ナタリー PowerPush - amazarashi

秋田ひろむから「あんたへ」

前作「ねぇママ あなたの言うとおり」から約7カ月で届けられるamazarashiのニューアルバム「あんたへ」。「まえがき」から始まり「あとがき」で幕を閉じる、まるで小説のような体裁をとった本作は、“伝える”という思いを強く意識して編まれたものだという。

amazarashiの楽曲は多くの人にとって“メッセージソング”として響いているわけだが、そのことに対して秋田ひろむ自身は意外にも違和感を感じていたそうだ。しかし、5年ほど前に生まれたという本作収録の「あんたへ」を改めて聴くことで、自らが生み出してきた楽曲すべてが自らに向けた能動的な“メッセージソング”であったことを自覚したのだという。だからこそ彼は今、「自分自身に向けて曲を書くことは以前と変わらない」と前置きした上で、聴き手の顔を強く意識した“メッセージソング”を世に放つことを決意したのだ。それはつまり、amazarashiというバンドがより広く、より深く、これまで以上にシーンへ浸透するための大きな武器を手に入れたことにほかならないのではないだろうか。

そんな今の秋田ひろむの思いに迫るべく、ひさしぶりとなるメールインタビューを実施。さまざまな質問に対して、いつものように真摯に回答してくれた。

取材・文 / もりひでゆき

僕に音楽作家の才能は無い

──まずはちょっと時間をさかのぼって、今年4月発売のアルバム「ねぇママ あなたの言うとおり」について。その制作~リリース~ツアーは秋田さんにとってどんな時間になりましたか? 新たに芽生えた感情や視点があれば教えてください。

amazarashi「あんたへ」PVのワンシーン。

制作に関してはいつもそうなんですが、割と淡々と作ってた感じでした。「ねえママ~」のツアーはとても印象に残ってます。上手くいった事も凄い失敗したなーっていう事も両方あって、それをライブメンバー皆で話し合って解決して、最終的には僕らが思い描いていたライブが出来たので、達成感というか、成長できた手応えがありました。信頼関係も築けたと思いますし、あれ以降ライブに対しての心持ちも変わったと思います。楽しめる様になったというか。

──その後はamazarashiとして初となるさまざまなトピックがありました。1つ目は中島美嘉さんへの楽曲提供です。彼女からオファーを受けたときの気持ち、amazarashiにとって大切な曲であるという「僕が死のうと思ったのは」を提供した理由を教えてください。

中島さん側から楽曲提供の話を頂いた時に、「僕が死のうと思ったのは」が絶対合うと思ったんです。でも、歌ってもらえるかは分からなかったので、他にも何曲か作ったりしてて、結果的に歌ってくれて完成品を聴いた時に間違いなかったと思いました。

──初めての楽曲提供によってもたらされたものは何かありましたか?

僕に音楽作家の才能は無いと気付きました。今回はたまたまいい曲があったので良かったですが。それはそれで自分を知れたのでいい体験でした。

──さらに夏には初のフェス出演があり(「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2013 in EZO」)、9月30日には東京・LIQUIDROOM ebisuでTK from 凛として時雨との初の対バンライブがありました。ほかのバンドとの交流が生まれたであろう、この2つの経験はいかがでしたか? 今後も積極的にフェス出演や対バンをやっていくお気持ちはありますか?

とても刺激になりました。対バンもフェスも、あまり機会がなかったので色々吸収できるチャンスだと思ってライブに挑みました。実際身になった事は多かったです。また機会があればやりたいです。

──前作からのさまざまな経験は、amazarashiの活動がどんどんと外に向かっていることの証明のような気がします。そのあたりの真意は?

amazarashiを知ってもらう為に出来る事は出来るだけやりたいと考えてます。せっかく心を込めて作った作品なんだから沢山の人に聴いて貰いたいです。そういう気持ちは以前からあったんですが、色んな積み重ねもあって、今になって出来る事が増えてきたんだと思います。

──そういった新たな経験は、楽曲制作に何か影響をおよぼすものなのでしょうか?

曲作りに関しては影響を受けない方が大事かなと思ってます。今は。

「あんたへ」で全体像が見えた

──前作から約7カ月でリリースされる今回のアルバム「あんたへ」。制作をスタートさせた時期と、そのときの感情を教えてください。

前作が完成してすぐに次の作品は考えてました。全くなんのイメージも無かったんですけど、完成してるけどまだリリースしてない曲がいくつかあったので、それは入れたいなと考えてました。「終わりで始まり」や「ドブネズミ」とかです。ライブ終演後に流したりして、リスナーは知ってる曲だったんで。

──本作に対して最初に思い描いていた全体像はどんなものでしたか? その通りに作り上げることができましたか?

amazarashi「あんたへ」PVのワンシーン。

「あんたへ」を入れようと決めた時に全体像が見えた気がします。「あんたへ」を中心になんか人に伝わるような、そんな作品になればいいと思ってました。それに関しては想像以上に上手くいったと思います。

──本作は「まえがき」で始まり「あとがき」で終わる、まるで小説のような構成になっています。さらに初回限定盤には文庫本型ブックレットも封入されます。なぜそういったアイデアが生まれたのでしょうか?

文庫本風のブックレットのデザインを見せてもらった時に、すごい良くて、どうせなら文庫本を完全コピーしようって思って。ちゃんと前書きも後書きも書いて、目次もつけてとか。それでどうせなら前書き後書きも曲にしたら面白いんじゃないかって思って曲を作ってみました。それが「まえがき」と「あとがき」です。

ニューアルバム「あんたへ」/ 2013年11月20日発売 / Sony Music Associated Records
初回限定盤[CD+DVD] 2000円 / AICL-2603~4
通常盤[CD] 1800円 / AICL-2605
収録曲
  1. まえがき
  2. あんたへ
  3. 匿名希望
  4. 冷凍睡眠
  5. ドブネズミ
  6. 終わりで始まり
  7. あとがき
初回限定盤DVD 収録内容
  • 匿名希望(2013年9月30日 / 東京・LIQUIDROOM ebisu)
  • MC(2013年09月30日 / 東京・LIQUIDROOM ebisu)
  • あんたへ(2013年09月30日 / 東京・LIQUIDROOM ebisu)
amazarashi(あまざらし)
amazarashi

青森県むつ市在住の秋田ひろむを中心としたバンド。青森県内500枚限定の詩集付きミニアルバム「0.」を2009年12月に発表し、翌2010年2月にその全国盤となる「0.6」をリリース。その後ソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズへ移籍し、2010年6月に「爆弾の作り方」を発表。アーティスト本人の露出がないまま、口コミを中心に話題を集めていく。2011年11月には初のフルアルバム「千年幸福論」をリリースした。2012年1月に渋谷公会堂で開催したアルバム発売記念のワンマンライブのチケットはソールドアウト。2012年6月にアルバム「ラブソング」を、2013年4月にアルバム「ねえママ あなたの言うとおり」を発表する。2013年8月には「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2013 in EZO」に初出演し、9月にはTK from 凛として時雨と対バンライブを開催。11月にニューアルバム「あんたへ」をリリースする。