Aimerが2020年第1弾作品となるニューシングル「春はゆく / marie」を3月25日にリリースした。
2月に終幕したホールツアー「Aimer Hall Tour 19/20 "rouge de bleu"」では、“赤と青”をコンセプトとしたステージを展開し、シンガーとして新たな挑戦を披露したAimer。充実したツアーを経て届けられる本作には、映画「Fate/stay night [Heaven's Feel] III.spring song」の主題歌で、梶浦由記が作詞作曲およびプロデュースを手がけた「春はゆく」、展覧会「ハプスブルク展」のテーマソングとして書き下ろされた「marie」などが収録される。今回の特集では、相思相愛とも言える梶浦との制作エピソードなどを通して、Aimerの“現在地”に迫った。
取材・文 / 須藤輝
自分の歌にはまだ伸びしろがある
──Aimerさんは先日、“赤と青”のツアー(「Aimer Hall Tour 19/20 "rouge de bleu"」)のファイナルを迎えられました(参照:Aimer、“赤と青”の世界を描いたツアーに幕「音楽であなたを守れるよう歌い続けます」)。その感想から伺ってもよろしいですか?
今までで一番、手応えがありました。前回のインタビューで、私は「このツアーを今までの人生で一番素晴らしいものにします」と言いましたけれど、本当にそうできたかなと(参照:Aimer「Torches」インタビュー)。
──素晴らしい。
今回のツアーは公演数も過去最多で、2DAYSのライブもけっこう多くて。なので「この喉を抱えてちゃんとできるかな?」という不安もあったんですけど、蓋を開けてみたら、自分の中で表現を追求しながら1公演1公演を丁寧にできたツアーになりました。
──僕がAimerさんのライブを拝見したのは前回の“太陽と雨”のツアー(「Aimer Hall Tour 18/19 "soleil et pluie"」)の東京公演以来、1年2カ月ぶりでして。今回も同じ国際フォーラムの2階席で観ていたのですが、前回よりもAimerさんとの距離が近く感じられました。
うれしいです。私もみんなとの距離がまた縮まって、より絆も深まった実感があって。表現者として自信がついたツアーでもありました。昔は、お互いにちょっと探り合いながら距離を詰めていたところがあったかもしれないんですけど、今はもっとみんなに対してオープンになれている自覚もあるし、いろんな自分を出してもいいのかなって。
──では、あえて反省点を挙げるとすれば?
以前は、本当に1回1回のライブが反省点ばかりで。「もっとできたな」という部分を絶対に自分で見つけちゃうというか、たぶん、必ずそういうふうに捉えてしまう性格なんですよ。でも最近は、もちろん今回のツアーにしても歌の技術面で納得がいってない点も少なからずあるんですけど、それを達観していられるというか。次に向けて「もっとできる」と感じる部分が見つかって、うれしく思えるんです。
──余裕が出てきた?
そうですね。昔は完璧にできない自分が許せなかったんですけど、今はそれを「まだ伸びしろがある」と受け止められるようになってきたなと。私の歌は未完成だけれど、その分まだ先がある、もっと表現を磨ける。今の自分にできることをやり尽くしたうえで、ポジティブに次につなげたいという気持ちが大きくなっていますね。
──“赤と青”のツアーファイナルは、観客としては非常に満足度の高いライブだったのですが、次はこれ以上のものが観られるわけですね。
自分でハードルを上げてしまいましたね(笑)。でも、そのハードルを越えていける自分でありたいなと思っています。
本当に、本当に丁寧に歌いたい
──ここからはニューシングルについて伺います。まずA面曲の1つ「春はゆく」は映画「Fate/stay night [Heaven's Feel] III.spring song」の主題歌であり、「花の唄」「I beg you」に続く3度目の梶浦由記さんプロデュース曲になりますね。
梶浦さんとは「Fate/stay night [Heaven's Feel]」という作品を通じてご一緒させていただいて、今回はその最終章ということで、きっと梶浦さんの真骨頂みたいなものが詰まった曲をくださるだろうという予感があったんです。なので、「花の唄」と「I beg you」のときはどんな曲がくるのかまったく想像できなかったんですけど、この「春はゆく」に関してはある意味、それを確認するような気持ちでした。とはいえ、最初にデモを聴いた瞬間は、この曲を歌うことに対してすごくプレッシャーを感じましたね。
──「I beg you」のときは、歌うのが「楽しみ」であり「絶対に私が歌いたい」と思ったとおっしゃっていましたが(参照:Aimer「I beg you / 花びらたちのマーチ / Sailing」インタビュー)。
「I beg you」のような激しさを伴う曲は、その激しさに身を委ねることで、自分の気持ちも高揚するようなところがあるんです。だけど今回は「本当に、本当に丁寧に歌いたい」という気持ちが強すぎて。とにかくものすごく慎重に扱わなきゃいけない、繊細な曲なので、レコーディングも今までで一番緊張したかもしれません。もう、手が震えるくらい。
──そんなに。
この曲は、歌うときの自分の気持ちをごまかせないというか。必ずしも曲としての難易度が高いわけではないけれど、やっぱりボーカルが際立つ曲だし、私の歌い方、解釈の仕方次第で表情がすごく変わってしまう曲だなって。だからあえて声量をセーブしてみたり、そういう部分で今の自分が持てる技術を全部注ぎました。ただ、レコーディング自体はそこまで難航したわけではなくて。すごく集中して、準備を整えて、精神統一して臨んだ感じです。
──3曲それぞれ曲の解釈もレコーディングのあり方も違っていて面白いですね。「花の唄」はプラン通りにつるっと録れて(参照:Aimer「ONE / 花の唄 / 六等星の夜 Magic Blue ver.」インタビュー)、片や「I beg you」は「どんどん熱を帯びていって、最終的にもう振り切れちゃいました」とおっしゃっていましたし。
そうですね。ただ、梶浦さんが書いてくださった3曲はどれも共通して自分と波長が合うというか、私が楽しみながら技術や精力を注げるエリアにあるんですよね。ご本人も、いつも「Aimerさんの声に萌えながら書きました」と言ってくださって(笑)。
──愛されてますね(笑)。
その梶浦さんの愛がどの曲からも、メロディラインや曲そのものの雰囲気を通して伝わってくるので、それに応えるべく、自分の声で一番おいしいところを惜しみなく使いつつ歌わせてもらいました。だから毎回、歌うのが本当に楽しみだったし、最後まで幸せでしたね。
重くも軽くもなく、悲しすぎずうれしすぎず
──「春はゆく」の歌詞も、梶浦さんらしい濃密さがありますね。
梶浦さんとご一緒した3曲は、歌詞にもすごく共感できちゃう自分がいるんです。だから歌うのに夢中になったという部分もあって。この「春はゆく」も、例えば「贖い」みたいな言葉自体は日常でカジュアルに使う言葉ではないけれど、それでもやっぱりそこに込められた気持ちがわかるというか。きっと、この歌の主人公のことが、私はすごく好きなんですよね。
──主人公とは、「Fate/stay night [Heaven's Feel]」のヒロインの1人である間桐桜?
そうですね。ただ、作品をご存知ない方からしたら、その解釈は自由ですよね。もちろん梶浦さんは作品を念頭に置いてお書きになっただろうけれど、この歌詞にはもっと普遍性もあるというか、作品と切り離して聴いても共感する人はいるんじゃないかなと思います。
──Aimerさんは、具体的にどのフレーズに共感されました?
メロディラインとの兼ね合いもあるんですけど、私はBメロの、和のテイストが濃くなるメロディが好きなので、特に2番の「償えない影を背負って」からのパートが歌も含めてとても気に入っています。
──おっしゃる通り、「春はゆく」はそこはかとなく和を感じるバラードでもありますね。
必ずしもすべてのメロディラインが和に寄っているわけじゃないけれど、要所要所で、例えば「I beg you」のDメロで感じたような日本的な雰囲気が漂っていて。しかもタイトルは「春はゆく」だし、桜を思わせるようなフレーズもあり。だからこそ、私の歌がディープになると和に寄りすぎちゃうと思ったので、意識してニュートラルに歌いました。重くも軽くもなく、悲しすぎずうれしすぎず、聴く人によって解釈が変わるような響きで。
──例えば「花の唄」には粘り気のある女性的な情念が宿っていて、一方で「I beg you」は“多重人格”とのことでした。それらと比べると、「春はゆく」はコントロールされた歌声と言いましょうか。
はい。本当に、いろんなものを削って歌ったので。私としても、これが「Heaven's Feel」を通じた梶浦さんとの最後のコラボ曲になるので、その感慨もすごく大きくて。自分が歌ってこその曲にしたかったし、梶浦さんへの感謝も込めたかったので、こういう歌い方を私が選びました。
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ビブラートがビリビリビリビリ!