amazarashi「七号線ロストボーイズ」インタビュー|「なぜ現在の自分になったのか?」秋田ひろむが人生を問うたアルバム完成

amazarashiのニューアルバム「七号線ロストボーイズ」がリリースされた。

コロナ禍を含めた世相を強く意識した「ボイコット」から約2年ぶりのアルバムとなる本作は、秋田ひろむが人生のルーツと改めて向き合い、自らのパーソナリティやアイデンティティを深く見つめ直す意図を持って編んだ作品となった。テレビアニメ「86 -エイティシックス-」オープニングテーマとして書き下ろされた「境界線」や、魚豊の人気マンガ「チ。」とのコラボミュージックビデオが話題を呼んでいる「1.0」、アルバムに先がけて先行配信された「空白の車窓から」など、amazarashi≒秋田ひろむの現在のリアルを刻み込んだ全11曲が収録されている。

音楽ナタリーでは恒例となる秋田へのメールインタビューを実施。収録曲が生まれた背景にある思いを自身の言葉で丁寧に語ってもらった。

取材 / もりひでゆき

amazarashi「七号線ロストボーイズ」収録曲

  1. 感情道路七号線
  2. 火種
  3. 境界線
  4. ロストボーイズ
  5. 間抜けなニムロド
  6. かつて焼け落ちた町
  7. アダプテッド
  8. 戸山団地のレインボー
  9. アオモリオルタナティブ
  10. 1.0
  11. 空白の車窓から
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「人の命や尊厳を奪おうとするものに怒ってる」

──前作「ボイコット」からの約2年は新型コロナウイルスとともにあった時間と言えると思います。2020年12月にEP「令和二年、雨天決行」リリース時のインタビューでは、「コロナ禍を意識して歌を書き下ろし」、「こういう状況でなければ生まれなかった曲たち」が収められているとおっしゃっていました(参照:amazarashi「令和二年、雨天決行」インタビュー)。そこからまた少し時間が経ち、コロナに関しては若干の希望が見え始めているようにも感じますが、秋田さんのお気持ち、状況の受け取り方に何か変化はありましたか?

基本部屋から出ない生活なんで、コロナに対する世間的な雰囲気はわからないんですけど、去年「ボイコット」ツアーをやれたことで不安になることはなくなりました。オンラインライブとかもやれたので、最悪なんとかなるか、みたいな担保ができたのも大きいです。やっぱり延期や中止になると、作り上げたものがゼロになってしまうのでダメージはでかいですが、そのあとやり遂げたことで達成感も大きかったので、それはそれでいいかっていう折り合いを付けられました。

──不安定な状況下において、音楽家としてどんなことができるのか、そしてどんなことをするべきだと考えていますか?

どうでしょう。誰かを救おうとか考えて音楽をやってないのでわかりません。どんな状況でも音楽を作り続けてれば、プレイし続けてればいいんじゃないかと思います。

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──秋田さんは、さまざまな憂いや迷い、葛藤、悲しみといった感情を楽曲に落とし込まれています。それは個人レベルのものから、ときにはもっと大きな視点で描かれるものもあると思います。例えば災害や戦争などセンシティブなモチーフを表現に落とし込むにはさまざまな配慮も必要になるはずです。世の中の状況から受けた影響を曲にする際の、秋田さんなりのルールがあれば教えていただきたいです。

基本ヒューマニズムというか、人の命や尊厳を奪おうとするものに怒ってるので、そこからの視点であることは絶対だと思ってます。昔よりそういう歌を歌うのが難しい時代になった気もしますけど、いち市民としての意見や感情は吐き出していいものだと思います。

新作では自分の人生に立ち返った

──新作「七号線ロストボーイズ」の制作において、日本を含めた世界の動きが影響を与えたところはありましたか?

むしろそういうものから離れたいっていう気持ちが大きかったです。「ボイコット」や「令和二年、雨天決行」は世相に大きく影響されたものでもあったので、いったん自分の人生に立ち返ろうという気持ちで完成させました。

──本作のリリース情報が発表された際、「行く先も分からない空白の未来へ向かう為に、まず自分が何者かを知る必要があった」というコメントを出されていました。その思いに至る過程にはどんな出来事、どんな感情があったのでしょうか?

音楽を仕事にできてありがたいんですけど、なんでこんな状況になったんだっけ?って我に返ることがよくあります。音楽を始めたときのこととかデビューしたときのこととか、武道館やったときのこととか、そういう因果になった出来事はよく覚えてるんですけど、それらの点を線で結ぶ、みたいなことをしたかったんです。

──本作に注いだ思いや全体像を鮮明にする起点となったのはどの楽曲になりますか? その曲が生まれた経緯、エピソードも合わせて聞かせてください。

「アオモリオルタナティブ」ができたことで今回のアルバムの方向性が決まりました。すでに数曲あって、アルバムができそうだけどタイトルとかテーマをどうしようかなという時期でした。何となく地元についてのアルバムを作りたいなと思ってたんですけど、これができたことでよりはっきりとイメージができあがりました。コロナで暇だった一昨年から去年の始めくらいに、昔、長く住んでたむつ市によく遊びに行ってました。ひさびさの友達と話したのが、この曲ができるきっかけでした。

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──「生きる為に叫べアイデンティティ」というラインを含んだ「感情道路七号線」で幕を開けるこのアルバム。続く「火種」では、「救うんじゃなく 戻すんだ 僕が」という意志を示したあと、「世界で一つ 君だけにしか変えられないもの それは君の生き方」という力強いメッセージが放たれます。簡単なきっかけで「善良」と「粗暴」の境界を越えてしまう今の時代性を強く投影した「境界線」では、「次こそ選ぶんだ 僕が許せる僕を 今日を」というラインが胸を打ちます。アルバムのテーマを特に色濃く感じさせてくれる3曲は、ストレートな言葉選びをされている印象を受けました。サウンドやボーカルも含め、アルバムのオープニングを飾る楽曲群に込めた思いを聞かせてください。

アルバムの始まりは勢いがあるほうがいいなと思ってこういう曲順になりました。「境界線」は最初から入れると決めてたので、それとは別パターンのアッパーな曲をと思い「火種」を作りました。過去のきっかけ、火種で今現在こうなってるんだよっていう曲です。「感情道路七号線」はほかの曲がすべてできあがってから、最後に作りました。このアルバムのイントロを意識して、テーマも伝わるように、かつ攻撃力があるようなイメージで制作しました。サウンド的にはこのアルバム全体を通して、ロックバンド的なアプローチが強めだと思います。原点回帰というほどでもないですが、ライブでバンドで演奏してるのが一番楽しいので、そういう心境が表れているのかなと思います。