ナタリー PowerPush - AI
デビュー11年目の進化 移籍後初アルバム「INDEPENDENT」
歌詞が書けない時期
──今作はEMI Music Japanへの移籍後初のアルバムということもあり、歌唱面でもリリックの面でも一皮むけたような感じを受けました。環境の変化が良い影響をもたらしているんだなと。
スタッフが変わることは今までにも何回かあったけど、やっぱりチームによって全然やり方が違うんですよ。ただ、私はチームのみんなと目指してる方向性が同じっていうのが一番うれしいことなの。今回移籍してきて思ったのは、EMIの人たちは考えがすごくアーティスト寄りだなっていうこと。仕事というより、多分音楽が好きなんですよ、みんな。それはすごく感じた。だから私も音楽で感動を伝えようって自然と思えるし、素直にアイデアが出せてると思います。
──それは声や歌にも反映されてるような気がしました。
そうですね。もし歌唱的に成長したと思ってもらえたなら、そうなるように環境を用意してくれたスタッフのおかげだと思います。急かされないし、プレッシャーもない、LAの物置みたいな小さなレコーティングスタジオで集中できた。良い条件が全部そろわないと、すごくいいものって出てこないと思うんですよ。
──なるほど、AIさんとしてもかなり満足のいってる作品なんですね。ところで、これまでに曲制作の面で悩んだ時期とかうまくいかない時期ってあったんですか?
歌詞が書けないときはあったな。2004年くらい……。「Listen 2 Da Music」(※3rdアルバム「2004 A.I.」収録)って曲は詞が全然浮かばなくて、それをそのまま書いたの。
──あの曲、「何を言えばいい? 何を書けばいい?」というすごく正直なリリックですよね。
そのままでしょ? あれもよく出させてくれたなと思う。みんな優しいのよ!(笑) ホント書けなかったなあ、あのとき。
──どうしてだったんですかね?
その時期、「ORIGINAL A.I.」(※2ndアルバム)とか「FEAT A.I.」(※AIの客演曲を集めたオムニバスアルバム)でフィーチャリングをたくさんやってたんだよね。で、人のところにばっか行って、いい歌詞いっぱい書いてたら(笑)、自分の曲で言うことがもうないっていう状況になったの。それにいっぱい歌詞を書く上で、もっと恋をしないととか、もっと失恋しないとか、もっと友達とパーティしないととか思うのに、行動が追いついてこなくて。
──実体験を詞に落とし込んでいたんですね。
昔は、実際にやってないことを書くのが嫌だったんだよね。例えばスニーカーの銘柄ひとつ言うだけでも、そのスニーカーをいつも履いてないと言いたくない。「♪パーティ Yeah~」みたいな曲を書くなら、好きでなくてもパーティしないと、みたいな(笑)。そうじゃないと「お前ちげーじゃん」ってDISられるかもしれない、と思ってましたね。
──そして、作らなきゃいけない曲の多さに自分の行動が伴わない、と。
しかも何を書いても「こういう曲は前に書いたし」と嫌になっちゃう時期で、リスナーに「またそういう話?」って思われるのをすごく恐れてた。もちろん今は全然そうは思わないよ。何回同じことを書いてもその曲を聴いてない人もいるだろうし、そういう曲をまた求める人もいたりするから。でもそのときは「何を書けばいいんだー」ってイライラしちゃって、友達から遊びの誘いが来ても書けるまで家を出たくなくて……ついにおかしくなっちゃってそのまんま歌詞で吐き出しちゃった。今でも「Listen 2 Da Music」はヘンな歌詞だなと思います。
今は痛みも苦しみもいい
──そんなスランプの時期から、どう脱却していったんですか?
一度落ち込んで、そういう曲を書いたけど、私が暗く浸ってたら周りの人に迷惑だと思ったし、休まず書き続けていくうちにだんだん明るくなっていったんです。書けないことをマイナスに受け止めるんじゃなくて、自分の成長になる良いことだっていうふうに、書いてく中で自分でも気付いていくんですね。なんでもやり続けることが大切だなって思いました。
──なるほど。
「無理だ」って諦めて、やめたらそこでおしまいだもんね。あとは、当時ほかの人から「私も書けない」とか「あの子も書けなくて大変らしいよ」みたいな話を聞いて、自分だけじゃないんだなって知ったことも力になりました。やめないで、がんばってもっと考えよう、自分がかわいそうと思ってるんじゃないよって言い聞かせながらやっていたら、いつの間にかツアーやって、プロモーションして、また歌詞書く時期になって、書けるようになってた。今は、そういう痛みもそういう苦しみもいいものだなと思います。書けないときがあってもいいと思う。
──じゃあこれからも自作の詞で歌うことはやめたくないですか?
そうですね。まあ誰かが書いてくれるんだったらねえ、書いてほしいけど。
──そうなんですか(笑)。自分の書いた詞じゃないと絶対に嫌だってこだわっているわけではないんですね。
そんなのないですよ。ただ、いい詞がないから自分で書くだけ。いい詞が書ける人がいたらぜひとも任せたいけど、やっぱ口調とか内容とか違うなって感じることがあるし、譜割りも自分のが一番歌いやすいんだよね。
私にとって「ハピネス」は泣ける曲
──AIさんってサバサバしてるし、おおらかですけど、こと歌や詞に関しては厳しさや真剣さをすごく持ってるんだろうなと思います。
うん、すごい厳しいですね。歌を録ってるときはすごくピリピリしてるし、歌詞も自分の世界に入り込んで嫌になるぐらい考えます。やっぱり本気でやらないとウソになるでしょ。それがないと「ハピネス」みたいな曲もただのハッピーな薄い曲になってしまう。これは私にとっては単なるハッピーな曲じゃなくて、本当に泣ける曲なんですよ。
──泣けるというのは、具体的にどういうことですか?
いや、説明しづらいけど、「君が笑えば この世界中に もっと もっと 幸せが広がる」っていう1フレーズもいろいろあって出てきた言葉で、心から本当にそうなってほしいっていう気持ちを込めたから、じっくりその意味を考えるとマジで泣いてしまうわけ。でも普段はこんなこと言わないし、人に言葉で説明することでもないから、笑ってサラッと歌うくらいがちょうどいいのよ。でもそういう曲がほとんどですね。
──そうなんですか。
やっぱり人の歌詞はそこまで気持ち込めてくれてるかなって思う部分が正直あるから、使わないのかもね。この感覚は多分自分しかわからない。とにかく私は、曲を聴いた人が楽しい気持ちになってくれるのが一番うれしいんですよ。そして人の感情を揺さぶりたいなら、自分も絶対本気で行かないといけないと思ってるんです。
CD収録曲
- DANCE TOGETHER
- INDEPENDENT WOMAN
- ハピネス
- アンバランス
- FUTURISTIC LOVER
- w / u
- ユメノムコウ
- One Love
- ウツクシキモノ
- Letter In The Sky feat. The Jacksons
AI(あい)
1981年アメリカ・ロサンゼルス生まれ、鹿児島育ちのR&Bシンガー。歌とダンスを本格的にレッスンするために10代でLAに渡ったのち、1999年にジャネット・ジャクソン「ゴー・ディープ」のPVにダンサーの1人として出演。帰国後、2000年にシングル「Cry, just Cry」でメジャーデビューを果たす。圧倒的な歌唱力やリアルな言葉で綴られたリリック、普遍的なメロディで多くのリスナーを獲得。数々のヒット曲を発表し、2009年に発表したベストアルバム「BEST A.I.」はオリコンウィークリーチャート1位を記録する。2011年に入ってからEMI Music Japanに移籍し、同年12月に移籍第1弾シングルとして「ハピネス / Letter In The Sky feat.The Jacksons」をリリース。2012年2月に移籍後初のアルバム「INDEPENDENT」を発表する。