立花日菜「HOLIC」特集|立花日菜インタビュー+作家陣コメントで紐解く1stアルバム

声優の立花日菜が9月24日に1stアルバム「HOLIC」をリリースした。

昨年6月にテレビアニメ「神は遊戯に飢えている。」のエンディング主題歌「I'm GAME!」を発表し、ポニーキャニオンからアーティストデビューを果たした立花。1stアルバム「HOLIC」は「I'm GAME!」「最強?最高!Brave My Heart」「Stella」「Dear my Soleil」などのアニメ主題歌や、彼女が初めて作詞にトライした「この場所で、また」を含む全10曲で構成されている。

音楽ナタリーでは「HOLIC」の発売を記念し、立花にインタビュー。音楽的なルーツや、アーティストデビューのきっかけ、挑戦が詰め込まれたアルバムの制作背景について話を聞いた。また特集の後半には、アルバムの制作に携わった13名の作家たちのコメントを掲載する。

取材・文 / 西廣智一撮影 / 梁瀬玉実

立花日菜の音楽ルーツ

──立花さんは普段、どんな音楽を聴いているんですか?

物心ついて最初にハマったアーティストでいうとSEKAI NO OWARIさんや、コレサワさん、星野源さんですね。いわゆる邦ロックと言われるジャンルをよく聴いていました。アーティストとして活動するようになってからは、シンガーソングライター系の楽曲といいますか、今回のアルバムだと阿部真央さんが作ってくださった「恋のハイテンション」や、4thシングルの「Dear my Soleil」のような曲は歌っていて楽しいです。

──歌うことは昔からお好きでした?

はい。小さい頃からお風呂とかでも常に歌っているようなタイプでした。

──人前で歌うこともあったんですか?

いえ、人前でというよりは、ずっと1人で歌ってました。あ、お母さんには聴かせていましたね(笑)。田舎に住んでいたからカラオケにも車がないと行けなくて。中高生の頃は休みの日にお母さんに朝からついてきてもらって、2人でカラオケにフリータイムで入るんですけど、8時間ぐらいずっと私が1人で歌っていました(笑)。

立花日菜

──声優のお仕事を始めてから人前で歌う機会が増えたと思うのですが、ご自身のオリジナル曲となるとまた勝手も違いますよね。「自分の歌声ってこうなんだな」など何か気付いたことはありますか?

意識してなかったのですが、自分の歌声がかわいらしく聞こえていたのは驚きでした。もちろん、かわいい曲を歌うときはそのイメージに寄せるんですけど、声自体が持っている性質としてかわいさが強く出ているんだなって。

──立花さんはギターも弾きますよね。いつ頃から始めたんですか?

ギターは完全に「けいおん!」の影響で、小学生の頃にお年玉を貯めてエレキギターを買いました。それから少しずつ練習して、中3くらいのときにギター教室に行き始めたんですよ。

──「けいおん!」の影響でムスタングなんですね。いろいろとつながりました。コンテンツからの影響はあるとはいえ、ギターを弾いたり歌ったりと、常に音楽に対しての興味は強かったと。

そうですね。すごく好きだったと思います。

──では、もともとアーティスト活動にも興味があったんですか?

歌うこと自体は幼少期からずっと好きでしたし、キャラクターとして歌うときは「この気持ちを表現したい」という意識で取り組んでいたけど、「立花日菜の音楽を聴いてもらいたい」みたいなことは考えたことがなくて。プロデューサーの方に声をかけていただいてアーティスト活動を始めてから、自分が歌うということをじっくりと考えるようになりました。

アーティストとしての自覚

──立花さんがさまざまなコンテンツで歌声を披露した結果が、プロデューサーさんからのオファーにつながったわけですね。

「CUE!」という作品でAiRBLUEというユニットを組んでいて、そのときにお世話になった方が、アーティスト活動のプロデュースをしてくださっているんです。当時の活動が何か心に届いていたのかなと思うと、すごくありがたいですね。

立花日菜

──思いがけないオファーだったそうですが、実際に「アーティスト活動をやってみよう」と思えたのには何かきっかけが?

アーティストデビューのお話が事務所に届いたとき、自分が参加しているコンテンツの大きなライブの直前だったんです。マネージャーは私が何か悩み事があると目の前のお仕事に集中できなくなると知っているので、デビューのことはまったく聞かされてなかったんですよ。ライブが終わったあとにやっと教えていただいたのですが、その頃には「あと3日で決断してください」という状況で(笑)。

──なるほど(笑)。

1stシングルにタイアップが付いていたこともあって、早めに制作に入らないといけなかったみたいなんです。私としても挑戦したい気持ちはあったので、一旦「やります」とお返事をして、あとから気持ちを整理していきました。

──昨年6月にシングル「I'm GAME!」でアーティストデビューを果たしましたが、作品を重ねていく中で気持ちが固まっていったと。

そうですね。1つひとつの作品としっかり向き合っていたつもりだったけど、3rdシングル「Stella」(2025年2月発表)のリリースイベントをやっていた時期までは、正直自分がアーティストとしてどんなことをやりたいのか固まっていなくて。ファンの方から「アーティストデビューした実感は湧きましたか?」と聞かれても、「いやあ、まだです」と答えていたぐらいフワッとしていました。でも、4thシングル「Dear my Soleil」(2025年5月発表)が発売される頃にはこのアルバムの制作が決まっていて。その前後に自分のライブだけでなく、ほかのアーティストさんもいるイベントにも出させていただくようになり、「アーティストとしての自分を観に来てくださる方がこんなにもいるんだ」と実感したんです。その頃に「もっとこういうふうに楽しんでもらいたい」という、アーティストの視点が自分の中に芽生えたように思います。

立花日菜

挑戦が詰まった1stアルバム

──これまでのリリースはタイアップありきで制作された楽曲が中心だったかと思いますが、1stアルバム「HOLIC」に収録される新曲はノンタイアップとあって、アーティストとしての自分と向き合うきっかけになったのでは?

そうですね。「HOLIC」はかわいらしさを押し出したコンセプトになっていて、ファンの皆さんも楽しみにしてくださってるようでうれしいです。

──実際にアルバムを聴かせていただくと、とてもバラエティ豊かな作品だと感じました。序盤はかわいらしさに満ちあふれていますが、中盤から後半にかけてはいろんな色の楽曲が並んでいて聴き応えがあります。

通して聴くと、いろんな表情のあるアルバムですよね。

──新曲に関して、立花さんの意見はどの程度反映されているのでしょうか?

アルバムのコンセプトを含め打ち合わせをしたときに、「HOLIC=中毒」や「聴く人を虜にさせたい」というテーマが決まって。そこから各曲のイメージをプロデューサーさんと一緒に話し合ったんですけど、7割ぐらいはプロデューサーさんのアイデアを採用させていただきつつ、私からは自分の作詞曲を入れたいということと、「Honey Bee」でポエトリー調のラップに挑戦してみたいということを提案させていただきました。

──挑戦の部分に立花さんのアイデアが反映されているんですね。そう考えると、アーティストとしての自我が今まで以上に伝わる作品でもあると。

そうですね。新しいことに挑戦したい気持ちや、「私がこれをやったらどうなるんだろう?」という好奇心が自分から湧いてくるのは、以前にはなかった感覚だと思います。もちろん、これまでに制作したアニメのタイアップ曲もすごく好きだけど、自分の色を前面に打ち出せるという意味ではより新鮮さが伝わる内容になったと思います。

アルバム全体を支える阿部真央提供曲

──アルバムのオープニングを飾る「ラミラミ♡」や「Pink Twinkle Wink」は、4thシングルまでのかわいらしいテイストをより強めた作風です。

めちゃめちゃかわいくて大好きな2曲です。「ラミラミ♡」はファンタジーの世界観が軸にあって、コード進行も特徴的で音がちょっと不思議なところに行ったりする、夢の中にいるようなムードがあってお気に入りです。「Pink Twinkle Wink」に関してはド直球でかわいくて、かわいすぎて胸焼けするぐらいピンクな感じ(笑)。同じかわいい系統の楽曲ではありますが、それぞれテイストが違うので聴き比べていただきたいです。

──「ラミラミ♡」はサビのメロディの動き方が絶妙で、レコーディングが難しかったのでは?

難しかったです(笑)。「おとぎの国に迷い込んだアリスかシンデレラか」という歌詞の通り、本当におとぎの国に迷い込んだようなメロディですよね。でも、淡いパステルの色味というよりは少し毒々しい感じもして、「HOLIC」という作品の1曲目にふさわしい楽曲になってると思います。

立花日菜

──かと思えば、阿部真央さん提供の「恋のハイテンション」のような、ロック的な芯の強さを感じさせる曲もあります。

「恋のハイテンション」は、最後にレコーディングした曲なんですよ。なんとなくアルバムの全容は見えていたんですけど、この曲をレコーディングしたことで全体が締まった感じがして。曲順的には4曲目だけど、このアルバムのベースの部分を支えてくれていると思います。

──阿部真央さんらしいメロディラインの曲ですよね。

この曲に関しては阿部真央さんとどういう曲にしたいかをミーティングさせていただいたんですけど、「縦でリズムを取る楽曲を歌いたいです」とお伝えしたら、みんなが口ずさめるようなキャッチーなフレーズを作ってくださいました。阿部真央さんらしさも詰まっていて、すごくうれしかったです!

可能性を広げてくれた楽曲たち

──阿部真央さん以外にも、草野華余子さんや畑亜貴さんなど非常に豪華な作家陣が参加されています。

ありがたいことに収録された10曲すべて違う作家さんに作っていただいて、とても贅沢な1枚になりました。どなたに楽曲制作をお願いするかに関してはプロデューサーさんから提案していただいたんですけど、私自身プロデューサーさんの作る音楽をすごく信頼していて。新曲のデモが届くたびに「ここにどうやって私の色を加えていこうか」と想像するのが楽しみでした。

──プロデューサーさんとしても、これまでのアニメタイアップのシングル曲からどう色を広げていくか、いろいろ考えながら新曲を制作していったんでしょうね。

3rdシングルのカップリングに入っていたヒゲドライバーさん作曲の「コントロールキー・コンジャンクション」は、ライブで披露したときにすごくウケもよかったので、そういったこともこの「HOLIC」には反映されているんだろうなと思いますし、4thシングルのカップリング「わたしクエスト」のカッコいい感じも今回の「Unbalance Addiction」につながっていると思います。今まで歌ってきたシングル表題曲はもちろんだけど、カップリング曲でいろいろ試してきたこともアルバムの可能性を広げてくれたのかなと思っています。