僕にとって生き方と死に方は同じ意味
──いくつかの楽曲について詳しく教えてください。アルバムの1曲目「君のベストライフ」は、ミュージックビデオの世界観や、シングルのジャケットに記された「LIVING DEAD LOGOS」という言葉が、「新言語秩序」からのつながりを強く感じさせます。この曲をアルバムの1曲目に置くことで、秋田さんは「ゴースト」という物語をどんな地点から始めようと思ったのでしょうか? また、繰り返し歌われる「君のベストライフ / 僕は大嫌い」というフレーズがあまりに印象的ですが、ここで歌われる「ベストライフ」とはどのような人生と言えますか?
「君のベストライフ」はアルバムの1曲目にすることを想定して作りました。「ゴースト」プロジェクトの始まりの曲になるので、雰囲気や状況の説明になるように。ベストライフとは常套句的な意味合いで、世間一般に言われる幸福や価値観を言っています。それらを一蹴する気持ちで書きました。初めはいつものようなインタールード、ポエトリーリーディングの曲にしようと思ったんですけど、言葉のリフレインが気持ちよかったのでもう1コーラスあとから追加しました。MVを作ることも想定してたのでもう少し長いほうが印象的かなという打算もありました。
──収録曲「小市民イーア」では「暗い時代には 明るい歌が流行するんだって / それは遠い星での話 音楽がそれじゃ耐え難い」と歌われています。秋田さんご自身は今をどのような時代だと感じ、その時代に対して、amazarashiの音楽はどのように響いていたいと思いますか?
日本に関して言えば未来はほとんど見えません。若い人ほどそうだと思います。現状を無視して成型された常套句だけじゃ満足できない人に届いたらいいなと思います。僕自身は昔憧れたロックスターに倣って自分が奮い立つ音楽をやりたいです。
──音楽的な面においては、「おんなじ髑髏」のようなアコースティックな質感が際立つ美しく穏やかな楽曲もあれば、「小市民イーア」のように疾走感のあるプリミティブなパンクサウンドもあり、さらに「夕日解放同盟」ではエレクトロニックでダンサブルなサウンドが響き……と、楽曲毎に多彩なサウンドを堪能できるアルバムだと感じました。「オリジナルアルバム」ではなく「コンセプトアルバム」だからこそ、普段のアルバム制作との考え方の違いもあったのではないかと推測しますが、今作の音楽的な面で考えられていたこと、新しく挑戦できたことなどはありますか?
「オリジナルアルバム」「コンセプトアルバム」の違いはまったく意識しませんでした。新しいamazarashiのアルバムという意識でした。確かに「ゴースト」というストーリーの枠組みの中で作ってはいるんですけど、ただ物語をなぞるだけでなく、物語のトピックをテーマとして違う視点で曲を作るようにしたので、アルバムを聴いただけではストーリーはわからないと思います。「ゴースト」という物語が終わってもamazarashiの楽曲として長く演奏できるような曲の集まりになっています。音楽的な挑戦は、やはり前作「永遠市」で1つの幕切れのような感覚があったからだと思います。アレンジしてくれる出羽(良彰)くんとはそういう話は一切しなかったんですけど、僕の作ったデモから意図を汲み取ってくれて、より新しい先鋭的な方向に作ってくれました。今回は僕のデモのフレーズが多く反映されてます。「夕日解放同盟」などはギターロック的に作ったんですけど、もっと実験的にしてくれとお願いしてこうなりました。
──アルバムの最後はタイトルトラック「ゴースト」で締めくくられます。「新言語秩序」では「独白」が物語の重要なラストトラックとして存在しましたが、この曲はライブ当日まで全貌が明らかになっていない楽曲でしたし、「新言語秩序」のストーリー自体、エンディングが複数用意されているような物語の作りになっていました。しかし、「ゴースト」はアルバムの締めくくりに明確に希望が描かれている、そんな感じがします。アルバム「ゴースト」の終わらせ方については、どのように考えていましたか?
1曲目の「君のベストライフ」の歌詞「分からないよ生き方 / だから決めた死に方」で始まって、この「ゴースト」で終わるというのは、アルバムを作り始めた時点でイメージしていた流れです。楽曲「ゴースト」はアルバムと横浜アリーナのライブのプロジェクトが動き始めた初期に作りました。初めにテーマをしっかり決めようと思ってこういう曲になりました。僕にとって生き方と死に方は同じ意味です。「ゴースト」はバースデイという歌詞で終わります。そのへんから意図を汲み取ってほしいなと思ってます。まだ詳しく書けません。
横浜アリーナ公演はたぶん皆さんが想像してるよりものすごい
──4月29日の横浜アリーナ公演「電脳演奏監視空間 ゴースト」がどのようなライブになるか、教えていただける範囲で、教えてください。
武道館の「新言語秩序」はすごいライブができたなっていう手応えはあったんですけど、反省点もあったのでそこは気を付けながら進めてます。1つはストーリー部分をもう少し楽しめるように意識しました。「新言語秩序」は自分の脳内の発露でしかなかったので、もう少しお客さんを意識したほうがよりライブを楽しんでもらえるだろうと思って、そこはプロの方にも助力をお願いしました。上で書いた“僕個人の力”の話とは別に、また記念碑的なものにしようとたくさんの人の力を借りてチーム総力戦で挑んでいます。たぶん皆さんが想像してるよりものすごいです。amazarashiのライブとしてすごいのではなくて、音楽ライブとしてすごいものになると思います。
──「新言語秩序」は初の武道館ワンマンでの試みでしたが、今回の「ゴースト」は初の横浜アリーナ公演での試みであり、大会場での初ワンマンで実験的なライブをするところにamazarashiの創造性の豊かさと、固定観念や慣れに対しての抗いを感じます。こうして挑戦的な活動を行っていくことの意味を、秋田さんはどんなふうに見出していますか?
やるとしんどいですけど、一度成功しちゃうとまだできるんじゃないか?って思っちゃうんですよね。たぶんこんな大がかりなライブはamazarashi最後になると思います。もうこれ以上はできないだろうなと思いながら日々準備を進めてます。人生の思い出を作る気持ちでやってます。15年やってきて思うのは、目の前に目標とか夢がないと途端につまらなくなってしまうということ。一生音楽をやりたいっていう漠然とした夢だけだとどうしてもエンストしてしまう。そういう意味では横浜アリーナは僕の夢なので、最後までやり切りたいと思ってます。
──ここまでの質問ではamazarashiの「新しくなった部分」についても伺いましたが、amazarashiの音楽の中にはやはり、常に一貫しているものがあるように個人的には感じます。それは言うなれば「自分の手で未来を獲得する力強さ」です。「ほかの誰でもなく、自分の人生を生きること」「自分の手で未来を切り開くこと」──そうしたことについてamazarashiは表現し続けているように感じます。どれだけ陰鬱な現実を描写したとしても、常に最後には「希望の音楽」であることに行き着く。端的に伺うと、それはなぜなのだと思いますか?
そうするしかなかったからだと思います。助けてくれる人はたまにいるけど、まず助けてって言わないと助けてもらえません。でも昔は助けてくれる人がいるなんて知りませんでした。今は知っています。だから助けてって言うべきだってことを、手を変え品を変え歌ってる気がします。要は自分に必要なものを作ってるだけで、それはこの先変わることもあると思います。自分が奮い立つもの、わくわくするもの、その中の1つに希望があるんだと思います。
公演情報
amazarashi「電脳演奏監視空間 ゴースト」
2025年4月29日(火・祝)神奈川県 横浜アリーナ
「電脳演奏監視空間 ゴースト」ライブプロジェクト専用アプリ
プロフィール
amazarashi(アマザラシ)
青森県むつ市在住の秋田ひろむを中心としたバンド。ステージとフロアの間に紗幕を張ったままタイポグラフィや映像を投影するというスタイルのライブを展開している。2009年12月に青森県内500枚限定の詩集付きミニアルバム「0.」を、翌2010年2月にその全国盤となる「0.6」をリリースした。その後2010年6月に「爆弾の作り方」をSony Music Associated Recordsから発表。2018年11月には初の東京・日本武道館公演「朗読演奏実験空間“新言語秩序”」を行い、観客の持つスマートフォンと連動したライブを展開した。2025年4月29日には「新言語秩序」の続編となるライブ「電脳演奏監視空間 ゴースト」を神奈川・横浜アリーナで開催予定。この公演に向けたコンセプトアルバム「ゴースト」を4月9日にリリースした。
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