音楽ナタリー PowerPush - ASIAN KUNG-FU GENERATION
4人に立ち返ったアジカンが描く「Wonder Future」
ASIAN KUNG-FU GENERATIONが2年8カ月ぶりとなるオリジナルアルバム「Wonder Future」を発表した。本作はFoo FightersのプライベートスタジオStudio 606で録音された、バンドにとって初の海外レコーディング作品だ。さまざまな楽器を加えた前作「ランドマーク」から一転して、メンバー4人で鳴らす音楽を徹底的に追求した、シンプルでエネルギッシュな1作に仕上がっている。
この特集では、アルバムのプロデュースも手がけた後藤正文(Vo, G)のソロインタビューと、5月8日に横浜で行われたスタジオレコーディングライブのレポートを通して新作「Wonder Future」の魅力を紐解く。
取材・文 / 中野明子(P1~4)、伊藤雅代(P5)
後藤正文(Vo, G)ソロインタビュー
オーセンティックなサウンドでラウドな作品を作りたい
──今作は、初の海外レコーディング作品ですね。以前から海外でのレコーディングに興味があったんですか?
ありましたね。でも、ただ海外で録るというのではなくて、Foo FightersのプライベートスタジオのStudio 606にある、Neveのコンソールで録ってみたかったんです。もともとそのコンソールは、Sound City Studioっていう今はなくなっちゃったロスの古いスタジオにあったもので、Foo Fightersの「One by One」、Ashの「Meltdown」でも使われてるんです。で、Sound City Studioが閉まるときに、デイヴ・グロール(Foo Fighters)が引き取ったんですね。Sound City Studioについての歴史はデイヴ・グロールが監督した映画「Sound City - Real To Reel」(参照:サウンド・シティ - リアル・トゥ・リール | Sound City - Real To Reel)で描かれてるんですけど、それを観て使いたいと思って。僕が作っている「THE FUTURE TIMES」という新聞で取材したこともあったし、もしかしたら使わせてくれるんじゃないかという淡い期待もあって、スタジオ側に相談したんです。そしたらOKが出たという。
──ちなみに海外で録るというアイデアはいつ頃から?
このアルバムにも入ってる「Standard / スタンダード」を録った頃なので、去年ですね。そのときから今回のアルバムの構想をメンバーとしていて、オーセンティックなサウンドでラウドな作品を作りたいっていう話にまとまったんです。そういう作品を作るにあたって、1つのリファレンスとしてFoo Fightersのイメージがあったんですよ。彼らはすごいキャリアを持っていて、いわゆる王道のロックバンドとしての役割を全うしつつ、自分たちのサウンドを作品ごとにアップデートしているところがよくて。とりあえず教えを乞いたいと思ったんです。だから、最初はStudio 606を使わせてもらうだけじゃなくて、デイヴ・グロールにプロデュースをお願いしようと思ってたんです。
──でも今回はタイミングが合わなかったと。
そう。なので、今作は完全なセルフプロデュースになりました。ただ自分たちがやったことがないことをしたいという希望もあったから、外からの“血”が必要だなって思ったんですね。メンバーだけでアルバムのディレクションをしていくのはしんどいって予想していたし、ソロ活動やほかのアーティストのプロデュースワークを通して、プロデューサーという役割の必要性を感じたんで。
──制作全体や作品を俯瞰する人が必要だと?
そうそう。本人たちだけでは解決できない問題も出てくるので。バンドのパワーバランスだったり、プロダクションに対するアイデアだったり、外部の視点が入ることでスムーズに進められるところがあるんですよね。自分がアジカンのメンバーっていう主観的な立場である以上は、バンドの外に客観視できる人がいたほうがよかったんだけど見つからず……。今回は俺がマネージャーと相談して、あらゆることを調整していったので大変でしたね。レコーディングでも、それぞれのテイクの善しあしも俺がジャッジしていたんで。
──今まで以上に責任は重くなりますよね。
だから最終的に全部俺の責任だって思って作りました。
「この4人で音楽をやること」に立ち返る
──そうして完成した「Wonder Future」は、先ほどおっしゃっていたオーセンティックなサウンドのラウドな作品にちゃんとなっていると思います。何よりも非常にシンプルでバンドの顔が見える仕上がりで。
今回はほぼ4人だけで作っていく感じだったので、そういう音になりましたね。
──先ほど「Standard / スタンダード」を作ったことが、オーセンティックなロックアルバムを作る方針につながったとおっしゃってましたが、バンドとしてそういうモードにいつ頃切り替わったんでしょうか?
2013年にデビュー10周年ライブ(神奈川・横浜スタジアムで2013年9月14、15日に開催。参照:「とても幸せな10年」アジカン、ファン感謝祭で31曲捧ぐ / 盟友5人が祝福!アジカン浜スタ「オールスター感謝祭」)のために「スローダウン」「ローリングストーン」っていう曲を作ったんですけど、そのときに自分たちだけでシンプルなロックを作ろうと思ったんですよね。「ランドマーク」はレコーディングでもツアーでもいろんな人に入ってもらったから、そろそろ4人だけで演奏できるシンプルなサウンドに立ち返るのもいいかなと。いわゆる自分が好きなインディーロック的な音像はソロで表現できたし、それと同じものをバンドでやってもなっていうのがあって。あと、みんなあんまりロックバンドのメンバーが増えるのが好きじゃないんですよね(笑)。
──なんとなくわかります。
バンドに人が増えると演奏してるほうは楽しいんですよ。より音楽的になっていくんで。でも、例えばOasisが7人編成になったら「違うなあ」って思うだろうし、Weezerだったら増やす必要はないだろうと思うかもしれない。もちろん人が増えることで面白くなる場合もありますけど、音的なところも含めて、4人で鳴らしているアジカンのイメージがあるのはわかってるから。
──ソロをやったからこそ見えてきたところもある?
自分が個人的に好きな音楽はどんな形だって、どこだってできるしね。そんな中で、アジカンっていうバンドを続けていく意味ってなんだろうって考えて、「この4人が一緒に何を作るか」「この4人で音楽をやること」がアジカンなんだってところに行き着いた。それで、ほかのメンバーが一番活躍する方法はなんだろうって考えて。いわゆるロック的なサウンドは3人も生き生きと演奏するし、そういうアルバムが作れたらと思いましたね。
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- ニューアルバム「Wonder Future」 / 2015年5月27日発売 / Ki/oon Music
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 3996円 / KSCL-2587~8
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 3996円 / KSCL-2587~8
- 通常盤 [CD] / 3146円 / KSCL-2589
- アナログ盤 [アナログ] 3780円 / KSJL-6182
CD収録曲
- Easter / 復活祭
- Little Lennon / 小さなレノン
- Winner and Loser / 勝者と敗者
- Caterpillar / 芋虫
- Eternal Sunshine / 永遠の陽光
- Planet of the Apes / 猿の惑星
- Standard / スタンダード
- Wonder Future / ワンダーフューチャー
- Prisoner in a Frame / 額の中の囚人
- Signal on the Street / 街頭のシグナル
- Opera Glasses / オペラグラス
初回限定盤 DVD収録内容
- 「Easter / 復活祭」ミュージックビデオ
- 「Standard / スタンダード」ミュージックビデオ
- アルバム「Wonder Future」のレコーディングに密着したドキュメンタリー映像
ASIAN KUNG-FU GENERATION
(アジアンカンフージェネレーション)
1996年に同じ大学に在籍していた後藤正文(Vo, G)、喜多建介(G, Vo)、山田貴洋(B, Vo)、伊地知潔(Dr)の4人で結成。渋谷、下北沢を中心にライブ活動を行い、エモーショナルでポップな旋律と重厚なギターサウンドで知名度を獲得する。2003年には、2002年にインディーズで発表したミニアルバム「崩壊アンプリファー」をキューンレコードから再リリースし、メジャーデビューを果たす。同年メジャー1stアルバム「君繋ファイブエム」を発表。2004年には2ndアルバム「ソルファ」でオリコン週間ランキング初登場1位を獲得し、初の日本武道館ワンマンライブを行った。
2010年には映画「ソラニン」の主題歌として書き下ろし曲「ソラニン」を提供し、大きな話題を呼んだ。2003年から自主企画によるイベント「NANO-MUGEN FES.」を開催。海外アーティストや若手の注目アーティストを招き、幅広いジャンルの音楽をファンに紹介する試みも積極的に行っている。2012年1月には初のベストアルバム「BEST HIT AKG」をリリースした。2013年9月にはメジャーデビュー10周年を記念して、横浜スタジアムで2DAYSライブを開催。2015年5月にロサンゼルスでレコーディングしたニューアルバム「Wonder Future」を発表した。