ほのぼのとした日常にフィットする軽やかさ
──もう1曲の「Pastoral」はテレビアニメ「羅小黒戦記」の日本語吹替版主題歌です。テレビアニメは、映画とはだいぶ雰囲気が違いますね。
そうなんです。映画のほうは、バトルがメインとは言わないまでも間違いなく大きな見どころの1つではあるし、テーマ的にも重みをはらんでいるところがあって。テレビアニメはそれと対照的で、ほのぼのとした日常が舞台になっているし、絵柄もポップでかわいらしいんですよね。
──カートゥーンっぽい感じもあるように思います。
そうそう。キャラクターデザインもよりシンプルにデフォルメされていて。あと、ちょっとややこしいんですけど、物語の時系列としては、映画2作品はテレビアニメの前日譚という位置付けなんですよね。でも、制作の時系列としてはテレビアニメのほうが先というか、もともと「羅小黒戦記」はWebアニメとして作られた作品なんです。
──同人的というか、個人で作って動画サイトにアップしていたアニメシリーズが、映画化されるほど人気が出たそうですね。そのWebアニメを日本のテレビ用に編集したのが、現在放送されている「羅小黒戦記」であると。
そうです。いわばテレビアニメ版が原点なので、その前日譚である映画を観ていなくても楽しめるし、映画は映画で独立した作品として成立しているんですよね。で、テレビアニメのほうはほのぼのとした作風なので、主題歌もそれに見合った楽曲であるべきだし、日本語吹替版の制作サイドの方からも「明るくて軽やかな曲」というリクエストをいただきまして。それを踏まえて「Pastoral」を作っていきました。
──「Little Bouquet」は緊張感のあるバラードでしたが、それに対して「Pastoral」はネオソウルっぽい、リラックスした曲ですね。作曲の小椋健司さんは、初めてご一緒する方ですか?
初めてです。テレビアニメの「羅小黒戦記」は私たちの日常が舞台でありつつ、ストーリーもシャオヘイと、今度はシャオバイ(小白)という女の子の交流が軸になっていて。映画の「羅小黒戦記2」とはまた違う、よりほっこりした形で他者との関係性が育まれていくので、この曲の軽やかさがすごくフィットしていると思います。
──フィンガースナップやオルガンを効果的に用いたアレンジも洒落ていますね。編曲の大西省吾さんは、「Brave Shine」(2015年6月発売の8thシングル表題曲)をはじめ数々の楽曲のアレンジを手がけている方で、先ほど言及した「Cold Sun」のアレンジも大西さんでした。
ずっとお世話になり続けている方ですね。残念ながら直接お会いする機会はなかなか持てていないんですが、今回も本当に素敵な楽曲に仕上げてくださって、感謝しています。
当たり前の日常に愛おしさや尊さを感じながら
──当然のことながら、歌詞の雰囲気も「Little Bouquet」とは異なります。「Pastoral」はより素朴で、ありふれた景色が描かれているといいますか。
こういうほのぼのとした作品の主題歌に携わることにあまり慣れていなかったので難しい部分もあったんですが、当たり前の日常だったり、日々の何気ない瞬間だったりに愛おしさや尊さを感じながら歌詞を作っていきました。楽曲のBPMもちょうど散歩するぐらいのゆっくりさだったので、早歩きではなく、自分のペースで気ままに歩いていける道をイメージしてもいます。
──そのイメージに「Pastoral」というタイトルはぴったりですね。「田園の」「牧歌的な」といった意味の形容詞ですが、散歩だとしたら、アスファルトではなく土の上を歩いている感じがします。
自分ではそんなに意識していなかったけど、確かにそうですね。舗装されていない、でこぼこ道とか田んぼ道で、遠くには大きな空が見えるような。普段、私が散歩しているのはそういう道ではないし、周りにビルが立ち並んだりしていて空も決して広くはなくて。そうなってしまうのが寂しくもあるんですが、それゆえに土の道を歩いていきたいという願望もあるのかもしれないです。
──ボーカルに関しては、曲調と同じくリラックスしているようで、ちゃんと地に足がついている感じがします。「Little Bouquet」とは違う種類の、見事なバランス感覚だと思いました。
それを悟られてしまっているのが、ちょっと恥ずかしいです(笑)。「Pastoral」は、曲自体には「Little Bouquet」のような切なさや深刻さはないんですが、だからこそボーカルには実直さがあったほうがバランスが取れるんじゃないかと思ったんですよね。あと、「Little Bouquet」と同じように、「Pastoral」でもいかに歌でリズムを表現するかをかなり思案していて。曲調に合わせてふわっと歌うこともできたけれど、それだと歌が流れちゃうかもしれないという懸念もあったので、どっしりとした感じの声を選択しました。ただ、曲の最後、音が高くなる「もっと遠くへ行けるよ」のところは優しく歌おうと。
──「もっと遠くへ行けるよ」の「よ」にかかるほのかなビブラート、最高です。穏やかな余韻も素晴らしい。
ありがとうございます。全体的にどっしりと歌っているからこそ、そういった細部で光を感じてもらえたらいいなと思いながら歌いました。
──「羅小黒戦記」という作品自体、映画とテレビアニメで作風が異なりますが、主題歌も対照的な2曲ができあがりましたね。2曲入りシングルとしても、とてもバランスがいいように思います。
本当に「羅小黒戦記」のためのシングルと言えますね。「Little Bouquet」は映画が持つシリアスなテーマ性や、シャオヘイの、妖精だけど人間的成長も透けて見えるような曲であってほしかったので、ちょっと俯瞰するように、ある意味で語り手のような立場で歌っていて。一方で「Pastoral」にはある種の幼さも感じられるので、ちゃんと曲に寄り添ってあげられるボーカルを心がけたんです。だから曲に対する自分の距離感やアプローチの仕方も対照的なんですけど、いずれも「羅小黒戦記」という作品の色に引っ張ってもらったおかげで生まれた曲なので、作品と一緒に楽しんでもらえたらうれしいです。
プロフィール
Aimer(エメ)
幼少期の頃にピアノやギターでの作曲や英語での作詞を始め、15歳のとき声が一切出なくなるというアクシデントを経験し、それがきっかけとなり独特の歌声を獲得する。2011年から音楽活動を本格化させ、同年9月にシングル「六等星の夜 / 悲しみはオーロラに / TWINKLE TWINKLE LITTLE STAR」でメジャーデビューを果たした。2021年よりSACRA MUSICに所属。2022年1月にテレビアニメ「鬼滅の刃」遊郭編のオープニングテーマおよびエンディングテーマを収録したシングル「残響散歌 / 朝が来る」をリリース。同年末には「第73回NHK紅白歌合戦」に出場し、「残響散歌」を披露した。2023年7月に7thアルバム「Open α Door」を発表し、2024年に5年ぶりの海外ツアーと、国内10都市19公演のホールツアーを開催。2025年7月に「劇場版『鬼滅の刃』無限城編 第一章 猗窩座再来」の主題歌を表題曲としたシングル「太陽が昇らない世界」を発表。11月に映画「羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来」、アニメ「羅小黒戦記」の主題歌を表題曲とした両A面シングル「Little Bouquet / Pastoral」をリリースした。
Aimer&staff (@Aimer_and_staff) | X







