僕らにとって基地は生まれたときからそこにあるもの
──沖縄以外の地域に住んでいると、同じ日本でありながら、沖縄の実情が見えづらい部分もあります。その点についてはどう思いますか?
「米軍基地をほかの場所に作ればいい」という意見が劇中にも出てきましたが、実際に沖縄でずっと議論されていることなんです。でもいまだに終着点が見えないので、正直、平成生まれの僕たちの世代は辟易しているところもあるんです。僕らにとって基地は生まれたときからそこにあるものですし。でも「宝島」を観て、改めてその問題について考えさせられました。「こんな野蛮なことを続けるなら、それはもう人間じゃないよ」と訴えるグスクに対し、「それが人間やさ」と非情に返すレイのセリフはずっしりきましたね。基地問題を次の世代にも引き継いでしまうと思うと後ろめたさを感じますが、もし強力なリーダーシップを持つ人が現れたら、よい形で一気に舵を切れたりするのかなという期待もあります。
そういえば先日、久々に嘉手納基地の近くに行ったとき、車がエンストしてしまって基地の周りを歩いたんですが、めちゃくちゃデカいなと改めて思いました。嘉手納基地を1周してみたら、こんなに大きな基地が沖縄にあるというのがどういうことか実感できるんじゃないですかね。やっぱり沖縄はアメリカにとっての“宝島”なんだなって思いました。
──沖縄の仲間や家族とは、この映画を通してどんな会話をしてみたいですか?
沖縄の若い世代が「宝島」を観て「50~70年前の沖縄はこうだったんだ」と知ったときに、どんなことを思うのか聞いてみたいですね。僕は祖母たちから「あの頃の沖縄は外国人でいっぱいだったよ」という話をよく聞いて育ってきたし、自分の母もハーフなので深く刺さりました。
──沖縄出身ではない方たちには、「宝島」をどんなふうに受け取ってもらいたいと思いますか?
沖縄のリゾートとしての魅力を好きだと言ってくれるのはすごくうれしいんですが、目をそらすことのできない現実も確かにあるので、頭の片隅に入れておいてほしいですね。いろんな地域の、いろんな立場や考えの人たちが沖縄に遊びに来てくれますが、「ごちゃまぜ」という意味の沖縄のチャンプルー文化がどういうふうにできていったか、受け止めるきっかけになる作品なんじゃないかと感じています。
「宝島」をきっかけに新たな歌詞が生まれる予感も
──CHICOさんの楽曲には沖縄の文化や歴史が反映されたものが多くありますが、どんな思いがありますか?
僕は自分が育ってきた土地や周りの友達、自分自身のことをずっと歌ってきましたが、「宝島」を観て改めて身が引き締まりましたし、これまでとは違う視点の歌詞が生まれる予感もあります。沖縄出身のラッパーの先輩、RITTOさんの「ミライニナイ」という曲の歌詞に、こういうフレーズがあって。
「いつの時代も困難 王朝からゲットー、今はリゾート 噛めば噛む程味が消えるの… 隠し味政府のスパイス オーマイゴット」
王朝から植民地、そしてリゾートに変わっていった沖縄の流れが4小節に凝縮されているんですよ。「隠し味政府のスパイス オーマイゴット」という部分は、「宝島」に登場する内地からやって来た通訳(中村蒼演じる小松)の存在を連想させるし。ほかにもいろいろと「宝島」のシーンを思い起こさせるフレーズですよね。僕との「Orion's belt feat. RITTO」という曲もありますが、その歌詞では「宝島」で描かれている時代よりもっとあとの沖縄のことを歌っています。
──Awichさん、OZworldさん、唾奇さんとの、沖縄出身のラッパー4人による「RASEN OKINAWA TOUR」が7月から8月にかけて開催されました。どんなツアーになりましたか?
大阪・東京・福岡・愛知を回りましたが、どの会場でもお客さんたちの熱気がすごくて。遠く離れた沖縄でやってきた音楽が、内地の人にこんなに届いているんだなと改めて実感しました。すごく楽しかったです。
──東京公演にはMONGOL800のキヨサクさんも登場しましたよね。
はい。そこでキヨサクさんが歌った「琉球愛歌」は僕が高校時代にバンドでコピーした曲だったので、うれしさもひとしおでした。
新曲「HOOD HUMOR」に込めた沖縄へのリスペクト
──ジャンルは違えど、沖縄出身のミュージシャン同士の結び付きはとても強い印象があります。
沖縄に住んでいると車で隣の県に行けないし、新幹線に乗ってさくっと別の場所に行くこともできないので、島から出るときは何かしら強い気持ちを持っていることが多い。ラッパーだろうがバンドマンだろうがそれは同じだと思うので、もしかしたらほかの土地より結び付きが強いのかもしれないです。RITTOさんのファーストアルバムの帯はキヨサクさんが書いていますし。僕もヒップホップに限らず、沖縄の先輩ミュージシャンへのリスペクトは強いです。2017年から渋谷のHARLEMで沖縄出身のヒップホップアーティストが出演する「AREA47」というイベントを開催しています。今回の「RASEN OKINAWA TOUR」では、自分も含む沖縄のアーティストがこの10年間積み重ねてきたことが実ってきているなと感じました。沖縄だけでなく、ヒップホップシーンが変わったことも影響していて。姐さん(Awich)はもちろん、BAD HOPやCreepy Nuts、JP THE WAVY、みんなでやってきたことがちゃんと形になっているんだなって。
──CHICOさんの楽曲の中で、特に沖縄への思いをうまく表せたと感じるリリックはありますか?
新曲の「HOOD HUMOR」のサビで
「染み付いてるHOODのHUMOR 足着いてるティンバーのブート 踏み込んだら一歩で速攻 俺たちのルート こっからゼッツォ」
っていうフレーズがありまして。沖縄は空港に降り立った瞬間から内地とは空気が違うし、「今はもう俺らの場所だよ」という思いを込めています。僕たちはモンパチキッズだし、D-51キッズだし、ORANGE RANGEキッズです。この曲を聴いている今のキッズにも、沖縄のミュージシャンへのリスペクトが受け継がれていくっていうことを書いたフレーズです。ぜひ聴いてみてほしいです。
プロフィール
CHICO CARLITO(チコカリート)
1993年生まれ、沖縄県那覇市出身のラッパー。2012年に友人に誘われてMCバトルの大会を観たことがきっかけとなり、ラップを始める。2013年に上京し、ラッパーとしての活動を本格始動。2014年にMCバトル大会「戦極MC感謝祭 ミュージックビデオ杯」で優勝し、オリジナル曲「C.H.I.C.O.」をミュージックビデオで発表した。2015年に行われたMCバトル大会「ULTIMATE MC BATTLE GRAND CHAMPIONSHIP」で優勝。2016年4月より約1年間、テレビ朝日系のラップバトル番組「フリースタイルダンジョン」に初代モンスターとしてレギュラー出演した。2016年にファーストアルバム「Carlito's Way」、2022年にセカンドアルバム「Sandra's Son」、2023年にサードアルバム「Grandma's Wish」をリリース。YouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」での「Let Go feat. 柊人」のパフォーマンスも話題になった。
CHICO CARLITO | INSENSE MUSIC WORKS
CHICO CARLITO (@unten1993) | X