
──それは僕も聴きながら感じました。これまでのアルバムはそのままライブのセットリストになりそうな感じでしたけど、「サンキュー」は違うなと。
Rover 確かにシングルとして配信してきた曲が多いし、甲子園のために書いた「CLASSIC」を次のツアーでもやるのか?とか考えてしまうので。
「ありがとう」を何度言ってもいい
──アルバムタイトルの「サンキュー」にはどんな思いが込められているのでしょうか?
Rover タイトルを決める話し合いの最後のほうで、HiDEXが僕らの気持ちをまとめるように「『サンキュー』っていうのはどうかな?」と提案してくれて、そこで決まりました。まあ、ちょっと最終章っぽくない?という懸念はありましたけど(笑)。それでいいというか、僕らは「ありがとう」を何度言ってもいいキャラクターだと思うんで。
HiDEX なにせメジャーデビュー曲が「ありがとう~旅立ちの声~」ですからね(笑)。
MOCA 所属事務所の名前もARIGATO MUSICですし。全体像をまとめる中で「Thank You Mama」という曲を作ろうという構想もあって、これがアルバムを引っ張ってくれる曲になったらな、みたいな思いもありました。
──そういう意味では「Thank You Mama」はアルバムのタイトル曲みたいな感じですね。
HiDEX 僕らが一番歌いたかった曲なのかもしれないです。これだけは最初からテーマとしてMOCAが言ってたんで。
MOCA ベリーグッドマンが甲子園に行くまでが第1章だとしたら、甲子園から第2章が始まったんだとRoverと話していたんですよ。「おかん~yet~」と「Thank You Mama」、「1988」と「'88」、「大丈夫」と「花よりも花を咲かせる土になれ」のように、同じテーマでも「2周目に突入した今だったらもう1回歌えるかな」みたいな感覚がありました。
Rover 結成日からちょうど10年の甲子園で大きな夢を叶えて、リセットする気持ちで始めた去年の「GOOD GOOD GOOD」というツアーが、すごくよかったんです。チームの仲がよくなったし、お客さんと呼吸が合ってる感じもあったし、自分たちの魅力が伝わったとも思えたし。この感じをもう10年続けていきたいから、そのためにはどうしたらいいか考えるところがあって。
──うんうん、なるほど。
Rover 僕にとって「サンキュー」は、このタイミングでベリーグッドマンとしての集大成を出しておかないと次の新しいものが生まれない、と思って作ったアルバムなんです。だから3人で本当に苦労して作った曲がたくさん入ってて。無理をしてでもとにかく出し切ってみて、その次に出てくるアルバムやツアーがめっちゃ大事だぞっていう。限界突破みたいな感覚を味わわせてくれたアルバムかもしれないですね。だからもうネタがないんです、全然。
──2周目はまた白紙からのスタートだと。
Rover 2周目の1年生というか。惰性で流されて変な大人、変なミュージシャンになるのは嫌なんで、これから一生懸命やるしかないと思ってます。「花よりも花を咲かせる土になれ」でMOCAが作った「I don't wanna cry でも情けない どうしようもない そんな時はいつも 支えられた事思い出して」のヴァースなんかは、「ホンマそうやな、支えられてること忘れたらあかんな」と思って、歌いながら泣きそうになります。音楽で人を喜ばせることが僕らに与えられた使命なんだ、その大切な使命を生きていかないと、って。
──早くも次の作品が楽しみになります。
Rover 本当に苦労するのは次かもしれないですね。
クセ強めの3人
──「サンキュー」を聴いて、皆さんの歌声の個性がいつも以上に際立っている気がしたんですよ。
HiDEX それ、僕も思いました。録ってるときに「みんなクセ強めやな」って。
Rover 昔、山下達郎さんのインタビュー記事で「我々の時代はみんなクセを出していたから、今もめちゃめちゃ残ってる」みたいな発言を読んでから、「自分にはクセがない」と落ち込んだんですよ。確かにベテランの方たちって、みんな特徴があるじゃないですか。上田正樹さんも、長渕剛さんも、桑田佳祐さんも、井上陽水さんも、吉田拓郎さんも。中でも一番特徴が強いのはマイケル・ジャクソンなんですよ。先輩がレコーディング現場におったら「ふざけたらあかんで」って注意される系の(笑)。
MOCA 指パッチンやってるし、「チャッ」とか「ポゥ」とか言うてるしな。
Rover それが“いい”とされたのは、たぶん本人が本気でやってたからじゃないですか。だから今作ではより強く“クセ”を意識したかもしれないです。
MOCA Roverはそもそも特徴的な声ですけど、今回のレコーディングでは抑揚を意識してるなとは思いました。楽屋でも槇原敬之さんの曲をめっちゃ歌ってたりしたな。
──Roverさんが優しくて、MOCAさんが男っぽくて、HiDEXさんが少し悲しげで。三者三様の声の個性を引き立て合っているイメージです。
Rover 3人の声のバランスのよさに改めて気付いたところもあります。新人グループのメンバー同士の声がみんな似てくるという現象をよく目にするんですけど、僕らはホンマに似たことが一度もない。
HiDEX 1人ひとりの声が「この人やな」とわかる個性を持ってベリーグッドマンを結成できたのはありがたいと思ってます。しかも3人合わさったらまた違う声が生まれるのも奇跡的やなって。
ベリーグッドマンとおかん
──MOCAさんはご自身のボーカルについて、以前のインタビューで「一番おいしい音みたいなところからちょっと上がったり下がったりするだけで、基本は一緒」(参照:ベリーグッドマンRover&MOCAインタビュー)と謙遜されていましたが、「Thank You Mama」ではガッツリ歌っていますね。
MOCA これは「おかん~yet~」を歌ったときより大人になって、結婚して子供もできて、奥さんに対しても、改めておかんにも、今やったら感謝の気持ちを歌えそうだなと思って、「もう一発歌っとこ」という気持ちから始まった曲なんですよ。おかんが元気なうちにしっかり感謝の気持ちを伝えておきたい、みたいな気持ちもあったんで。制作していくうちに、何か新しい挑戦をしたいなと思って、3人が同じメロディを歌詞だけ変えて歌うという形を初めて試したんです。Roverが作ったメロディに乗っかって、歌詞はそれぞれ考えるという。もうホンマに嫌でしたね……うまく歌える自信がなくて。
HiDEX 自分で言い出したんやろ(笑)。
──自分の母親が死んだときに思ったんですが、常に思っていたとしても、身近な人への感謝ってなかなか言葉にできないですよね。だからこの曲をどんどんみんなに歌わせてあげてほしいです。
Rover ホンマやな。
HiDEX うちはおかんも僕もシャイだから、改まって「ありがとう」みたいなことは言えないですね。歌に助けられていると思います。
MOCA でも、HiDEXのお母さんが一番ライブに来てくれるんですよ。しかもチケット買って。
HiDEX ゲスト席を用意しても、「友達と一緒に観られへんから、自分で買うわ」って。
MOCA 大勢のお客さんの前でHiDEXが「Thank You Mama」を一生懸命歌って、それを客席でお母さんが聴いてくれたら何よりの親孝行だなと思いますね。
HiDEX それで言うと、甲子園ライブが僕の誕生日やったんで、最高の親孝行でした。
MOCA DVDを観返したら、HiDEXが10年間で一番でかい声で「ありがとーーーー!」って言うてるんですよね。それがめちゃくちゃオモロくて。
HiDEX なんでやねん(笑)。全っ然覚えてないわ。
MOCA 「こんなに声出んねや」と思って。
Rover 甲子園ライブのDVD観ながら副音声やりたいな(笑)。オモロいで、絶対。
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自分を出していかなあかんな