雨のパレード|枠を取り払い、自由に羽ばたいた第2の1stアルバム

価値基準がはっきりしている蔦谷好位置と福永浩平

──今作の中で、去年の時点でリリースされていた「Ahead Ahead」「Summer Time Magic」「Story」「Trust」、そして「BORDERLESS」を加えた5曲が、蔦谷さんとの共同プロデュース曲となりますけど、改めて皆さんの目から見て蔦谷さんはどんなプロデューサーですか?

福永 本当に素晴らしかったですね。人柄は優しいんだけど、音楽に対してすごくひたむきで。正直、最初僕らは身構えていたんですよ。自分らの意見を曲げたくなかったので。でも、蔦谷さんは僕らの意見を引き出してくれるし、一緒に作業をしていても、蔦谷さんが導き出す答えに、僕は勝手に自分と近いものを感じたりもしたし。僕は普段から洋楽の新譜ばかり聴いているんですけど、蔦谷さんもめちゃくちゃ音楽を漁っているし、「本当にセンスのいい方だな」と信頼して一緒に作業することができました。

大澤 「自分の中の価値基準がはっきりしている」という部分で、蔦谷さんと福永は似ているなと端から見ていて思いました。

──なるほど。

大澤 あと、今回は打ち込みの要素が多いアルバムになりましたけど、打ち込み要素と生ドラムをうまく融合させるという点で、蔦谷さんのバランス感覚は絶妙なんですよね。そこはすごく勉強になりました。やっぱり私はドラマーなので、「叩いていない曲を自分の音楽と言えるのかな?」という葛藤が最初はあったんですけど、蔦谷さんと一緒にやっていく中で、「それでも自分たちの音楽なんだ」と思えるようになって。そういう気持ちの変化も、今後の活動にとってためになる経験でしたね。

山﨑 僕も、今までは「いかにいい質感で録るか?」みたいな、プレイヤーとしての技術的な面にフォーカスしがちだったと思うんです。でも蔦谷さんと一緒に制作させていただくことで、今まで自分がやってきたフォーマットだけではない形で音楽にアプローチするようにもなったし、“いい曲を作る”“いい音楽を作る”という、ある種、原点的な部分を改めて再認識できたような気がします。

雨のパレード

自分たちをリブートする感覚で作った新曲群

──アルバムの流れとして、「BORDERLESS」で始まり、去年の段階でリリースされていた「Summer Time Magic」「Story」と続いていくアルバム序盤はとてもポップな曲が並んでいる印象がありますけど、徐々に深みに入っていくような構造になっていますよね。それと4曲目の「Walk on」は音楽的には1980年代感が強いなと思いました。

福永 そうですね。「Walk on」もそうですし、「Hallelujah!!」や「Material」もそうなんですけど、こういう自分たちだけで作った曲は、どこか自分たちが過去にやったことのリブートみたいな意識で作ったんです。3人になったことで、レコーディングの手法が、4人でスタジオに入ってセッションをして、そのままレコーディングをしてライブをするっていう形から、3人でDAWで作り込んでからレコーディングに入るという形に変わって。これまでは表現し切れずに思い描くだけだったものが、現実的にレコーディングの前段階で詰めることができるようになったんです。今まで、曲を聴き返して「もっと、あんな表現ができたらよかったのにな」と思っていたことを、今は現実的にできる状況にある。それならそれをやってみよう、と。

──なるほど。

福永 なので、例えば「Walk on」に関していうと、こういう80'sポップ的なサウンドはこれまでも表現してきたものではあるんですけど、そこに今の僕らのスキルで改めて挑戦してみた曲という感じなんです。

──「Walk on」の歌詞を聴くと、どこか「Tokyo」の続編のようなイメージを抱かせるなと思ったんです。ご自身としては、どんな思いで歌詞を書かれたんですか?

福永 最初のサビの「憧れたこの街に 理想の自分が待っていると思っていた 変えなきゃいけないものは暮らす場所じゃなくて 自分の方だったみたいだ」という歌詞は、前にほかのアーティストに楽曲提供したときに書いた歌詞だったんです。そのときは「Tokyo」みたいな曲を書いてほしいと言われていたので、“上京”をテーマに書いたんですけど、そのとき書いた言葉が、今になって自分に返ってきているような気がしたんですよね。

──返ってくるというのは?

福永 前作のアルバムまでは、自分たちの“正しさ”を感じながら作っていたと思うんですよ。でもそこから、それこそ蔦谷さんと一緒に制作させていただいたりして、ハッとさせられることが多かったんですよね。自分たちが正しいと思い込んでいたものに対して、気付かされることが多かったというか。当時書いた歌詞はどこか突っぱねたように書いていたんですけど、その言葉が今になって返ってくるというのは皮肉だなあと思って。それで、今の自分に当てはまるようなAメロやBメロの歌詞を書いて曲にした感じなんです。

──なるほど。皮肉的でもありつつ、今の福永さんがこの歌詞を歌うことはポジティブなことでもあるんですよね?

福永 うん、もちろん。曲も大好きだし、このサビに今の自分が書いたほかの部分の歌詞がつながることで、新しいカタルシスが生まれていると思うし。胸を張って歌える曲ですね。

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Dos Monosは異端