Aimer「escalate」インタビュー|人間の本質を突くアニメ「NieR:Automata Ver1.1a」オープニングテーマはいかにして生まれたのか

Aimerが21作目のシングル「escalate」をリリースした。

本作にはアニメ「NieR:Automata Ver1.1a」のオープニングテーマとして書き下ろされた表題曲のほか、NieR:Automata meets amazarashi コラボレーションソング「命にふさわしい」のカバー、JRAブランドCMソングに使用された「crossovers」が収録されている。

音楽ナタリーではシングルのリリースに合わせてAimerにインタビュー。デビュー10周年イヤーだった2022年の振り返りや、楽曲に込めた思い、そして自身にとっての歌の意味についてたっぷり語ってもらった。また特集の後半には「escalate」のレビューも掲載する。

取材・文 / 廿楽玲子

ジェットコースターのような2022年で見つけたもの

──まず2022年を振り返りたいと思うのですが、Aimerさんにとってどんな1年でしたか?

もうずっとジェットコースターに乗ってるような1年でした。2年ぶりに全国ツアーをして、本数も自分としては過去一番多くて。そのあと東京と大阪でアリーナライブ、さらにサウジアラビアでひさしぶりの海外ライブもして、ずっとステージで歌ってるような感覚でした。

──体調管理も大変ですよね。

そうですね、とにかく健康でいなければならないですし。あとやっぱり心と体はつながっていて、そのバランスについて考えた1年でした。曲を聴いてくださるファンの方も忙しい毎日を過ごしていて、自分のように心身のバランスを取ることの難しさを感じてる人がいっぱいいるんだろうなと改めて考えたりもしました。

──年末には「NHK紅白歌合戦」へ初出場されました。

広い世代にずっと親しまれている、歴史のある番組のステージに立てることが光栄でした。一生懸命活動してきた結果としてそういうところに呼んでいただけたことがすごくうれしかったです。

──紅白のステージは楽しめましたか?

自分が思っていたよりもずっと楽しいステージでした。やっぱりテレビの現場はライブとは全然違うんですよね。私、デビューしてからあまりテレビに出てないんです。前回出させていただいたのがデビュー5周年のときで、今回10周年のタイミングでこういう機会をいただいて。経験が少ない分、ほかのアーティストの方のパフォーマンスを観て、テレビ画面に向けてこんな見せ方があるんだなって勉強になりました。

──デビュー時のAimerさんはどこかミステリアスな存在でしたが、当時と今で何か変化を感じることはありますか?

どうだろう……性格とか思考はあんまり変わってない気がします。ファンの方がデビュー当時よりももっと大事になり、歌を届けたい人が明確になってきたことで、コミュニケーション全般における考え方がだんだん柔軟になってきたところはあると思うんですけど、音楽に対する向き合い方は根本的に変わってないと思います。

──先日「残響散歌」がストリーミング再生回数3億回を突破したというニュースがあり、これはものすごいことだなと思ったんですが、そういう世間の大きな反響にペースを崩されるようなこともないですか?

そうですね、3億回というのは確かに途方もない数字で、自分にとってもあんまりリアリティが感じられないところもあるんですが……。たくさんの方に聴いていただくうれしい機会があったということ、それは自分の力では全然なくて、関わってくださる方の力が本当に大きいんですよ。10年かけて自分なりにいろんな音楽を作ってきて、これからも変わらずやっていこうと、ある意味冷静な気持ちです。

無駄こそが人間の人間たる部分

──多忙な2022年を経て、2023年初のシングル「escalate」がリリースされました。表題曲はアニメ「NieR:Automata Ver1.1a」のオープニングテーマとして書き下ろされた楽曲ですが、どんなことを考えながら制作されたのでしょうか?

この曲を作るとき、「NieR:Automata」という作品を通して「人間ってなんだろう」というテーマが膨らんできたんです。「NieR:Automata」に出てくる機械生命体やアンドロイドを“機械”という言葉でくくるとしたら、これは機械たちの戦いの物語ではありますが、いざというとき、彼らも人間らしいほうに針が振れる。私はそこにすごく心が動いたので、人間らしい曲にしたいと思いました。その人間らしさの象徴が、無駄な感情を抱くところだと思って。例えば「こんなにつらい思いをするなら好きにならなきゃよかった」とか「ここまで苦しくなるなら夢を見なければよかった」とか、人間が持つそういう感情ってある意味全部、無駄とも言えるじゃないですか。すごく非合理的で、持たなければ楽なのに、持たざるを得ない感情を抱いてしまう。そこが人間の人間たる部分であり、それを曲にしようと思いました。

──生きている限り負の感情はなくならないですよね。究極的に言えば死の恐怖とか、それはもう絶対になくならない。もちろん希望を持つことも大事ですけど、この歌は負の感情をないものとしない。そこに私はグッときました。

そうなんですよね。命自体がとても非合理な存在だなとも思います。「NieR:Automata」の印象的なモノローグで「全ての存在は滅びるようにデザインされている」というフレーズがあるんですけど、言ってしまえば、いつか死ぬのに生きている、それ自体が無駄なことなのかもしれない。でも、私はそれを肯定したいと思いました。一刀両断したら無駄になっちゃうところが人間にはたくさんあるけど、そういう無駄なものをエスカレートさせるときがあってもいいんじゃないかと。「この曲を聴いているときはエスカレートさせていいんだよ」って言えたらいいなと思いながら作りました。

──そのエスカレートしてるときって、すごく生きてる実感があると思うんですよね。

そうですね。自分も本当に無駄なことばっかりやってるので、それは普段生きていて感じます。誤解を恐れずに言えば、音楽だって無駄なものですし。だけど、そういうものが人間らしさだと思うし、無駄なものからいろんな芸術が生まれたりもするので。

──その芸術に救われて生きている人が、私も含めてたくさんいると思います。生きてるんだから、生きなきゃいけないんですよね。

そう。生きなきゃいけないから、葛藤が生まれる。全部近道をして合理的に生きていったら、一瞬一瞬をあんまり楽しめないと思うんです。遠回りして、無駄なものを見つけて、その1つひとつを楽しんで、無駄なガラクタみたいなものが自分になっている。だからこそ、ときどき自分のことを許せなかったり、否定しちゃうこともあるけど、そんな自分を受け入れることが大事で。今回の歌詞で言うと“赦せなくて”、“染まれなくて”も、それでいい。そういったことを聴く人も感じてくれたらいいな、と思います。

どこか違う場所へエスケープできるものになれたら

──「escalate」のミュージックビデオではガラクタのような登場人物たちが、何か使命を持って突き進んでいくストーリーが描かれていますね。

「残響散歌」のMVでもお世話になった荒船泰廣監督にオリジナルストーリーのアニメーションを作っていただきました。本当に美しくて緻密な映像になっています。

──この映像の中で歌っているAimerさんは救世主なのか破壊神なのかわからない存在に見えますし、ラストも希望か絶望か、明確な答えはない。楽曲も映像も「さあどうぞ、結論はあなたが出してください」と手渡される感じがあるなと。

私たちが今生きている世界はちょっと混頓としているというか……「NieR:Automata」の世界とは違うけど、戦っている機械たちを見ていたら、今の時代と通じるところもあるなと思ったんです。そして私は、音楽というのは今いる場所じゃないところにも行けるものだと思うので、この曲もどこか違う場所へエスケープできるものにできたらと思っています。

──この曲に限らずですが、Aimerさんの歌は壮大なテーマ、それこそ人間とは何かといった本質的な問題に触れる楽曲が多いですよね。

もちろん楽曲によって、「カタオモイ」のように“私”と“あなた”だけの小さな世界を歌うこともあるんですけど。デビューの頃から星や空をテーマに歌ってきたんです。偶然か必然か、ありがたいことにそういった曲が合う作品のタイアップを多くいただく中で、より広い空間が見えるような世界を歌うようになって。そういうお話がつながって今があるように思います。

──それは自然とそうなったのか、それとも意識してのことなんでしょうか。

それはもう自然とです。

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瞑想と歌の共通点