amazarashi|令和二年、コロナ禍中に問う「秋田ひろむとポエトリー」

amazarashiが新作音源「令和二年、雨天決行」をリリースした。

3月のアルバム「ボイコット」リリース後、コロナ禍の影響により予定されていたツアーが延期になってしまったamazarashi。活動がままならない状況の中、6月には一昨年に開催された東京・日本武道館ライブの模様を「朗読演奏実験空間 新言語秩序ver.1.01」として無料配信し、ライブ映像の終了後に新曲「令和二年」の弾き語りバージョンを披露した。この「令和二年」を筆頭に、未曾有の事態に見舞われた1年への思いを落とし込んだ楽曲群からなる作品が、新作「令和二年、雨天決行」だ。

また本作のリリースに先がけ、12月12日にはamazarashiにとって初の配信ライブとなる「amazarashi Online Live 末法独唱 雨天決行」が開催された。これまでに生み出されてきた名曲と今年生まれた新たな楽曲の数々が、プロジェクションマッピングを駆使した演出と書き下ろしの新作ポエトリーで紡ぎ合わされ、amazarashiにしか生み出せない大きな感動を多くの人たちに与えることとなった。

新作のリリースを受けて、音楽ナタリーでは恒例となるamazarashiの秋田ひろむへのメールインタビューを実施。今回はamazarashiの表現において重要な意味を持つポエトリーリーディングにフォーカスしつつ、コロナ禍の過ごし方から新作に込めた思いまでたくさんの質問に回答してもらった。

取材・文 / もりひでゆき

ポエトリーとの出会い、歌モノ曲との線引き

──今回は“amazarashiとポエトリー”という企画を中心にお話を伺っていければと思います。まず、秋田さんがamazarashiとしてポエトリーリーディングという表現方法を用いることを決めたのはどうしてだったのでしょうか?

「amazarashi Online Live 末法独唱 雨天決行」の様子。(写真提供:ソニー・ミュージック・レーベルズ)

一番初めのきっかけは歌とメロディの必要性に疑問を持ったからです。ずっと音楽をやっていて、ギターを弾いて曲を作って、僕自身が歌ってということを当たり前にやっていたんですけど、感動するものを作りたいというゴールだけを考えると、歌じゃなくて詩を朗読するだけでもいいんじゃないかと思いました。当時、自分の歌に自信がなかったというのもあったと思います。

──ポエトリーという手法に関して、影響を受けたアーティストや楽曲などがあれば教えてください。

アマチュア時代に青森でよく対バンしてたコスモスという先輩バンドがポエトリーリーディングの曲をやっていて、たぶんそれが最初のポエトリーリーディングとの出会い。カッコよくて衝撃を受けて真似するようになりました。その頃は伴奏に合わせて宮沢賢治の詩を朗読するということをやってました。そのあとヒップホップを聴くようになって、THA BLUE HERBや降神やShing02とかを聴いて、独学の朗読からビートに合わせてラップする形に近付いていった気がします。

──歌モノ曲とポエトリー曲では歌詞の書き方には違いがあって当然かと思いますが、秋田さんの中で明確な意識を持ったうえでの書き分けの定義があれば教えてください。

ポエトリーは完全に詩先で曲を完成させられるというのが一番の強みだと思います。もちろん音楽に合わせて言葉を調整することはしますが、詩が詩のまま伝えられるというのが一番の違いだと思います。

──「この曲はポエトリーにしよう」と判断するのにもっとも大きな要因はなんですか?

ポエトリーリーディング曲を作りたいな、と思って作ることがほとんどですね。この詩にどんな音を付けようかな、から始まります。

──ポエトリー曲にするにふさわしい、もしくは秋田さんがポエトリーという手法を選ぶのにふさわしい歌詞としてのテーマはありますか?

テーマというよりは、方法として選んでる気がします。どうしても詩が長尺になりがちな比喩をしたいとか、ストーリーテリングとか、ポエトリーリーディングのほうが都合がいいので、そういうときにポエトリーを選んでると思います。

──デビュー当初と比べ、ポエトリー曲に対しての思いの変化、強まったこだわりなどがあれば教えてください。

秋田ひろむ(写真提供:ソニー・ミュージック・レーベルズ)

最近は説明しすぎないように気を付けてます。詩が詩のままであるような。ライブで曲間にやるポエトリーリーディングは逆に説明しすぎるくらいがちょうどいいかなと思います。MCと詩の中間みたいな、その場で聞いてお客さんが理解して、意識を共有できるものがいいと思います。昔は思いを詰め込んでただけだったんですが、ちょっとコントロールすることを覚えました。

──ポエトリーを乗せるサウンドにはどんなこだわりがありますか?

詩と声が主役であることです。それは歌も同じですが、ポエトリーリーディングのほうがよりそうだと思います。

──ポエトリー曲のレコーディングには、歌モノ曲と違う気持ちの持っていき方があるように思います。ポエトリー曲のレコーディングで強く意識すること、大事にすること、そして難しさがあれば教えてください。

歌より正解の選択肢が多いというところが難しいところかもしれません。とりあえずたくさんテイクを録って、その中からこれが正解かなってものを探す作業です。あと感情のピークが来る部分を決めて、そこにどう向かうかということを考えます。

──amazarashiのポエトリー曲は、通常の歌モノ曲以上に物語性を強く感じさせ、聴き手に鮮やかな情景を想起させてくれます。リスナーからの反応を踏まえたうえで、ポエトリー曲と歌モノ曲の届き方の違いに関してはどう感じていますか?

言葉数が多いポエトリーリーディング曲は、単純に入り込みやすいんですよ。自分の想定以上の速度で言葉が頭に入ってきて、目まぐるしく情景が変わっていってぼーっとしてくる感じ、ラップとかまさにそうですけど、そういう作用は意識してやってます。歌でそれをやるのは難しいですね。

──これまで手がけてきたポエトリー曲の中で、ご自身に何かのきっかけを与えてくれた楽曲、そしてその仕上がりに強い手応えを感じた楽曲があれば、その理由とともに教えてください。

「冷凍睡眠」ですかね。多分初めての長尺のポエトリーリーディング曲で、ギターを掻き鳴らしてポエトリーリーディングするというスタイルをやって、amazarashiとしての新しい可能性を見つけた気がしました。それまでは曲間のインタルード的な側面が大きかったので、ポエトリーが楽曲として主役になり得るというのを感じました。

──ライブにおけるポエトリー曲の役割はどう考えていますか?

長尺のものは普通の楽曲を歌うのと気持ちは変わらないです。それ以外はライブ自体の流れを説明するストーリーテリングだったり、今現在の自分の気持ちを伝える手段っていう役割です。

「amazarashi Online Live 末法独唱 雨天決行」の様子。(写真提供:ソニー・ミュージック・レーベルズ)

奥底の気持ちを自分だけが知ってる言葉で書く

──今回リリースされる音源の初回限定盤には、過去のライブ映像を新たなポエトリーで紡いでいくDVDが同梱されます。12月12日に開催された初のオンラインライブ「amazarashi Online Live 末法独唱 雨天決行」でも書き下ろしのポエトリーが披露されていました。そこからは、ライブ全体を1つの作品としてまとめあげるような、amazarashiならではのポエトリーの使い方が見えてくるような気がします。そのあたりに関してはどう考えていますか?

ただ楽曲を並べた中に、詩を挟むことで1つの大きな物語、作品にするっていうのは僕らがよくやる手法です。過去の曲も、リスナーそれぞれ思い入れある曲も、一旦今現在の僕に引き寄せる感じですかね。今の僕がこういう気持ちで歌ってるんだよ、っていうふうに誘導するために詩を配置してます。

──ポエトリー曲に関して、ライブという空間だからこそ加味される表現、表情はありますか?

「amazarashi Online Live 末法独唱 雨天決行」の様子。(写真提供:ソニー・ミュージック・レーベルズ)

レコーディングとはだいぶ違いますね。そのときの状況に大きく左右されます。でもその感情がそのまま届くのがポエトリーのいいところだと思います。

──amazarashiの楽曲は何よりも言葉の強さが圧倒的な魅力だと感じています。秋田さんにとって言葉を紡ぐことにはどんな意味がありますか? またチョイスするワードの選び方にはどんなこだわり、ルールがありますか?

あまりこだわりはなくなってきた気がします。聴く人を裏切ろうとか昔は考えてましたけど、それよりも自分の奥底の気持ちを自分だけが知ってる言葉で書くっていうほうが最近は楽しいです。伝えることよりも、そのまま形にすることのほうが目的になってきました。

──ポエトリー曲に関して、今後何か挑戦してみたいスタイルはありますか? また、ご自身の中での目標とするポエトリーの形があれば教えてください。

自分のスタイルができあがりつつあるので、そこからどうやってはみ出していくかが次のテーマになると思います。もうちょっと自由に、定型から外れたいなと考えてます。