夜の物語を終わらせることに対して不安はあったけれど

──では、「RE:I AM」以降でターニングポイントになったような曲はありますか？ もちろん、Aimerさんにとってはどれも大切な曲だとは思われますが。

難しいな……曲というか、「DAWN」（2015年7月リリース）というアルバムは、私の中で大きな意味を持つ作品ですね。

──Aimerさんが1stアルバム「Sleepless night」（2012年10月リリース）、2ndアルバム「Midnight Sun」（2014年6月リリース）で歌われてきた夜の物語を、“DAWN＝夜明け”という形で完結させた3rdアルバムですね。

そうです。それまで私は、ずっと夜の物語を書いてきて、いわば夜に生きていたので、その夜が明けてしまうことに対して不安はありました。でも、夜が明けてみて思ったのは、「DAWN」で迎えたのはあくまでも1つの夜明けであって、また別の夜を歌うこともできるし、ましてやこれが永遠の夜明けで「もうこれから光の中でしか歌えません」というわけでも決してないということなんですね。だから、より自由な表現を試せるようになったという意味で、「DAWN」には可能性をもらいました。

──その「DAWN」を作る起点の1つになったのが、同アルバムにも収録されている「Brave Shine」（2015年6月リリース）だったというお話もされていましたよね？（参照：Aimer「DAWN」インタビュー）

本当にそうですね。そもそも「Brave Shine」の歌詞は、私がプロとして音楽活動を始めてから、初めて声が出なくなった経験をもとに書かれているんです。そのとき、「The darkest hour is just before the dawn（夜明け前がもっとも暗い）」ということわざが頭をよぎって。つまり、声が出なくなるという、自分にとって一番暗いときを経験したから、その先にある夜明けに意識が向いたんです。この出来事は今でもすごく大きくて、でも、それがあったからこそ「DAWN」ができたし、自分の声に対する向き合い方も変わったので。うん、「Brave Shine」は「それでも歌いたい」という、決意の曲ですね。

夜明けを迎えたことが「daydream」でさらに意味のあるものに

──声が出なくなって改めて声に対する向き合い方を変えるというのも、先ほどお話しされたAimerさんの考え方と通じていますね。

私はこの喉と付き合っていかなきゃいけないし、歌を歌うことに対してもっとシビアにならなきゃいけないなと、より強く思いましたね。だから、自分の喉に対しても黒と白を意識しているとあるというか、「いつか声が出なくなっちゃうかもしれないけれど、だからこそ今歌うんだ」みたいなことは普段から考えています。

──だからAimerさんはリリースペースが速いとか、そういう話ではないですよね？ つまり、歌えるうちにたくさんリリースしておこうみたいな。

だとしたら恐ろしいですね（笑）。そこは、大丈夫です。私個人の希望としても、皆さんに対しての使命という意味でも、ずっと歌い続けていきたいと思っているので。安心してほしいというか、恥ずかしいけど、信じてほしいです。

──実際、リリースペースが速いですよね。特に2016年はデビュー5周年ということもあり、シングル4枚、アルバム1枚と、5月から毎月のように作品をリリースされて。しかも、澤野さんをはじめ、Takaさん（ONE OK ROCK）やTKさん（凛として時雨）、野田洋次郎さん（RADWIMPS）といった方々とコラボなさっています。

確かに去年は本当にいろいろな方とご一緒させていただきました。特にアルバム「daydream」（2016年9月リリース）は、それまで築いてきたAimerの世界観を壊すというコンセプトでしたから、皆さん自由な曲を作ってきてくださって。そのおかげで私も自由に表現できましたし、「DAWN」で夜明けを迎えたことが、「daydream」を作ったことでさらに意味のあるものになったなと思います。

──「さらに意味のあるものになった」とは？

つまり、もし夜が明けないままだったら「daydream」は作れなかっただろうし、「DAWN」に至る夜の物語を紡いできたからこそ、「daydream」でそれを壊すことができた。「Aimerの世界観を壊す」といっても、まず世界観自体ができてないと壊しようがないじゃないですか。だから、壊すことで逆に、きちんと築かれたものがあったというのを実感できたんです。