「『陳情令』コンサート~Japan Special Mix Edition~」特集|ライタートークで紐解く作品の魅力

2020年に日本初放送された「陳情令」は、墨香銅臭の小説「魔道祖師」をもとに、シャオ・ジャン演じる快活で自由奔放な魏無羨(ウェイ・ウーシエン)とワン・イーボー扮する無口で戒律を重んじる藍忘機(ラン・ワンジー)の強い絆を描いた中国ブロマンス時代劇。

同作のキャストがタイ・バンコクと中国・南京で行ったファンミーティングとコンサートを編集した「『陳情令』コンサート~Japan Special Mix Edition~」と、その舞台裏やドラマでの役作りの過程などを記録した「『陳情令』スペシャルドキュメンタリー」が2月19日にWOWOWで放送・配信される。

中国での再生回数が100億回を突破し、世界中でファンを増やし続けている「陳情令」。その魅力を紐解くべく、映画ナタリーでは長年中華エンタメを追い続けてきたライターの小俣悦子、熊坂多恵、林穂紅の座談会を実施。コンサート、ドキュメンタリーに込められた作り手の並々ならぬ熱量とは?

取材・文 / 金子恭未子

「陳情令」ストーリー

五大世家(藍氏、江氏、聶氏、温氏、金氏)が世の秩序を治める中、快活で何ものにも縛られない自由奔放な魏無羨(ウェイ・ウーシエン)と無口で戒律を重んじる藍忘機(ラン・ワンジー)が出会う。対照的な2人は偶然にも藍氏の禁地へ足を踏み入れ、藍氏が代々守ってきた秘密を知ることに。正義のため力を尽くすことを誓った2人は事件を解決していくうちに絆を強めていくが、罪を被せられた魏無羨は断崖から身を投げ、そのまま消息を断ってしまう。それから16年後、呪術によってよみがえった魏無羨は藍忘機と再会。新たな事件の真相にたどり着いた2人は、それが16年前の忌まわしい過去につながることに気付く……。

魏無羨と藍忘機に吸い寄せられてしまった(小俣)

──今回はWOWOWで2月19日に初放送・配信される「『陳情令』コンサート~Japan Special Mix Edition~」と「『陳情令』スペシャルドキュメンタリー」を皆さんに観ていただきました。感想を伺う前に、まずはドラマ「陳情令」との出会いからお聞きできればと思います。

小俣悦子 私はメーカーさんに仕事でご挨拶に行ったときに「今度こんな作品をやるんですよ」と紹介されたのが「陳情令」との出会いだったんです。カラーコピーされた作品のビジュアルを何気なく見せてもらったんですが、シンプルでスタイリッシュで、こんな素敵なものがあるんだ?と衝撃でした。中国時代劇のものとしては今まで見たことのないビジュアルで。

林穂紅 コピー用紙でも際立つ美しさだったということですよね。

小俣 そうなんです。作品の内容はわからないのに「こんな素敵なビジュアル、表紙にしたい!」と思って。編集の仕事をしていてそんなことは初めてだったんですが、とにかくシャオ・ジャン演じる魏無羨(ウェイ・ウーシエン)とワン・イーボーが演じる藍忘機(ラン・ワンジー)の美しさに吸い寄せられてしまって。その後、実際「陳情令」を表紙にして、特集したムック本を作りました。

「陳情令」ビジュアルより、左からワン・イーボー演じる藍忘機(ラン・ワンジー)、シャオ・ジャン演じる魏無羨(ウェイ・ウーシエン)。©2019 Shenzhen Tencent Computer Systems Company Limited

「陳情令」ビジュアルより、左からワン・イーボー演じる藍忘機(ラン・ワンジー)、シャオ・ジャン演じる魏無羨(ウェイ・ウーシエン)。©2019 Shenzhen Tencent Computer Systems Company Limited

──圧倒的ビジュアルに一目で魅了された人も少なくないと思います。

 私に「陳情令」を薦めてくれた人も、それまでまったく中国ドラマに興味がなかったんですが、日本初放送のタイミングでたまたま予告編を目にしてあまりにもきれいで観てみようと思ったらしいんです。その人に「6話まで観て!」って言われて、その通りにしたらたちまち陥落しました(笑)。

熊坂多恵 私は入りが遅くて「『陳情令』がものすごい!」と聞いてから観たんです。自分が今まで紹介してきた作品とはまったく違うタイプの中国ドラマだなというのが第一印象で。正直、最初はホラーっぽくて、ちょっとグロテスクな描写もあるし、武侠ドラマだから人はいっぱい出てくるし、みんなどこで盛り上がっているんだろう?と思ったんです。でも物語の中で魏無羨と藍忘機の関係が動き出すとどんどん面白くなって。ああ、美しいな……と(笑)。

小俣 導入部分は少し複雑ですよね。いきなり戦闘シーンから始まるし、「どうなってるの? この設定は!?」ってところから入って。でも、魏無羨と藍忘機の絆が強くなっていく過程を追っているうちに、世界観がつかめてくる。そのうち、2人の幸せなシーンが続くと、私は今こんなに浮かれているけど、またドーンと突き落とされるんじゃないか?と思うようになったり。気付いたら最終話で、50話もあったっけ?って。

 けっこうしんどいドラマですよね(笑)。

──1回観たあとに、また1話から観ると違ったしんどさに気付くこともあってはっとさせられます。

小俣 すごくいろんなものが詰め込まれた作品なので、一度では観切れないんですよね。

 原作由来のものも大きいと思うんですが、すごく力のある脚本ですよね。50話、最後まで飽きさせず見せ切るドラマ。登場人物1人ひとりが立っていて群像劇としても面白い。作品を観終わったあとでもこのキャラクターはこんなふうに生活してるんじゃないか?って想像する楽しさがありました。

熊坂 ブロマンスドラマは妄想をかき立てられる余白がある点が魅力ですよね。信じ合い互いに命を懸け合う姿を時代劇なら無理なく描けるので、「陳情令」は美しい男性が強い絆で結ばれる様子を究極的に楽しめるドラマなのかもしれない。

「陳情令」 ©2019 Shenzhen Tencent Computer Systems Company Limited

「陳情令」 ©2019 Shenzhen Tencent Computer Systems Company Limited

 これまでの武侠作品では兄弟のような関係性として処理されていたものが、もう少し繊細な感情を丁寧に描くようになったことで、中国ブロマンスならではの魅力が生まれましたよね。

例えば最初にこのドラマを観たとき、主人公の2人がお互いを魏嬰(ウェイ・イン)、藍湛(ラン・ジャン)と呼び合っているのがすごいなと思ったんです。これは親とかかなり親しい人しか呼ばない名前。戒律を重んじる藍忘機のような人は、かしこまって相手のことを名前で呼んだりしないはずなのに、魏無羨のことだけは、蔵書閣で初めて名前を口にしたときから魏嬰と呼んでいる。だから表にはまったく出さないですけど藍忘機にとって魏無羨は最初から特別な人だったのではないかなというのが伝わってきます。

──そういう描写から2人の特別な絆を感じ取ることができるんですよね。

小俣 脚本、美術、衣装、ビジュアル、そしてキャスティング、それぞれ細部までこだわっているから物語の余白が生まれるんですよね。どこかで手を抜いていると入り込めなくなってしまう。「陳情令」はそういう意味で隙のない作品。女性キャラクターの配置の仕方も絶妙ですよね。

 そうなんですよね。江厭離(ジャン・イエンリー)も温情(ウェン・チン)も姉なので、弟たちのかわいらしさが爆発しているドラマでもあると思います。

「陳情令」より、左からシュエン・ルー演じる江厭離(ジャン・イエンリー)、シャオ・ジャン演じる魏無羨(ウェイ・ウーシエン)。©2019 Shenzhen Tencent Computer Systems Company Limited

「陳情令」より、左からシュエン・ルー演じる江厭離(ジャン・イエンリー)、シャオ・ジャン演じる魏無羨(ウェイ・ウーシエン)。©2019 Shenzhen Tencent Computer Systems Company Limited

「陳情令」の世界観が反映されていて素敵なコンサート(林)

──魏無羨と藍忘機の関係性に多くの視聴者が心をつかまれています。

小俣 魏無羨は自分の正義を頑なに貫こうとするキャラクター。そんな彼を心配しながら見守る藍忘機の気持ちがどんどん熱くなっていくのを観ていると、こちらまで熱くなってしまって。

熊坂 正反対のキャラクターが反発しながらも距離を縮めていくというのは王道の展開ですよね。「陳情令」もそういった魅力はたっぷりですが、魏無羨はすごく陽気で明るく見せているけれど孤独な人で、藍忘機も回想シーンの幼い頃の様子などを観ても心の奥に寂しさを抱えている。対照的なように見えて、実は似ている2人だと思うんです。

 そうなんですよね。外側に見せている性格は正反対なのに、中の部分はそっくりなところに惹かれます。演じているシャオ・ジャンとワン・イーボーが似ているわけではないんですが、ふとした瞬間にどっちかな?と思うことがあって、魂が似ている感じがする。

「陳情令」 ©2019 Shenzhen Tencent Computer Systems Company Limited

「陳情令」 ©2019 Shenzhen Tencent Computer Systems Company Limited

「陳情令」 ©2019 Shenzhen Tencent Computer Systems Company Limited

「陳情令」 ©2019 Shenzhen Tencent Computer Systems Company Limited

小俣 2人をキャスティングしてくれたことに感謝ですよね。魏無羨、藍忘機はこの2人しか考えられない。

熊坂 シャオ・ジャンとワン・イーボーはビジュアルも相性も奇跡の組み合わせですよね。もしかしたら2人の実年齢に差があったのもよかったのかもしれない。2人とも目で語ることができる役者さんなので、セリフのないシーンがとても好きです。

小俣 2人とも華がありますよね。今回コンサートを観て、改めてそう思いました。

──皆さんにはタイ・バンコクと中国・南京で行ったファンミーティングとコンサートを編集した「『陳情令』コンサート~Japan Special Mix Edition~」、その舞台裏やドラマでの役作りの過程などを記録した「『陳情令』スペシャルドキュメンタリー」をひと足早く観ていただきました。

「『陳情令』コンサート~Japan Special Mix Edition~」より。© 2021 NewStyle Media. All Rights Reserved

「『陳情令』コンサート~Japan Special Mix Edition~」より。© 2021 NewStyle Media. All Rights Reserved

小俣 見どころしかなかったです。今回、日本放送用に編集されているということなんですが、例えば1曲流れる間にもいろんな映像が挟み込まれていて、細かいところまで拾ったり、かなり凝ってきれいに作られているんじゃないかなと思いました。日本のスタッフの熱い思いを感じましたね。

熊坂 3公演ミックスだから、映像が切り替わると衣装や髪型が変わっていて、楽しかったですね。ドキュメンタリーのほうもリハーサルの様子などが観られて萌えました!

 「陳情令」の世界観が反映されていて素敵なコンサートでしたね。舞台に立つ人がそれに負けない美しさで。古装姿を見慣れていたので、キャストたちが、現代にタイムスリップしてきたみたいな楽しさもありました(笑)。何より、キャスト、スタッフ、作品に関わるすべての人がこの作品を愛していることがステージから伝わってきてグッときてしまって。

「『陳情令』スペシャルドキュメンタリー」より。© 2021 NewStyle Media. All Rights Reserved

「『陳情令』スペシャルドキュメンタリー」より。© 2021 NewStyle Media. All Rights Reserved

「『陳情令』スペシャルドキュメンタリー」より。© 2021 NewStyle Media. All Rights Reserved

「『陳情令』スペシャルドキュメンタリー」より。© 2021 NewStyle Media. All Rights Reserved

小俣 そうなんですよね。作り手側のドラマへの愛がコンサートにあふれていて、そこが一番胸を打たれました。並々ならぬ熱量というか。コンサートを観るとドキュメンタリーを観たくなるし、ドキュメンタリーを観るとドラマが観たくなるし、無限ループだなって(笑)。

 ドキュメンタリーを観たあとでコンサートを観ると、役者さんたちが役への思いを歌にぶつけているのがより強く伝わって来ますよね。

──「陳情令」には各キャラクターそれぞれにテーマ曲があり、音楽からもぐいぐい作品世界に引き込まれていきます。

「『陳情令』コンサート~Japan Special Mix Edition~」より。© 2021 NewStyle Media. All Rights Reserved

「『陳情令』コンサート~Japan Special Mix Edition~」より。© 2021 NewStyle Media. All Rights Reserved

「『陳情令』コンサート~Japan Special Mix Edition~」より。© 2021 NewStyle Media. All Rights Reserved

「『陳情令』コンサート~Japan Special Mix Edition~」より。© 2021 NewStyle Media. All Rights Reserved

小俣 藍忘機の「忘れない / 不忘」は寡黙な彼の思いが詰まりすぎている。こんなふうに思っているんだなって秘めた思いが伝わってきて、聴いていると胸が熱くなります。

熊坂 私は温寧(ウェン・ニン)がかわいくて好きなんです。だからユー・ビンが歌う「赤子」がお気に入り。ジョウ・シェンの歌う薛洋(シュエヤン)のテーマ「荒城の救い / 荒城渡」も刺さりますよね。あとはやっぱり、コンサートでの藍忘機の「忘れない / 不忘」、魏無羨の「曲尽する陳情 / 曲尽陳情」、そして2人の「忘羨(無羈)」という流れが本当にいい。

「『陳情令』コンサート~Japan Special Mix Edition~」より。© 2021 NewStyle Media. All Rights Reserved

「『陳情令』コンサート~Japan Special Mix Edition~」より。© 2021 NewStyle Media. All Rights Reserved

「『陳情令』コンサート~Japan Special Mix Edition~」より。© 2021 NewStyle Media. All Rights Reserved

「『陳情令』コンサート~Japan Special Mix Edition~」より。© 2021 NewStyle Media. All Rights Reserved

小俣 「忘羨(無羈)」はもう聴くだけでぶわっと来ちゃう。体が変な反応してしまう(笑)。この感情は口では言い表せない。何がかき立てられるのかも、もはやわからないんですけど、胸がざわざわします。

 わかります。「忘羨(無羈)」は歌詞がよくて泣いてしまいますね。シャオ・ジャンとワン・イーボーが歌うと魏無羨と藍忘機、2人の曲として聞こえるんですが、ジョウ・ビーチャンが1人で歌うバージョンを聴くと魏無羨の帰りを16年間待ち続けた人の曲にも聞こえます。

2022年2月11日更新