音楽ナタリー PowerPush - ASIAN KUNG-FU GENERATION
4人に立ち返ったアジカンが描く「Wonder Future」
「Wonder Future」曲解説
1. Easter / 復活祭
[作詞・作曲:後藤正文]
──ここからはアルバムの曲について1曲ずつ聞かせてください。まずは先行シングルとしてリリースされた「Easter / 復活祭」から。
実は、俺としてはアルバムの1曲目にするアイデアはなくって。でも、山ちゃん(山田貴洋)をはじめ、メンバーもスタッフも「これが1曲目だ」って言うから「きっとそうなんだろう」と。曲順って作品のポピュラリティに関わってくると思ってて。そのセンスはメンバーを信頼してるんですね。僕よりほかのメンバーのほうがポップだと思ってるので。自分が強情を張ることで、閉じた作品になるのもイヤだったし、メンバーが「この曲が1曲目だよ」って真顔で言ってるからそれがいいんだろうと。
──そうでしたか。
こういう泥臭いギターリフの曲って個人的には好きなんですけど、サラっと書いたものだし、バンドでやるかどうかも意識してなかったんです。だからメンバーやスタッフが盛り上がる気持ちもわからなかったし、「俺は世の中の人たちがグッとくるとか、グッとこないとかいうところに鈍感なんだな」って思いましたね(笑)。
2. Little Lennon / 小さなレノン
[作詞:後藤正文 / 作曲:後藤正文、山田貴洋]
──この曲は後藤さんと山田さんによる共作です。
コード進行を山ちゃんが考えて、喜多(建介)くんと俺がギターリフを考えて、そこにメロディを付けていった形ですね。今回のアルバムはどれもセッションでかなり広げてるんです。コードとビートの上に仮のメロディを付けて、そこからイメージされる歌詞を付けて作っていきました。
──これはタイトルの通り、ジョン・レノンについての歌だと解釈したんですが。
というか、これはジョン・レノンの「イマジン」を今なりの歌詞にしてアップデートするようなイメージで作った曲ですね。ワンコードで押し切るようなシンプルな曲ですけど、メッセージ性は強いです。
3. Winner and Loser / 勝者と敗者
[作詞:後藤正文 / 作曲:後藤正文、喜多建介、山田貴洋、伊地知潔]
──この曲はメンバー全員が作曲者としてクレジットされてますが、どういう形で作っていったんですか?
これは、基になるコードを持ってきたのが山ちゃんなんですけど、(伊地知)潔と建ちゃんが盛り上がってアレンジを加える中で、2人に乗っ取られたんですね(笑)。それで山ちゃんは自分1人のクレジットになるのが不本意で、4人にしたんだと思います。アジカンの場合って、誰かが作ったデモに基づいてレコーディングすることはなくて、昔からスタジオでセッションをしながら作ってくんですよね。
4. Caterpillar / 芋虫
[作詞・作曲:後藤正文]
──この曲は非常にシニカルで、社会的なメッセージが込められた歌詞が印象的でした。タイトルにはなんらかの意味があるんでしょうか?
これはホントに言葉遊びみたいなもので。「capital(資本)」「capitalism(資本主義)」について歌った曲なんです。だけど、そのままタイトルにしたらダサイと思って「Caterpillar」にしたんです。
──なるほど。
こうやって曲について解説はしてますけど、リスナーにはいろいろ思いを巡らせてほしいんです。僕の作ってるものはフックや問いかけでしかない。それと歌詞は、描写するためのものだと思ってますから。その上で僕が作詞でやってることは、時代の空気を描写することですね。
5. Eternal Sunshine / 永遠の陽光
[作詞・作曲:後藤正文]
──「鮮やかな面影も抱き合った遠い日々も 月日が流してしまうだろう」といった切ない歌詞が胸を打つ1曲ですが、これは映画「エターナル・サンシャイン」(2004年に公開された、お互いを忘れるために記憶除去手術を受けるカップルが主人公の恋愛映画)がモチーフになってるんでしょうか?
部分的には、そうですね。主演のジム・キャリーが大好きで。この映画自体も好きなので何回か観てるんですけど、そこで感じたことをモチーフにしてます。
──まるで映画のエンディングのようなドラマチックな1曲ですよね。アルバムのラストにもなりえるようなナンバーだと思いました。
まあ、この曲がアルバムの最後だったらちょっと悲しい気持ちになっちゃうんで。レコードだったらA面の最後のイメージではありますね。実際のアナログ盤では、「Planet of the Apes / 猿の惑星」がA面の最後ですけど。あと、「Caterpillar / 芋虫」まで勢いがあったんで、1回、王道のミディアムチューンで安心してもらおうと思ってこの曲順になってます。
6. Planet of the Apes / 猿の惑星
[作詞・作曲:後藤正文]
──全体的に音がひずんでいて、ダイナミックなところが魅力の1曲です。ちなみにこのタイトルも映画からインスパイアされたものですか?
その通りです。ロスに行く前までに歌詞が書き上がらなくて、レコーディングでロスに向かうときに飛行機で「猿の惑星/創世記(ジェネシス)」を観まして。映画を観て「猿、いいね!」と(笑)。自分たちの“猿性”について考えつつ、歌詞に自分たちが生きている時代性を織り込んで。
──映画を観てからこの曲を聴くと面白いかもしれないですね。後藤さんの場合、映画からインスパイアを受けることが多いんですか?
映画も多いですけど、なんにでも影響を受けますよ。締め切りに追いつめられると映画とかいろんなところから引っ張ってくるんですよ(笑)。もちろんそのままストーリーをなぞることはしないですけど。歌詞はそういうもんでいいんだっていう気持ちもあるしね。1週間も2週間も考え込んで書く類いのものではないと思ってます。書けるときが書くときだっていう。ただ、僕は1行目から歌詞を書くので、1行目が出てこないといつまで経っても終わらないんですが……。
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- ニューアルバム「Wonder Future」 / 2015年5月27日発売 / Ki/oon Music
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 3996円 / KSCL-2587~8
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 3996円 / KSCL-2587~8
- 通常盤 [CD] / 3146円 / KSCL-2589
- アナログ盤 [アナログ] 3780円 / KSJL-6182
CD収録曲
- Easter / 復活祭
- Little Lennon / 小さなレノン
- Winner and Loser / 勝者と敗者
- Caterpillar / 芋虫
- Eternal Sunshine / 永遠の陽光
- Planet of the Apes / 猿の惑星
- Standard / スタンダード
- Wonder Future / ワンダーフューチャー
- Prisoner in a Frame / 額の中の囚人
- Signal on the Street / 街頭のシグナル
- Opera Glasses / オペラグラス
初回限定盤 DVD収録内容
- 「Easter / 復活祭」ミュージックビデオ
- 「Standard / スタンダード」ミュージックビデオ
- アルバム「Wonder Future」のレコーディングに密着したドキュメンタリー映像
ASIAN KUNG-FU GENERATION
(アジアンカンフージェネレーション)
1996年に同じ大学に在籍していた後藤正文(Vo, G)、喜多建介(G, Vo)、山田貴洋(B, Vo)、伊地知潔(Dr)の4人で結成。渋谷、下北沢を中心にライブ活動を行い、エモーショナルでポップな旋律と重厚なギターサウンドで知名度を獲得する。2003年には、2002年にインディーズで発表したミニアルバム「崩壊アンプリファー」をキューンレコードから再リリースし、メジャーデビューを果たす。同年メジャー1stアルバム「君繋ファイブエム」を発表。2004年には2ndアルバム「ソルファ」でオリコン週間ランキング初登場1位を獲得し、初の日本武道館ワンマンライブを行った。
2010年には映画「ソラニン」の主題歌として書き下ろし曲「ソラニン」を提供し、大きな話題を呼んだ。2003年から自主企画によるイベント「NANO-MUGEN FES.」を開催。海外アーティストや若手の注目アーティストを招き、幅広いジャンルの音楽をファンに紹介する試みも積極的に行っている。2012年1月には初のベストアルバム「BEST HIT AKG」をリリースした。2013年9月にはメジャーデビュー10周年を記念して、横浜スタジアムで2DAYSライブを開催。2015年5月にロサンゼルスでレコーディングしたニューアルバム「Wonder Future」を発表した。