音楽ナタリー PowerPush - 阿部真央

5年の歩みを振り返りつつ対峙する「最新の私」と「5年後の私」

新しい歌の書き方を覚えてもいいのかなって

──自身の嗜好の変化に気付いたのっていつ頃ですか?

阿部真央

一昨年くらいかな? 初めてセルフプロデュースした「戦いは終わらない」というアルバムでいろんなアレンジャーさんやミュージシャンの方と一緒にお仕事をさせてもらったのが大きかったですね(参照:阿部真央 「戦いは終わらない」インタビュー )。

──音の嗜好の変化に伴って、当然歌の内容も変化していくだろうしね。

そうそう。例えば今、パートナーがいたらその人との関係性で怒りや喜びがあって、それで曲が書けたりすると思うんです。でも今後、結婚したら簡単に失恋の曲は書けないと思うし。そういう意味では、そのときどき感じることを書くのももちろん大事だけど、音から広がる風景を描くように歌のストーリーはフィクションの力を借りてもいいのかなって思うんですよね。新しい歌の書き方を覚えてもいいのかなって。自分の感情と真逆のことはずっと書けないと思うんですけど。

──例えばaikoさんとかどうしてるんだろうね。あんなに優れたラブソングばかりを書けるのってかなり驚異的じゃないですか。

ホントに! aikoさんはすごいですよね。永遠の恋愛マスターなんだと思うし。aikoさんくらいまでいくと、ホントは恋人と別れてなくても歌の中では失恋できるのかもしれないって思うんですよね。

──なるほどね。5月にリリースされたアルバム「泡のような愛だった」も素晴らしかったですよね。音楽的にも、ラブソングのストーリーテラーとしても現在進行形でその深みが増しているのがすごいなと。

うん、私もすごいと思った! 大好き、あのアルバム。素晴らしいですよね。聴いていて切なかったなあ。

──そういう偉大な先輩が同じレーベルにいるわけじゃないですか。

いやいや、先輩だなんて思えないですよ。憧れのトップアーティストって感じ。おこがましくて「レーベルが一緒なんです」なんて言えない(笑)。

生々しい歌しか書けないから続けてきただけ

──話を戻すと、比較的に男性より女性ソングライターのほうが私生活の変化が歌に大きな影響をもたらすと思うんですね。その最たる出来事が出産だと思うし。

阿部真央

そうですよねえ。子供を産んだら激しい曲とか書けるのかなあ? きっと日常にそういう瞬間が少なくなっていくじゃないですか。

──夜泣きの激しさとかはあると思うけどね(笑)。

そうか(笑)。そういう刺激はあるかもね。でも、発見のほうが多くなっていくと思うんですよ。もちろん、それはとても素敵なことだと思うし。

──それで歌そのもののスケールが大きくなったりね。

そうそう。愛が大きくなる感じ。自分がどうなっていくかは全然想像できないですけど。まあ、そうなってみないとわからないですよね。

──そうですね。ただ、ここまでは一貫して生々しい歌だけを表現したことに誇りを持ってるでしょ?

ああ、自分自身を歌にしてきたことが?

──そう。

全然!

──そうなんだ(笑)。

だって、そういう歌しか書けないから続けてきただけで。自分のことを曲にするのは全然恥ずかしくないんですよ。基本的にすべて過去のことだし、曲にしちゃえば曲に出てくる相手が誰かなんてわからないし。ただ、そういう歌を書いてきたことについてはそれしかできなかったからという部分が大きくて。そこに思うことってあんまりないんですよ。

「自分で曲を書いてるから、こうやって音楽を続けられてるんだよ」

──でも、身を削るように曲を書いてきたわけじゃないですか。

そうですね。歌にする題材としては。

──そのしんどさってあるはずで。

そうですね。あるんだと思う。

──他人事みたいだな(笑)。

しんどさとか、そういう歌を書く生みの苦しみもあるんだけど、忘れちゃうんですよね。そもそも私は自分で曲を書きたくなかったんですよね。最初はただシンガーになりたかっただけで。

──そこが大きいのか。

そうなんですよ。シンガーになりたかったんだけど、中学までに受けたオーディションに全部落ちて。でも、高校生のときにひょんなことから自分で書いた曲をきっかけにオーディション(「YAMAHA TEENS' MUSIC FESTIVAL 2006」)で賞を受賞して、それがデビューのきっかけになったから。

──今でもライブの最後に弾き語りで歌う音源化されていない「母の唄」ですよね。

そう。あのときに私は自分で曲を書かないとシンガーになれないんだと思って。

──そこにはちょっと挫折的なニュアンスもあったんですか。

そうですね。そういう気持ちもありつつ、「自分で曲を書けばシンガーになれるのか」って単純に思ったんですよね。

──自分が書いた曲が人に評価される喜びはなかったんですか?

阿部真央

全然なかったです。

──そこが面白いよね(笑)。

だからさあ! 自分で曲を書きたいと思ってないんだもん。

──あはははは(笑)。でも、「母の唄」って間違いなく阿部真央にしか書けない曲じゃないですか。

そうなんですかね?

──そうだよ!

ありがとうございます。あの曲はアコースティックギターがドンドン鳴ってるからいいと思うんじゃない?

──違うよ(笑)。

私はそう思うよ!

──歌に込められてるものですよ。

そうなんだ。喜びますよ、うちの母も。「ストーカーの唄」とかを書いたあたりから「あれ? 私ちょっと変な歌を書くセンスはあるのかも?」って思ったんですけどね。ああいう曲は自分もリスナーとして好きなんですよ。でも、結果的に5年間もコンスタントに作品をリリースして、ツアーを回れてるということは、人が私の歌を評価してくれてるからだって思うしかないですよね。だから、ファンの人たちにホントに感謝してるんです。私を説得してくれてるというか。「おまえは自分で曲を書いてるから、こうやって音楽を続けられてるんだよ」って。

シングルコレクションアルバム「シングルコレクション19-24」/ 2014年8月20日発売 / ポニーキャニオン
予約限定生産盤 [CD+DVD+Tシャツ] 6480円 / PCCA-04075
初回限定盤 [CD+DVD] 3996円 / PCCA-04076
通常盤 [CD] 2700円 / PCCA-04077
CD収録曲
  1. 伝えたいこと
  2. I wanna see you
  3. 貴方の恋人になりたいのです
  4. いつの日も
  5. ロンリー
  6. 19歳の唄
  7. モットー。
  8. 側にいて
  9. 世界はまだ君を知らない
  10. 最後の私
  11. 貴方が好きな私
  12. boyfriend
  13. Believe in yourself
予約限定生産盤、初回限定盤DVD収録内容
<music clip>
  1. ふりぃ
  2. 伝えたいこと
  3. 貴方の恋人になりたいのです
  4. いつの日も
  5. ロンリー
  6. 19歳の唄
  7. モットー。
  8. 側にいて
  9. 世界はまだ君を知らない
  10. 最後の私
  11. 貴方が好きな私
  12. Believe in yourself
  13. always
  • 「シングルコレクション 19-24」マスタリングドキュメント
  • 「シングルコレクション 19-24」ジャケットメイキング
  • 「Believe in yourself」music clip メイキング
  • 「always」music clip メイキング
阿部真央(アベマオ)

1990年1月24日生まれ。大分県出身のシンガーソングライター。2009年1月にアルバム「ふりぃ」でポニーキャニオンからメジャーデビュー。等身大の歌詞とポップなメロディ、表現力豊かなボーカルが、同世代 を中心に支持を集める。「ROCK IN'JAPAN FES.2009」「MEET THE WORLD BEAT 2009」などデビュー年より大型フェスに出演し、翌2010年1月に2ndアルバム「ポっぷ」、2011年6月に3rdアルバム「素。」をリリース。全国ツアーやアヴリル・ラヴィーンのサポートアクト起用など精力的なライブ活動を展開する。2012年6月に4thアルバム「戦いは終わらない」を発表し、自身初の全国ホールツアー「阿部真央らいぶNo.4」を開催。2013年には「最後の私」「貴方が好きな私 / boyfriend」という2枚のシングルと、5thアルバム「貴方を好きな私」をリリースしたそしてCDデビュー5周年を迎えた2014年8月、初のシングルコレクションアルバム「シングルコレクション 19-24」を発売。同年10月には初の日本武道館単独公演が控えている。