amazarashi|人間関係、狭量な社会に募るフラストレーション……人が人らしく生きるための“拒絶”

amazarashiが3月11日にニューアルバム「ボイコット」をリリースした。

amazarashiにとって約2年3カ月ぶりのオリジナルアルバムとなる本作には、テレビアニメ「どろろ」のエンディングテーマ「さよならごっこ」や、阿部共実のマンガ「月曜日の友達」とのコラボ楽曲「月曜日」、横浜流星をはじめとする人気俳優がMVに出演した「未来になれなかったあの夜に」などの話題作を含む全14曲を収録。秋田ひろむ曰く、“拒絶”をテーマに全体像を構築したのだそうだ。

音楽ナタリーでは今回も秋田へのメールインタビューを実施。前作「地方都市のメメント・モリ」の発売から現在までに起きた出来事をあらためて振り返ってもらうと共に、新作の楽曲に込めた思い、そして4月から予定されている初のホールツアーへの意気込みを聞いた。

取材・文 / もりひでゆき

2本のツアー、初めての武道館

──2017年12月リリースの4thアルバム「地方都市のメメント・モリ」から約2年3カ月が経ちました。その間もamazarashiは精力的に活動し、革新的な驚きをリスナーに与えてくれました。改めてその期間を振り返って、どんなことを感じますか?

ツアーを2本やったので大変だった記憶もありますが、合間でゆっくり曲作りの時間を取ったり、ちょこちょこ休んだりできたので、余裕を持って活動してたなっていう印象です。でも振り返って考えると、吐き出すことにすごく集中してたと思います。ライブで歌うことも曲作りも、アウトプットにおいてランナーズハイみたいな感じでした。それはすごく楽しかったです。

──2018年11月にはシングル「リビングデッド」をリリースし、その作品が重要な意味を持つ実験的なライブ「朗読演奏実験空間 新言語秩序」が開催されました(参照:amazarashi、日本武道館公演で繰り広げた圧巻の“朗読演奏実験空間”)。初めて東京・日本武道館のステージに立ったこと、そしてamazarashiが一貫してこだわってきた“言葉”にフォーカスして表現 / メッセージしたライブを成功させたことはバンドに何をもたらしましたか? またそれによって何か未来に向けたビジョンが見えたところはありました?

武道館では想像以上のものができましたね。やればできるんだなって感じです。もちろんたくさんの人たちの力があってこその表現だったんですけど、今まで一緒にやってきた人たちや「この人すごい」と思って協力をお願いしてた人たちもamazarashiの歴史の1つで、僕らの歴史や出会いや気持ちがベストなタイミングで結実したんだと思います。やってるときは必死でしたが、冷静になって振り返るとそう思います。未来に向けてのビジョンはあまりないです。単に規模が大きくなり続けるだけ、っていうのは避けたいというか危機感を持ってます。新しいことをやりたい欲はあります。

amazarashi(Photo by Victor Nomoto)

──CDデビュー10周年を迎えた2019年にはシングル「さよならごっこ」のリリースに加え、全国ツアー「未来になれなかった全ての夜に」の開催がありました。同年11月にはライブですでに披露されていた「未来になれなかったあの夜に」が配信リリースされ、ご自身の過去の話を題材にしたというミュージックビデオが人気俳優も出演する形で制作されました。その一連の流れを拝見すると、10年という節目を意識し、“過去”に1つの決着を付けた、もしくは決着を付けようとしたのではないかと勝手に推測したのですが、その真意はどうだったのでしょうか?

「未来になれなかったあの夜に」はツアーのために作った曲です。リリースがないツアーだったので、何かしらテーマが必要かなと思って作りました。武道館はコンセプチュアルなライブだったので、「そのときできなかった僕らはここまで来たぞ」的な、集大成的なツアーを意識しました。それでああいう曲になりました。僕の過去に対しての決着とかはもうほとんどなくて、どちらかというとリスナーに対しての義理を通すみたいな感覚です。僕が勝手に思っただけなんですけど、このタイミングで言わなきゃいけないことを歌にしておこうと思いました。

テーマは“拒絶”

──そして今回、メジャーデビュー10周年を目前にしたタイミングでニューアルバム「ボイコット」がリスナーに届きます。聴かせていただいたところ、前述の“節目”というワードがより鮮やかに感じ取れたところもあったのですが、本作を編むにあたってはどんなことを思い描いていましたか? アルバム自体に何かテーマを設けたところはあったのでしょうか?

テーマは“拒絶”です。普段生きていて、なんか曖昧に受諾したことにされてることが多いなと思っていて。例えば人間関係や社会の風潮、生活に必須な契約なんかにフラストレーションがあったというか、作ってた曲がそういうフラストレーションをはらんだものが多かったので、そこからテーマを拒絶ということにして、肉付けして作ったって感じです。今回のアルバムは。

amazarashi(Photo by Victor Nomoto)

──アルバムタイトルにはどんな意味を込めましたか? 2020年に出されることを考えるとどこかシニカルに響き、ニヤリとさせられたりもしたのですが。

自分たちを苦しめるものを拒絶する、NOと表明する、という意図と、それを不特定多数の人間に呼びかけるという意図があります。あなたたちも拒絶したら?と。社会に対しての皮肉はもちろんありますけど、それが中心ではありません。人それぞれがそれぞれらしく生きるための拒絶で「ボイコット」です。

──1曲目「拒否オロジー」は、「未来になれなかったあの夜に」に登場する「色々あったな」のフレーズを引き継いだポエトリーリーディングナンバーです。昨年のツアーからの流れがこのアルバムに収束していくことを予感させるオープニングですが、この曲に込めた思いを教えてください。

所信表明みたいな曲です。amazarashiの曲、詞は全部地続きなので、前回のツアーでのメッセージも踏まえて書きました。アルバムで最後に作った曲です。これを作ったことで今回のアルバムのテーマが明確になったと思います。

──「とどめを刺して」は、自我を押し殺すことの罪と、自我を開放することの危うさをあたかもロードムービー的に描き切った傑作だと思います。悲しい結末が示唆されながらも、聴き手の心を突き動かす秋田さんのボーカルがこの曲の大きな救いになっているような気もしました。歌詞、サウンド、歌……制作にあたってはどんなこだわりを注ぎましたか?

世間体の中に自分を押し込めるために自分を押し殺すことってよくあると思うんですよ。僕はそういうものにさんざん苦しんできた人間なので、そういう息苦しさから逃れたいっていう願望からできた曲です。全部から逃げたい壊したい衝動って危ういんですけど、危ういのって気持ちいいんですよね。そういうところを狙いました。サウンドは疾走感あるけど危うい感じにできたと思います。

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青森の人間なんだ