音楽ナタリー Power Push - Aimer

彼女が“夜明け”に描いた 物語の終わりと始まり

Aimerがニューアルバム「DAWN」を7月29日にリリースする。

Aimerは2011年のデビュー以来「Sleepless night」「Midnight Sun」と“夜”をモチーフにした2枚のオリジナルフルアルバムを発表。“夜明け”を意味する「DAWN」はその“夜”の物語の完結編的1枚となるという。これまで音楽ナタリーをはじめさまざまな媒体のインタビューなどでも、夜という時間帯への思いを語ってきたAimer。そんな彼女が今、夜明けを迎える理由とは?

取材・文 / 成松哲

The darkest hour is just before the dawn.

──Aimerさんは前のアルバム「Midnight Sun」リリース時、「夜はマイナスな感情ですらすべてを受け入れてくれる存在のような気がしてすごく好きだ」とおっしゃっていました(参照:Aimer「Midnight Sun」「UnChild」特集)。

はい。

──そして実際に夜をモチーフにした楽曲を数多く発表していただけに今回のアルバムタイトルにはビックリさせられました。「あっ、夜が明けた」って(笑)。

ふふふふふ(笑)。今回は1つの物語を終わりに導きたかったんです。これまでに2枚のフルアルバム、「Sleepless night」と「Midnight Sun」で“眠れない夜”から始まって、“真夜中の太陽”に出会ったという物語を描いてきていたので、その物語を一度完結させたかった。ただ、完結したのは、あくまで“1つの物語”であって。夜が明けて朝が来ればまた夜も訪れるように、これからもまた眠れない夜のことを歌い続けていきたいとは思っています。

──ではなぜ“今”、物語を完結させようと? 前作は「Midnight Sun」。真夜中のことを歌っていたわけだから、今作ではそこから少し時間がくだった夜の風景を歌ってもよかったといえばよかったわけですよね。

Aimer

次のアルバムはどういうものにしようかな?と考え始めたとき、まず浮かんできた言葉があって。「The darkest hour is just before the dawn.」。「夜明け前が一番暗い」というすごく好きな英語のことわざを思い出したんです。なぜそれを思い出したかというと、6月にリリースした「Brave Shine」というシングル曲の歌詞は、私がその頃経験した挫折を基に書いたものだったからなんです。この詞を書けたとき、挫折という、私にとって一番暗かった瞬間を乗り越えられた気がしたから「夜明け前が一番暗い」ということわざが頭の中に浮かんできて。だから、今しか描けない夜明けの物語、夜の終わりの物語を描いてみたくなったんです。

Aimerと「Fate UBW」に起きた悲劇的で恵まれた偶然

──1stアルバムの「Sleepless night」リリース当時から「Midnight Sun」「DAWN」という3部作にしようと思っていた、みたいなコンセプチュアルな作り方ではない、と。

「いつか一度は夜明けを迎えるのかもしれない」とは思っていましたけど「3枚目だから夜明けのアルバムにしよう」とは思ってなかったですね。「Brave Shine」がなければ「今、自分を夜明けに導こう」という考え方にはならなかったかもしれないですから。

──ただ「Brave Shine」はアニメ「Fate/stay night [Unlimited Blade Works]」のオープニングテーマであって、その詞はアニメの物語にしっかり寄り添っていた。なので、ご自身の挫折を歌ったパーソナルな曲だというお話は少し意外でした。

アメリカ・ロサンゼルス「AnimeExpo」出演時のAimer。

ある意味、すごく偶然に恵まれたんだと思います。当初は「Unlimited Blade Works」のテーマや背景を把握しつつ、歌詞のプロットを作っていたんです。主人公が、自分の弱さを見つめざるを得なくなって、それでも強くありたいと願うという青年であることを踏まえて、彼に寄り添った詞を書こうと思っていたときに、自分自身も挫折を経験することになって……。それは個人としての私にとっては悲劇的なできごとではあったんですけど、そのおかげで「Brave Shine」が生まれたのは事実なんだと思っています。

夜明けから真夜中に向かっていくように

──そして「Brave Shine」はアルバムをも生み出すきっかけの1曲になった。

「DAWN」を作るときの起点の1つになっていますね。

──「Brave Shine」がその起点というか、真夜中から夜明けに向かう物語の一局面を描いていたことも驚きだったんです。「タイアップ曲なのにきちんとアルバムの1曲として機能している」「このアルバム、すごくキレイに真夜中から夜明けに向かう時間の経過を切り取ってるな」って。

ありがとうございます(笑)。確かにこれまでの2枚以上に、どの曲も「夜のとある風景と、そこにいる人々を描く」というコンセプトに即したつもりではいます。

──実際、どうやってこのトラックリストを組み上げたんですか?

「ONE OK ROCK 2015 "35xxxv" JAPAN TOUR」にサポートゲストとして出演時のAimer。

まず「『DAWN』というアルバムを作ろう」と思ったときから「これまでのアルバムと同じようにスタンダードナンバーのカバーをプロローグとエピローグとして入れたい」ということと、「そのエピローグの前、アルバムという物語のラストには絶対に『DAWN』というタイトルの曲を持ってこよう」と決めていて。そうなると夜明け前の一番暗い瞬間を歌った「Brave Shine」は12曲目の「DAWN」の少し前に入るのが自然かな、ということで10曲目に置きました。そして「LAST STARDUST」は「Brave Shine」と“つがい”になる曲、絶対に続けて聴いてほしい曲として作ったので、その前に……というふうに、時間の流れとは逆。夜明けから真夜中に向かっていくようにそれぞれの時間帯に似合う曲作っていたら、このトラックリストができあがった感じなんです。

ニューアルバム「DAWN」 / 2015年7月29日発売 / SME Records
ニューアルバム「DAWN」
初回限定盤A [CD+Blu-ray] / 3980円 / DFCL-2150~1
初回限定盤B [CD+DVD] / 3650円 / DFCL-2152~3
通常盤 [CD] / 3218円 / DFCL-2154
CD収録曲
  1. MOON RIVER -prologue-
  2. Believe Be:leave
  3. 君を待つ
  4. broKen NIGHT
  5. Noir! Noir!
  6. Re:far
  7. AM04:00
  8. 誰か、海を。
  9. LAST STARDUST
  10. Brave Shine
  11. キズナ
  12. DAWN
  13. MOON RIVER
初回限定盤Blu-ray / DVD収録内容
  1. Believe Be:leave
  2. 君を待つ
  3. broKen NIGHT
  4. 誰か、海を。
  5. Brave Shine
  6. 星の消えた夜に from Live at anywhere vol.23
Aimer(エメ)

女性シンガーソングライター。幼少期よりピアノやギターでの作曲や英語での作詞を始め、15歳のとき声が一切出なくなるアクシデントの末に独特の歌声を獲得。2011年から音楽活動を本格化し、同年9月にシングル「六等星の夜 / 悲しみはオーロラに / TWINKLE TWINKLE LITTLE STAR」でメジャーデビューを果たす。以来「あなたに出会わなければ ~夏雪冬花~」がテレビアニメ「夏雪ランデブー」のエンディングテーマに、2013年のシングル「RE:I AM」がアニメ「機動戦士ガンダムUC episode 6 ~宇宙と地球と~」の主題歌に採用されるなど、各方面から大きな注目を集める存在に。そして2013年11月にはスタジオ収録の新曲とライブ音源をパッケージしたアルバム「After Dark」を、2014年5月、表題曲が「機動戦士ガンダムUC」シリーズ最終章となる「episode 7 ~虹の彼方に~」の主題歌に採用されたシングル「StarRingChild」を発表。さらに6月には2ndソロアルバム「Midnight Sun」と、作曲家・澤野弘之らとのコラボレーションアルバム「UnChild」を同時リリースした。同年9月、菅野よう子、青葉市子らが参加する新作「誰か、海を。」を発表。2015年6月にアニメ「Fate/stay night [Unlimited Blade Works]」2ndシーズンのオープニングテーマ「Brave Shine」をシングルリリースし、7月にはこの曲を含む3rdフルアルバム「DAWN」を発売する。